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小粒で青い畑の宝石 沖縄在来大豆 オーヒグーの歴史を島豆腐で味わう vol.2

日本の南端でありながら、台湾から続く琉球弧文化圏に位置する沖縄。その生活文化や精神文化は、国連から先住民族に認められるほどの独自性を持っています。HAKOBUNEプロジェクトの記念すべき創刊号は、沖縄で食べ継がれ、今ふたたび光を浴びつつある在来大豆「オーヒグー」の物語をお届けします。

HAKOBUNEプロジェクトとは?
スローフードインターナショナルおよびスローフードニッポンが展開する「味の箱船プロジェクト」に登録された希少な食材や食文化を、より多くのかたがたとともに愛で伝えるダイニング&メディアプロジェクトです。「味の箱船プロジェクト」は、世界中で消えてしまいそうな伝統食、伝統知を文字に起こして貯めておく、「絶滅危惧食品リスト」です。味の箱船フォトギャラリーはこちら


《HAKOBUNE 創刊号》
Episode1
食べ継いできた、地域の誇りを未来へ
繁多川公民館 あたいぐわ〜プロジェクト

Episode2
挽いてみた 絞ってみた 茹でてみた
オーヒグーゆし豆腐のワンデイ・ダイニング

Episode3
つくってくれて 食べてくれて ありがとう
オーヒグーを味わい尽くすコミュニティの息吹

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Episode2
挽いてみた 絞ってみた 茹でてみた
オーヒグーゆし豆腐のワンデイ・ダイニング

2020年1月26日(日)、那覇市繁多川公民館にSlow Food Ryukyuと在来大豆オーヒグーを愛でるメンバーが集まりました。目当ては、公民館に保管された貴重なオーヒグーを使って、ゆし豆腐をつくり、食べること。大人も子どもも一緒に手を動かし、みんなでできたてのゆし豆腐に舌鼓を打つ、ほっこり幸せな午後になりました。

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繁多川出身で、オーヒグーをテーマにマーミ(豆)フェスタを手がける大城雅史さん(左)の協力を得て、Slow Food Ryukyuチームが企画しました。
Slow Food Ryukyu 北林大(中央左)
Slow Food Ryukyu 山田沙紀(中央右)
やんばる野外手帖シェフ 満名匠吾さん(右)

土地の味を、持ち寄って

オーヒグーゆし豆腐のワンデイ・ダイニングは、ゆし豆腐をつくって食べるだけでなく、繁多川や沖縄に暮らす人々が、それぞれの家庭の味を持ち寄ることで、土地の味をたしかめあい、わかちあう小さな祝祭です。

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繁多川公民館で行われた第一回 HAKOBUNE dining
「オーヒグーゆし豆腐のワンデイ・ダイニング」

参加者は、ふだん食べているお料理一品と、おうちにある沖縄伝統焼き物「やちむん」を持ち寄って、一緒に食卓をつくりました。

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お料理と自分の名前を葉っぱに書いてディスプレイ

石臼をぐるぐる、絞り袋をぎゅうぎゅう

ゆし豆腐づくりは、一晩、水につけた大豆とオーヒグーを石臼で挽き潰すところから始まります。

繁多川公民館で継承している知恵を借り、オーヒグーと一般的な大豆(フクユタカ)の割合を3:7で配合。

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全体の3割にオーヒグーを配合

石臼の上にあいた穴から、柔らかくなった豆と水をいい塩梅で投入しながら、二人がかりで石臼をまわします。

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すると、臼と臼の間から、泡立った乳白色の液体があふれ出てきます。

ミキサーで砕く方法もあるけれど、石臼のほうが断然、香り高く仕上がるそう。

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ここで水が少なすぎるとうまく流れ出ず、多すぎると水が足りなくなります。ゆし豆腐がうまく固まる濃度の豆乳をつくるため、すべての工程で使う水の総量を計ってから始めます。乾燥大豆300gに対して水1500ccがその分量。繁多川公民館のWEBサイトにレシピが掲載されています。

臼の肌を伝って滴る乳白色の液体を、下に置いたたらいに集めます。ひとしずく、ひとしずく。根気のいる作業も、みんなで交代しながら進めると丁度いい。

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すべての豆を挽き終わったら、仕事場は石臼からたらいへと移ります。豆を挽いた乳白色の汁を、目の細かい布でつくられた絞り袋に入れ、ぎゅうぎゅうと手で絞っていきます。こうして絞り出されたのが豆乳。袋に残った絞りかすが、おからです。

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この絞り袋も繁多川の伝統。代々、受け継がれている作り方を守って手作りされています。一度絞ったあと、水の入ったたらいでもう一度絞り、おからから豆乳を絞り切る「二度絞り」は、繁多川ならでは。二度絞りの水も、水の総量に含みます。

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また、県外で一般的な「煮取り法」では、大豆を挽いた汁を一度温めてから豆乳とおからにわけますが、沖縄では温めずに絞ります。この「生絞り法」では、同じ一丁の豆腐をつくるのに「煮取り法」よりもたくさんの大豆を使うことに加え、大豆の風味が豆乳に多く残ります。島豆腐が濃くて美味しい秘訣は、こんなところにありました。

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絞りきった豆乳を鍋にうつし、コトコト火にかけます。

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どの温度でにがりを打つかが、つくり手の腕の見せどころ。沸騰して泡の層ができあがったタイミングを狙うと、うまく固まるようです。

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なお、昔はにがりではなく海水を使っていました。この時の味を再現するため、にがりと水に加えて、塩を配合するのが繁多川流です。

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にがりを打ったあと、ヘラでゆっくりと円を描くようにかき混ぜながら待っていると。

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ある瞬間にふわりと、白い塊が浮かび上がります。これが、ゆし豆腐です。オーヒグー生産者の久高さん(vol.1にリンク)が、子供の頃はめったに食べられず、ご褒美に出たときは美味しくて7回おかわりしたという、ご馳走が完成しました。

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「にがりが多すぎると、固まりすぎるし、にがりの味になってしまう。ほどよいにがりの量で、ふわっと柔らかく、でもちゃんとつながっているゆし豆腐ができたら、成功です。」(山田沙紀)

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おからは、できたてホカホカのまま満名さんの手でスパイスや新玉ねぎの素揚げと炒め合わされ、スパイシーおからに創作されました。

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みんなで、いただきます!

子どもたちは、豆腐名人!?

石臼で豆を挽いているとき、日曜日の公民館に遊びにきた繁多川の小学生が、ふらりと顔を出しました。授業や地域のイベントで体験したことがある2人が、慣れた手つきで石臼をまわす様子に、大人たちは感心しきり。

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最年少参加者は、3歳の男の子。大人や大きなお子さんに混じって、一生懸命絞り、立派な戦力になってくれました。

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「豆腐がうまく固まる」ことは「実が成る」こと

沖縄では、豆腐は縁起物として祝いの席の重箱料理にも使われます。それは、豆乳から豆腐が固まり出る瞬間を「実が成る」と表現し、成功に見立てているから。

また、ゆし豆腐をつくるときは、焦げないように弱火でかき混ぜながら火を入れますが、あえて焦がして香りをつけた「地釜豆腐」というバリエーションもあり、ふつうにスーパーで売られています。

さらに、全国的に名の知られた沖縄料理「ちゃんぷるー」は、琉球料理の定義では、豆腐が入った炒め物を指します。

「豆腐屋さんが行商するのは、型豆腐だけ。だから、朝4時に起きてお鍋を持って豆腐屋さんまで行き、すぐに売り切れてしまうゆし豆腐を買ってくるのが仕事だった」と思い出を話すおばあもいます。

豆腐づくりが、いかに沖縄のひとびとの暮らしに織り込まれてきた営みか、その親密さが感じられるエピソードの数々ですね。

日本全国、かつては300種類もの在来大豆が栽培されていたとも言われています。読者のみなさまの地元にも、知られざる大豆文化、豆腐文化が、歴史の木陰で息をひそめているかもしれません。

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ゆし豆腐づくりをリードしたSlow Food Ryukyuの山田沙紀は、Terra Madre(※)でもゆし豆腐づくりのワークショップをしました。「地域に根ざして食文化を掘り下げて、守り受け継ぎながら表現し続けると、同じように活動している他の地域とひとつずつつながっていきます。そうしてできあがる、つながりあった地域の集合体が、私にとっての世界です。地域に根差そうとすればするほど、世界とつながる。そんな感覚を持っています」と話します。

オーヒグーは、繁多川という地域の食文化を掘り下げ、守り受け継ぎながら表現しようとする人たちの手で、世界へ届く食材になるかもしれません。vol.3では、そんな彼らの物語をお届けします。



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