映画「ハンニバル・ライジング」感想 ※ネタバレには一切配慮していません※

ボルティモアのアヴェンジャー

真名:ハンニバル・レクター
宝具:高貴なる讐餐(ハンニバル・ザ・カニバル)
 敵単体に大ダメージ
 「人」属性の敵に確率で即死効果
 即死成功でHP回復
保有スキル:
 人体理解(自身に[人型]特攻・特防状態を付与)
 正気喪失(敵全体に恐怖状態を付与、防御力をダウン)
 心理誘導(味方単体にターゲット集中状態と攻撃力アップを付与)

 多分クラリスがルーラーで、そうするとウィルがムーンキャンサーになるんだけどムーンキャンサー…ムーンキャンサー…?CVは井●和●さんでオナシャス!
 で、なんでハンニバル・レクターがアヴェンジャーかって言うと、両儀式によって「(アヴェンジャークラスとは)愛が憎しみを語り、そのまた逆として憎しみが愛を語る存在」というのが提示されていて、「ハンニバル・ライジング」にて明かされたハンニバルの生い立ち及び人肉嗜好の形成に深く関わったのが「溺愛していた妹の死に対する復讐」だからなんです。

「愛」とは何であるか?

 これについては「ライジング」ラスト近くで他ならぬグルータスが明言している。

グルータス「お前にどうしても一つだけ訊いておきたい。もし飢えていたのがお前の妹だったら、お前はオレを殺して妹に食わせたか?」
ハンニバル「ああ、そうしただろう」
グルータス「そうだよ、それが『愛』だ。おまえが妹を愛したように、オレはオレを何よりも愛していた。だからお前の妹を食って生きながらえたんだ」

 ちょっと今手元にディスクがないので正確に引用できてないとは思うんですけど、大体こういう感じのやり取りがあった。つまりこの「ライジング」の世界における「愛」とは「他の何を犠牲にしてでも対象が生きて幸せになることを望み、そのためならどんなことでも出来る」という感情を指すことになる。
 グルータスとのこのやり取りを経、さらに「忘れていただけで、実は自分も妹ミーシャの肉を食べさせられていた」ことを告げられたハンニバルは怒りに我を忘れてグルータスの胸(だったと思うけど、原作では顔?)に「ミーシャの『M』」を刻む。

レディ・ムラサキとの決別

 こうしてハンニバルがグルータスを組み伏せている間、船室に乗組員が駆けつけたためレディ・ムラサキは咄嗟に乗組員を殺害してしまう。立ち去ろうとするレディ・ムラサキの背に「あなたを愛しています」と言うハンニバルだが、振り向いたムラサキは「愛に値するものが、あなたにあるの?」と問い、答えられないハンニバルはグルータスの顔の肉を生きたまま貪り、レディ・ムラサキは二度と振り返ることなくその場を立ち去る、というのが「ハンニバル・ライジング」のラストである。
 レディ・ムラサキにしてみれば先祖伝来の刀をリンチ殺人に使われた上に折られ、更生の機会を与えるために何度となくハンニバルを庇って共犯(従犯)者となり、復讐をやめるように繰り返し訴えるも全く聞き入れられず、ついには誘拐されて命の危機にさらされ、挙げ句自分の身を守るためとはいえ人殺しまでするハメになったのだからそりゃあもういい加減付き合いきれないと思うのは当然至極だろう。
 レディ・ムラサキはたしかにハンニバルを「愛して」いた。「これからも生きて、過去に囚われず、幸せになってほしい」と願い、そのために自分の持つ知識を与え、刀の持ち出しを咎めず、アリバイ作りをし、何度も復讐をやめるよう言ったのだ。
 それでもハンニバルは復讐をやめず、レディ・ムラサキの命を危険にさらして彼女自身が殺人を犯さざるを得ない状況にまでした。レディ・ムラサキが差し出した「愛」に、ハンニバルは一度も応えなかった。だからこそレディ・ムラサキは「愛に値するものが、あなたにあるの?(=これ以上あなたの生と未来と幸せを願うべきだと思えない)」と言い、ハンニバルもまたそれを否定できなかったために、かつてのグルータス同様「自分のために」グルータスの肉を生きたまま食べて復讐を果たしたのだ。

「エロス」と「タナトス」とハンニバル・レクターと

 このラストはハンニバル・レクターが完全に「エロス(生、未来、許し、愛、レディ・ムラサキのような高貴な人間の存在に対する希望)」に背を向けて「タナトス(死、過去、怒り、復讐、グルータスのような卑劣な人間の存在に対する絶望)」を選び、「ハンニバル・ザ・カニバル」になった決定的瞬間でもあるのだ。
 ハンニバル・レクターはもはや彼自身を含めたありとあらゆる人の生・未来・幸福を願わない。彼の中にあるのは卑劣な人間の存在とそれを許容する「世間」の鈍感さに対する怒りであり、その裏にある「この怒りを誰かにわかってほしい」という、自己中心的ながら気も狂わんばかりに切実な希求だけである。
 だからドラマ版のハンニバルはアビゲイルを引きずり込みながら最後には殺し、「友達になりたい」と思ったウィルに罪を着せた。原作の「ハンニバル」ラストでクラリスに解けない催眠をかけて自分と同じ食人嗜好にしたことも含め、いずれも動機は「エロス=相手の生と未来と幸せを願うこと」ではなく、「自分の怒りをわかってくれる誰かを得たい=自分の経験及びそこから生じたこの価値観の正当性を誰かに肯定して欲しい=過去への固執=タナトス」だったのではないか。
 そういう意味では映画「ハンニバル」ラストで、クラリスに手錠をかけられながら自分の手を切り落として逃げた(=クラリスを自分の掌中から逃した)のは「ハンニバル・レクターらしからぬ」と言えないこともない。

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