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「月へと向うロケット」ショートショート

私は、月に向かう ロケットに乗っている

ロケットのスロットルは壊れていて

速度を毎秒ごとに加速させていた

このままだと月に衝突するが

私にはどうすることもできない

唯一の問題は

私が世界に縛り付けられていること

つまり

時間と確率で構成された計算上の死が

私に迫っていることだった


しかし

私は月を見ていなかった

ロケット後方から見える

地球の美しさに魅了され

取り憑かれたように

ただ眺めていた


ないものをあるかのように意識を騙すことは珍しいことではない

私はしばしば自分に騙されている

だから世界観からは逃れることができない

しかし

我々の世界観は世界ではない

我々は世界に存在するが

そこに生きてはいない

縛り付けられている世界と

我々の生きている世界観

世界観を幻想だとは言い切れない

我々は世界観の中で生きてしまっているのだ


いよいよロケットが月に飛び込む

世界観がわずかにに揺れる

時間が0となり

確率が100となる時

愛しき地球が私の眼の前から消滅する

まるで映画の時間が終わるかのように


世界観は世界に戻る


身体は砕け

燃焼し

分解して

散らばる


世界投影機があった世界

私はそこを出ていくのだった

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