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初期症状[父親目線の小児がん闘病記] 僕は君を守れるか Vol Ⅰ-1

もう20年も前の事だから全てを覚えているわけじゃないんだ。でも、さすがにあの日の事は覚えている。

あの日、四歳と四ヶ月になる風呂上がりの娘の体を拭きながら、妻が僕を呼んだ。
「ねえ、お父さん、美月(娘)の首のところ、ほらここ、なんか硬くなってる」

娘の首、僕から見て右側が少し盛り上がって見えた。
触ってみると固く、ゴツゴツしていた。
「痛い?」と聞いてみたけれど、娘は首を振った。
「リンパ節のある所だね」そう言いながら、僕は何度もその辺りを撫でたり押したりした。


それと言うのも、僕自身リンパ節が腫れる体質で、子供の頃から何度もそれが原因で高熱を出していたから。同じ体質の人なら分かると思うけど、リンパがはれると、それはもう凄い高熱が出て、二、三日はどうにもならなくなってしまう。
だから娘もその体質を遺伝しるんじゃないかと心配したんだ。

「何か悪い菌でも貰ったかもしれないね、明日朝イチで病院に行こう」その日はそんな感じで、、、まさかそれが大変な病気のシグナルとは思いもしなかったんだ。

翌朝、妻と一緒に美月を連れて、かかりつけのk小児科医院に行った。
k先生は白衣を着ないお医者さん。小柄に黒縁の老眼鏡が、いかにも小児科医って感じで、子供に優しく親には厳しい先生だ。
ウチは二つ上のお兄ちゃんの時から診てもらっていたんだけど、いつ来ても混んでいた。

この日もいつもの様に、先ずは看護師さんに症状を伝えた。
「熱は?」
「それが、一晩経っても平熱なんです。本人も痛いって言わないし」
特に感染症の症状もない娘はそのまま待合で待つ様に言われ、いつもの様に呼ばれるのを待っていた。
「カンノミツキさん!」看護師さんにようやく名前を呼ばれて、僕たちは診察室に入った。

妻が娘の症状を説明する時には、もう先生の触診が始まっていた。
そして、みるみるうちに先生の老眼鏡が曇っていった。
先生は妻と僕の顔を見て話し始めた。
K先生が普段 男親の顔をまじまじと見ることなんて、それまで無かった事だから僕も緊張した。

「僕の見立て違いならそれで良し、ただ、そうじゃなかった場合は、、、、。紹介状を書くから、大きな病院で診て貰った方が良い」
との事で、それ以上の診察はされなかった。
待合室で待っていると、さっきの看護師さんが紹介状を持ってきてくれた。
僕たちが美月の手を引いて玄関を出るとき、先生も後から追いかけて来て
「あっ、慌てなくていいけど、もしかしたら入院になるかも知れないからその用意はしていった方が良い」
とつけくわえた。

「大きな病院じゃなきゃダメな病気ってなに?手術とかするのかなぁ?」
帰路、妻が口を開いた。
もちろん僕も、ハンドルを握りながらその事を考えていた。
思いつく病名が全く無い訳では無かったけれど、余りに非現実的すぎていて、僕は口に出すのをためらったんだ。

この闘病記、
僕は君を守れるか_序章_元疾患編 indexはこちら

僕は君を守れるか_破章_骨髄移植編 indexはこちら

僕は君を守れるか_急章_生体肺移植編 indexはこちら


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