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【ショートストーリー】カスミとミツキ。

「架純の小説、ドラマ化が決まったんだってね!私、主役やりたいなぁ。」と美月がいった。
「美月、活字が苦手だなんて言って私の小説読んでくれないじゃない。」

小学生の頃、太っていて眼鏡をかけていた私は男子からよくいじめられていた。内気な性格だったため女子たちのグループにも馴染めず、一人クラスで孤立していた。小学生にとって生活のほとんどを占める学校生活が楽しくなくて、生きていることさえ辛いと感じていた。そんな私に声をかけてくれたのが美月だった。小顔で手足が長く、黒髪のロングヘアー、整った顔の美人。小学生ながらとても垢抜けていたことを覚えている。スポーツ万能で明るく、誰にでも優しい美月がいつも一緒にいてくれたおかげでいじめられることも徐々になくなって、クラスに溶け込めるようになった。あの時、美月が私に声をかけてくれて友達になってくれたおかげで、私の人生は救われた。今でも付き合いのある友達で唯一の親友だ。
そんな美月は高校在学中にモデル事務所にスカウトされて、モデルとして活動を始めた。いつも明るく輝いてる美月は、地味で暗かった私を照らしてくれる、かけがえのない憧れの存在である。

小さい頃から本を読むのが好きだった私は、物語の世界に生きていた。物語の世界にいる時だけは自由に生きられている気がしたからだ。そんな私は次第に自分の思ってること、感じている世界を小説にしたいと思うようになった。
その夢を美月はいつも応援してくれていた。大学時代、既にモデルとして人気が出始めていた美月はメディアへの露出も増え始め、SNSを中心に若い世代の中でカリスマ的存在になっていた。その頃、美月が私の書いた小説をSNSで紹介してくれたことをきっかけに私の小説は若い世代の共感を生み、その後その小説のヒロインを美月が演じたことによって、私は一気に小説家としての地位を確立することができた。
私の人生は美月とともにあると言っても過言ではないと思ってる。美月がいなかったら、今の私はいない。

その日は、ドラマ化に向けて記者のインタビューに答えていた。
「私、梨村さんの小説のファンなんです。梨村さんの小説によく出てくる、王子様キャラはやっぱり梨村さんの好みの理想像なんでしょうか?」
その通りだった。私の小説は私の理想が描かれている。実在の人物をモデルにすることも多い。今作も主演を務める谷口健太郎をまさにイメージしながら書いた。

17歳の時にはじめて親友を裏切った。
高校時代異性からもててた私は、たくさんの男子から告白されていたがどの子にも興味が湧かなかった。
そんな私が興味をもったのが同学年の瀬戸くんだった。癖っ毛で眼鏡をかけていて、いつも図書館で本を読んでいるようなタイプだった。瀬戸くんの視線の先にはいつも架純がいた。そして架純の視線の先にも瀬戸くんがいた思う。
そのことを知ってから私の心は、ずっと蓋をしていた黒い何かが抑えられなくなった。そして私は女を使ってしまったのだ。それは独占欲だったのだろうか。そんな簡単な言葉では表せない、はじめて感じた、怖くなるような、複雑に入り組んだ感情。愛情とは言えない、そのドス黒い欲望によって私は17歳の少年の身体と心を汚してしまったのだ。

実際にドラマの撮影が始まり、ドラマの告知等が進むにつれて
今人気の若手俳優、谷口健太郎と山田美月の共演に世間は盛り上がった。
やっぱりそうだよね、と心の中で呟いた。美月がこのドラマに出たいと言った時、谷口健太郎の出演が決まっているからだと思った。
私の理想の人の隣には、私なんかより美月の方が似合う。高校時代、私の好きな康史くんが美月と付き合ってると知った時、不思議と悔しくなかった。美月と好きな人の好みが一緒だったことは驚いたが応援したい気持ちの方が強かった。
美月はいつも華やかで輝いているように見えて私の憧れだった。私が思い描いていた、生きてみたかった人生、実現できなかった生き方を私の代わりにしてくれている、そんな思いを投影してしまうような、私にとっての希望の存在でもあった。
そんなかけがえのない存在の美月が、私の描いた物語を演じてくれる。それは親友として、とても誇らしいことであった。

今までたくさんの男たちが私に近づいてきたが、実際どんな男にも興味が湧かなかった。
今作の架純の小説を胸に抱きながら、本棚に並んだ架純の小説、インタビューが載った雑誌を眺めていた。
いつからだったろうか、それは友情ではなくなった。その存在が何よりも愛おしいものになり、誰にも興味を奪われたくなくなった。架純が愛した世界を演じることで架純と一つになることができた気がした。架純が愛したその男たちに愛されることで架純に愛されていると錯覚することができたのだ。私はこれからも私たちの邪魔をするものを退けながら、親友を演じ続ける。


(完)


今回はいつもと違うテイスト?で書くことができました。

自分でもうまくまとめられた気がしたのと、読んでもらった人にすごく褒めてもらえて良かった作品です。


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