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【ショートストーリー】もう一つのチケット。

「いい出会いないかなぁ」と後輩の美香ちゃんが呟いた。
学年1のイケメンに突然告白されるとか街角で運命の人とぶつかって恋に落ちるとか、そんな劇的な出会いはドラマや映画だけの世界だけだ。
現実ではシンデレラにはなれないのだ。
そんな現実を理解しながらも今日の占いの結果に一喜一憂してる自分がいる。


仕事終わりに新しい靴を買いに街に出た。デザインもサイズもピッタリの靴を見つけることができて、上機嫌でお店を後にして駅に向かう途中落ちているスマホを見つけた。運良く無事に持ち主に届けることができて、いいことした気分で普段はなかなか手を出せない高めのケーキを買って帰った。

「それがイケメン王子との出会いだったんだ。それで上機嫌にケーキの写真まで送ってきちゃって。」と舞が言う。舞とのいつものお茶会での会話だ。「イケメン王子だなんて、辞めてよ!」と返す。
舞とは小学校からの幼馴染みで社会人になった今でも月に2回はあう仲だ。
スマホを拾ったその日、交番まで届けようと歩いていると拾ったスマホに着信があった。電話に出ると持ち主からだった。山本浩二と名乗った。近くにいるということで待っていると山本さんがすぐにやってきた。スマホを渡して別れようと思ったら、山本さんからスマホを拾ってもらったお礼をしたいと言われた。いえいえ、そんな大したことしてないですからと丁寧に断ったが、大変感謝している様子でどうしてもということで近くのバーで一杯だけご馳走になってその日は別れた。

その数日後、ヨガ教室の帰りにたまたま山本さんと再会した。前回は気がつかなかったがスラっとした長身に端正な顔立ち、確かにいわゆるイケメンだ。そして服装もオシャレだった。
もしこの後お時間あれば、お食事でもどうですか?と誘われた。ちょうどお腹も空いていたし誰かと話したい気分だったので、ぜひ!と返した。

たまたま拾ったスマホからスタイルのいいイケメンと出会う。これは何かの詐欺にあってるんじゃないかとふと思ったが
そんなことを疑うのが申し訳ないくらい山本さんは誠実な人だった。
そうしたら今度、こんなにいい人がなぜ私と?という疑問が残った。

「それで最近山本さんとはどうなの?」
いつものように舞とのランチをしているときの会話だ。
専ら、最近の私たちの会話は山本さんのことでもちきりだ。
山本さんとは友達以上恋人未満のような関係が続いていた。
「なんか山本さん、いい人すぎてしっくりこなくて。」
「なんて贅沢なこと言ってるの。高学歴で一流企業に勤めてて、英語も堪能でイケメン。それに加えていい人過ぎるなんて、そんな人この先一生出会えないよ。」

私もそう思う。だけど、山本さんとのことは何もかもが眩し過ぎて、現実じゃないような夢のように感じていた。

いつも連れていってくれるちょっと高めのレストランもお洒落なバーもなんだか落ち着かなかった。大衆居酒屋でビール片手に焼き鳥の方が落ち着くけど、そんなこと言い出せなくて背伸びしていた。
贅沢はたまにするからいいのかもしれない、なんて贅沢なことを考えていた。

舞とのランチの帰り、舞が突然足を止めた。
私はこっちかなと舞が呟く。
舞の目線の先を見ると“一等前後賞7億円”という文字が見えた。
次の瞬間には気づいたら舞は窓口の列に並んでいた。
「え、本当に買ったの?」
「うん、7億当ててみせるから!」と言う舞の表情は至って真剣だった。

それからも山本さんとの夢のような時間は続いていたある日、それは突然の告白だった。
山本さんから、結婚を前提にお付き合いをしてほしいと言われた。
前々から山本さんが海外勤務を希望していたことは聞いていたが、正式に来年からドイツでの勤務が決まり、ドイツに一緒についてきて欲しいと言われた。
来月、観光と現地の下見を兼ねてドイツに行くから
もしオーケーならその時一緒にドイツに行きたい、少し考えて答えをくださいと言ってドイツ行きの航空券を渡された。

「それで断っちゃったの?」といいながら、舞が航空券をヒラヒラさせている。
「夢の海外生活だよ?もったいない。」
「うん、でもやっぱり自分の中でしっくりこなくて。」
夢は夢のままだったのかもしれない。
私もダメだったよと舞が言って、今度はこの間買った宝くじを見せてきた。

「ねえねぇ、実はねもう一つチケットがあるの。」と言うと
なになに?と舞の顔が輝いた。
「夢の国のチケット!これで明日はパーと現実を忘れて遊ぼうよ!シンデレラ城の前で写真なんか撮っちゃったりして。」
「うーん、まぁ1日だけの魔法。それも悪くないね!」

ドラマのような運命的な出会いがやってこなくても一攫千金が当たらなくても
自分にあった幸せがきっとやってくると思う。自分なりに見つけていきたい。誰もが自分にぴったりの幸せになるためのガラスの靴を持っていると思うから。

(完)


※今回はシンデレラをテーマに書きました。

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