ロリスの今観返したい映画レビュー『ヒルズ・ハブ・アイズ』編
映像作品業界にはリメイク・リブートブームの波が来ていると感じる。
私が知る限りでもここ数年で映画はもちろん日本のアニメ、ドラマ作品なんかでも相当な数のリメイク・リブートが行われている。
当時のキャストを再結集して撮られた何十年越しの続編だとか、とっくに連載が終わった漫画のアニメ化だとか。
思い入れの強い作品の続きが時を経て現代に蘇るのにはどうしても期待してしまうが、その期待と同じくらい不安も感じてしまうのがファン心理だろう。
その作品への思い入れが強ければ強いほどリメイク・リブートという言葉に警戒心を感じてしまう。
輝かしい思い出に泥を塗ることになるかもしれない……そのリスクを考えると敢えて観なくてもいいんじゃないか、とまで思ってしまう。
私自身もそういったリメイク・リブート作品に触れて「観ないでおけばオリジナルを良い思い出のままにしておけたのではないか」と考えることも多い。
しかし、そういう気持ちを吹き飛ばすものだったのが今回紹介する作品だ。
『ヒルズ・ハブ・アイズ』
オリジナルは70年代スラッシャーブーム真っ盛りの時期に公開された『サランドラ』。
私がオリジナルの『サランドラ』の方を観たのはたしか高校生の時だったはずだ。
既に『悪魔のいけにえ』を視聴済だった私の当時の評価としては(『悪魔のいけにえ』にインスパイアされて作ったのかね)くらいのもので、公開当時の70年代ならともかく21世紀を生きる私の鑑賞に堪えるものじゃないなという程度のものだった。
そのため、リメイク版の本作をレンタルショップで見かけた時にも大した期待はしていなかった。
本作をきっかけに大好きな監督となるアレクサンドル・アジャ監督も(どこの無名監督だよ)と鼻で笑っていた程だ。
なおアレクサンドル・アジャ監督はこの時点で前作の『ハイテンション』が世界中で評価されていたため、当時の私の無知にはただ赤面してしまうばかりだ。
前置きが長くなったがまずはオリジナル版の『サランドラ』を踏まえた上での本作の変更点から語っていこう。
ストーリー展開にほとんど変更はない。
キャンピングカーで旅する一家が食人族の潜む砂漠に迷い込んでしまい襲われる、大筋はそのままだ。
オリジナルにもあった父親の十字磔放火、キャンピングカー襲撃などの名シーンもそのままだ。
しかし本作はただの忠実なリメイクではない。
その最たるものが食人族一家の1人、ルビーの扱いだろう。
オリジナルにも存在した彼女だが、その役割やビジュアルはオリジナルとは一新されている。
食人族の集団は砂漠を通る人間たちを食糧もとい資金源としか見ておらず、主人公たちに躊躇いなく襲いかかる。
実は彼らの住んでいる砂漠にはかつて核実験施設があり、そこから漏れ出た放射性物質の影響で奇形児ばかり産まれた上に最後には国に見放されたという過去がある。
この設定は『サランドラ』でも生きていた設定なのだが、本作ではオープニングで奇形児の写真やキノコ雲の映像を見せることで本編に出てくる食人族たちが持つ背景へのイントロダクション代わりとしている。
ルビーはそのような荒んだ環境で育ったものの優しい心が残っており、たとえば砂漠地帯で怪我をして気絶した被害者家族の長男ボビーを他の食人族から庇ったり、食人族が人質に取っていた赤ん坊を助けたりと比較的善玉ムーブを見せる。
彼女の存在が食人族をただの悪役フリークスと終わらせず、あくまでも人間であるということを強調している。
食人族たちに襲われる被害者家族の勢いも負けてはいない。
事故のパニック時に飛び出していった飼い犬ビューティが腸を抜き取られて殺されるのを皮切りに、家族の大黒柱であるボブまであっさりと殺された上に拳銃も奪われる。
彼を囮にした前述の十字磔放火からのキャンピングカー襲撃でボブの妻エセルとその娘の1人リンも犠牲になる。
残されたのはリンの夫である平和主義の優男ダグ、レイプ被害に遭っても何とか生き延びた娘ブレンダ、ビューティの死体の唯一の目撃者である息子ボビー、そして生き残ったもう一頭の飼い犬ビースト。
彼らは殺された家族の敵討ちと攫われた赤ん坊の救出のために食人族一家に戦いを挑むのだ。
この中で一番の功労者は誰かと聞かれれば私は迷いなく生き残ったもう一頭の飼い犬ビーストを挙げる。
ビーストは本作で1キル1アシストという好成績を残しており、殺された相棒ビューティの敵討ちを立派に果たしている。
ちなみに残りのメンバーのキルスコアはダグが2キル1アシスト、ブレンダとボビーがそれぞれ1キルずつといった成績だ。
不自然なほどめちゃくちゃ強いジャーマンシェパードを見たい!という犬好きの方もきっと楽しめるはずだ。
兎にも角にもオリジナルとはまた違った魅力を持つ本作。
「オリジナルはイマイチだったな……リメイクする必要ある?」という感想を持っている方にこそ、こちらを観て頂きたいと切に願う。
昨今のリメイク・リブートブームに私自身も思わないことが無いわけでもないが、これからもこういったアタリを求めてこれらの作品に挑戦するのもまた一興だろう。