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ロリスの今観返したい映画レビュー『戦慄怪奇ファイルコワすぎ!史上最恐の劇場版』編


2020年のオススメ映画まとめを投稿した勢いをそのままに続けて筆を執る。
前回は1年間で観た作品のレビューであるため、あれもこれもと詰め込んで4作品ほど紹介させてもらった。
今後は私自身のオールタイムベストがてら今まで鑑賞した作品の中で特に気に入っているもの1作品に焦点を当てて紹介していこうと思う。
そんな風にコンスタントに映画を紹介しながら書き続け、2021年にも前回と同じように1年の総決算のようなレビューが出来たらいいなという心持ちでまずはこちらを紹介したい。


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『戦慄怪奇ファイルコワすぎ!史上最恐の劇場版』


(予告編はこちら)


……既に本作を視聴済の方が何を言いたいのかはわかる。
「1作品って言ったそばからビデオ作品5本分の予備知識ありきの映画じゃねーか!」
いや、本当にその通りなんだけど。
何なら話が区切りのいいところまでいくにはこの後にもう1本(あるいは2本)観る必要があるんだけど。
それは当然よくわかってるんだけれども、私は本作の主人公工藤仁という男の悲しきヒロイズムに心を震わされたのだ。
それ以上の理由が必要かね?(開き直り)


『劇場版』の話をする前にまずはここに至るまでを描いたビデオ版の話も簡単にしておく。
『戦慄怪奇ファイルコワすぎ!』シリーズは粗暴で金にがめついディレクターの工藤仁、その工藤のアシスタント市川、そして2人を撮影するカメラマンの田代の3人が織り成すPOVホラー作品。
彼らはタイトルにもある『戦慄怪奇ファイルコワすぎ!』というビデオシリーズを撮っており、視聴者から送られてくる映像を元に調査を行い、怪異に立ち向かう。
ビデオ版の5作品では口裂け女を車で轢き、呪いが勝つか幽霊が勝つかの実験を行い、五芒星の中心で河童を迎え撃ち、トイレの花子さんと戦いながらタイムスリップをし、お岩さんに攫われた市川を助け出すために異世界に行ったりした。
これらのメインヴィランとの戦いと並行してコワすぎ!メンバーの行く先々で暗躍する「先生」と呼ばれる男の存在、工藤の両親を殺した顔に傷のある通り魔といった謎の数々がばら撒かれる。
そしてお岩さんとのバトルを終えた工藤が次の取材先として選んだのが、足を踏み入れたものは発狂して死んでしまうという噂のタタリ村だ。
このタタリ村でのエピソードが今回紹介する劇場版にあたる。
ビデオ版の5作品も何ならそれ1本で記事が1つ書けそうなくらいには濃い話ばかりなので、機会があれば紹介したいが今回はここまでに留めておく。

さて、ここからが『劇場版』本編の話になる。
先述したタタリ村の取材映像を映画化しようと工藤は目論む。
映画化というわけでいつもよりも豪華にゲストを3人も呼び寄せた。
本作の序章にあたる前作『真説・四谷怪談 お岩の呪い』でも活躍した霊能者、宇龍院道玄!
呪いなんてあるわけない!が口癖のヘタレ物理学者、斎藤雅彦!
「バラエティ番組のノリで」と騙されて連れてこられた可哀想な絶版アイドル、小明!

ゲストの3人とコワすぎ!メンバーの計6人でタタリ村へと挑む。
タタリ村パートの絶望感は凄まじい。
これまでの常識を超えたスケールの敵の登場、その存在を感じ取った宇龍院道元が戦意喪失、工藤の持つ呪いの髪飾りの暴走など序盤から緊張感のある展開が続く。
命からがら下山したコワすぎ!メンバーはタタリ村の調査を開始するのだが、ここから遂にこれまで溜めに溜めた伏線の回収がはじまる。
敵の正体は旧日本軍が研究していた「鬼神兵」と呼ばれる霊体兵器であり、シリーズ通して暗躍していた「先生」の正体は鬼神兵研究者の子孫。
そして工藤の両親も鬼神兵の研究に関わっていた……。
当時の生き残りの鬼神兵研究の関係者だった老人は、工藤たちに当時の鬼神兵の資料であるフィルム映像を見せた後に「両親の跡を継いで鬼神兵の完成を手伝え。運命に従え」と諭す。
それに対する工藤のアンサーは本作屈指の名シーンだ。
「俺の頭の中でいつも聞こえている声があるんだ。……運命に逆らえってな」
改めて鬼神兵復活計画を否定した工藤は勢いそのままに老人を殴り倒す。
ここまでシリーズを追ってきた視聴者であれば今更この程度の暴挙で驚きはしない。
「それでこそ工藤仁だ」と静かに頷くのみだ。
真相を知ったコワすぎ!メンバーは因縁のタタリ村へと再び赴き、そこに現れた「先生」と対峙する。
話もそこそこに全ての元凶の「先生」を工藤が金属バットでボコボコに殴り倒し、市川が遺体にナイフを突き立てる。
遺体からは何かの欠片(通称は霊体ミミズ)が弾け出し、工藤の頬には傷がつくがそんなことはお構い無しに市川は遺体にナイフを突き立て続ける。
すると、遺体から突如発生した異空間にコワすぎ!メンバーは飲み込まれてしまうのだ。
異空間を抜けた先で出会ったのは……若かりし日の工藤一家だった。
工藤の両親は自分は未来から来たお前らの息子だと宣う工藤のことを「よく来たね〜」と歓迎ムードですんなり受け入れる。
自分たちが研究しているものを考えればそれほどのことは起きるという考えからだろうか。
工藤は両親に「おかしな研究を止めてくれ!」と懇願する。
しかし、工藤の両親はこれは自分たちの為すべきことであり鬼神兵の研究を止める気は無いと頑なに拒否する。
説得が失敗に終わったと判断した工藤はナイフを手に取る。
「じゃあ俺が今から阻止するよ!」
工藤は泣き声を上げながら両親の体にナイフを突き立てる。
両親を殺した顔に傷のある通り魔の正体が明かされた瞬間だ。
これこそが工藤仁のヒロイズムなんですよ。
これまでのシリーズの工藤仁は一言で言えば「自己中心的なクズ」な男でね。
……まあ、それに関してはこの後もそうなんだけど。
ここで工藤が選んだのは、両親を殺して鬼神兵の研究を止める道。
いくら世界の危機といえども「はい、そうですか」と両親を手にかけることができるだろうか。
「いや、工藤レベルのクズなら案外できるんじゃない?」
もちろん私もはじめはそう考えた。
しかし、工藤は現代に戻った後にこう言うのだ。
「俺さ、親も殺しちゃったしさ。もう人間じゃねーから」
工藤ほどの自己中なクズでも親を殺した自分のことを人間とは呼ばない。
最低限の情を残しながらも、工藤は両親を手にかけて鬼神兵の研究を止める道を選んだのだ。
……だが考えてみてほしい。
工藤の両親が死んだところであくまでもフィルムを見せた老人の鬼神兵研究が止まるだけで、「先生」の鬼神兵研究には何ら影響がない。
工藤の身を切るような思いでした決断も現状の打開には至らない。
要はここで帳尻が合っただけということなのだ。
工藤がそこまで考えてこの決断をしたのかまでは定かではないが、両親の遺体を前に涙する工藤の背中からは彼とは縁遠い言葉と思われていた儚さや無情さを感じ取れる。

こうして工藤は両親との死別を追体験する形で物語は幕を閉じるのだが、次作の『最終章』ではこの経験を経た上での新たな道が示される。
「それならそっちを紹介すれば良かったのでは?」とも思われるが、如何せん『最終章』に関してはカメラマンの田代の物語としての側面の方がどうしても強い。
もちろん最終章も好きな作品ではあるのだが、工藤の物語の総決算となるのはこの『劇場版』の方だろうと確信している。
監督自身も特典の解説コーナー(コワすぎ!通信)で工藤の過去の決着は最後まで引っ張った方が良いことはわかっていたが出し惜しみはしないという主義から今回の劇場版に盛り込んだ、と語っていたことからもそれは間違いないだろう。
ゆえに私は工藤の物語としての側面が強い『劇場版』を推すのだ。
兎にも角にもコワすぎ!メンバーが滅びの運命に逆らう姿が最高にクールな映画であり、私のオールタイムベストでは常に上位をキープしている映画である。

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