第四夜 『現代型戦争』 / 満月連載 夢日記

「現代型戦争」

ある満月の夜の、夢日記。

コンクリートの地下シェルターは、国内屈指の建築家による細部まで磨かれた空間の美しさがあった。
ただ、複数のカメラによるリモート観察をされているというこの状況である。
優美な建築美も、鬱屈とした居心地の悪さを詰め込んだ箱に成り下がっている。

・深夜2時以降のSNSの閲覧を禁ずる

そんなくだらないルールを守っているかどうかの監視をされているわけである。
この国のトップである私が、そんな不粋なルールの中で生きることを強要されていいものなのだろうか

「それにしても奴らの行動は腹立たしい。あのフェイクニュースに一体いくら金をかけたというんだ。もちろん仕返しのプランは考えさせているんだろうな？？」

PCに向かって叫ぶと、ウィンドウの１コマの男が淡々と喋り出す。

「はい、勿論です。ありとあらゆる観点で練っております。脱税、不倫、人種差別、幼児虐待など、最大効果の得られるタブー記事を。そして同時に最適なニュースサイトの組み合わせをシミュレーションしております」

「ふん、、、、本当にぬかりはないんだろうな」

「はい、今まで数多のフェイクニュースを作って来た優秀なチームですので、ぬかりはないかと。先日のハリウッドスターの不倫ニュースも秀逸でした。7人の女性との関係を、かなり深いところまで描き切っていましたし、報道に出ない部分の設定まで目を通しましたが、ひとつひとつの奥行きのあるストーリーに関心しましたよ。流出したCG動画のクリエイティヴも流石のクオリティでしたし」

「ふむ、、、内容もそうだが、抱き込んであるアーティストやインフルエンサーへの拡散依頼も徹底的にやれ。簡単なタグでも付けさせればそれぞれのファンも乗っかってくるだろう。普段何にも考えてないやつでも、立派な主張をくださるだろうよ、ありがたいことだな、ははっ」

インダストリアルな家具で統一された部屋はあまり音が響かない。
高い防音加工も施してある為、ウイスキーを片手に映画を鑑賞する趣味のスペースでもある。早くこのくだらない会議を終わらせてしまいたくて、自ずと早口になってしまう。

「大統領！先ほどの炎上したツイートのRT数が100万を越えました！」

「余計なことを伝えるな！」

「はっ、、、すいません」

頭に血がのぼり、壁を殴りつける。
ジンジンとした痛みよりも頭をドクドクと駆け巡る血の音が目立つ。

「さっさとなんとかしろ！憎っくき奴らめ。近年のあいつらの行動はふざけておる。国連のグループラインから外したのを根に持っているのか、あれから激しさは目に余るな」

「はい任せてくださいませ、大統領はもう就寝なさってください。深夜のSNS閲覧と投稿は危険です。念の為シェルターのインターネット環境を全て遮断させて頂きます。悪く思わないでください」

「明日起きた時に良い報告が聞けるのだけを楽しみにしておくぞ」

モニターのウィンドウが閉じる。それを見届け、一息着くと、電源を切ることなくPCを折りたたむ。
同時に仕掛けられたカメラが無機能になり、束の間の自由が与えられるわけだ。

丸みを帯びたグラスに、角のない氷。少しとろみのあるウイスキーを注ぐと、静寂に微かにだけ響く音に耳を研ぎ澄ます。

一口含むと、暖かい小さな濁流が喉から胸を熱くする。

おもむろにデスク左隅に４本の指をあてると、スライドした隙間から、スマートフォンが飛び出す。

独自のバイパスを使った、妨害電波をかいくぐる、インターネット環境を持った最新の。と言うよりも誰もが知り得ない高度な技術開発により産まれた個体だ。
もちろん一般流通などするはずもない。

通話ボタンを押すと、タイミングを察していたのかたった２コールで海の向こうと繋がった。

「やあ、名演技だったよ。どんなアイディアで復讐が来るのか見ものだね」

「はは、何を言う。そちらの拡散力にも頭が下がるね。もう100万だって？どれだけ予算を使ったのか」

「まぁ大したことないね、最初の火つけだけすれば勝手に広まってくれるんだ。楽な仕事だよ。報復もほどほどにしてくれよ？たとえフェイクニュースでも傷つくんだよ、国民のリプライにもね」

「独裁国家だからまだマシだろ？うちなんて自由の国さ。言いたい放題言われて胃が痛くなる想いだよ」

「まぁ誰かが嫌われ者になるしかないだろ？国家の団結にはさ、外敵が必要だ。また食事でも行こう。セスナを回してくれよ」

「そうだな、しばらく会ってないことだし。またすぐに連絡するよ」

通話が切れると、そのままスマートフォンを操作し、動画アプリを立ち上げる。

同期したはめ込み式のモニターがつくと、自動で部屋の灯りが落ちる。

さて、今日はどんな映画が良いか。

何か明日の会議で出せるアイディアのネタ探しになると良い。

フリック入力で素早くサスペンスといれると、よく沈むソファに腰を下ろした。

満月連載 「夢日記」

夢は無縫
夢は奇怪

月が満ちる度紡がれる、奇妙な物語

写真 / 映像 / 音楽 / 美術 / メイク / 短編小説

様々なファクターが絡みあう、全SNS連動型連載

Twitter：https://twitter.com/ta_streetgothic
instagram：https://www.instagram.com/ta_streetgothic/

YouTube：https://youtu.be/aLkCSECBl8Y

DOP / Editor：須藤しぐま
Hairmake : 小夏
Music : Toki(akubi Inc.)
Opening Movie : 大瀬良 匠(THINGS.)
Creative Director / Story：武瑠(akubi Inc.)

Produce : akubi Inc.
https://akubiinc.tokyo/