令和の音楽シーンと昭和歌謡 インターネット時代のクリエイターとインプットについて
流行は循環しながら洗練されていく。ファッションではストリート系のオーバーサイズシルエットが復権し、グルメでは知育菓子が大人の中で再流行の真っ最中だ。
そしてもちろん音楽も循環している。今流行のシティーポップはBOOWYや山下達郎の遺伝子を継承しているし、近年のダンサブルなサウンドにはジャクソン5のようなモータウン・サウンドの面影を見て取れる。
そして近年、日本の音楽シーンに新たな、そして懐かしい風が吹いてきた。
ザ・ツリーポット
こちらはザ・ツリーポットというバンドの「19才」という曲だ。レコード風のジャケットに感じる昭和レトロへのこだわりは、曲そのものにもしっかりと込められている。
あえてPCマイクでの収録を行ったという「サウンドの距離」は中々に味わい深い。メトロノームのイントロに続いてアコーディオンが鳴った時、耳にした者は間違いなく「レトロさ」を感じ取るだろう。
ツインボーカルの和音はまさしく日本歌謡そのもの。踊るようなリズムはアコーディオンの温もりも合わさってロシア民謡を思わせるストレンジな心地よさ。筆者は幼少期に祖父の膝の上で聞いたザ・ピーナッツを思い出した。
しかし同時に、このバンドにはただの「昭和の再生産」ではないと確信できるような新しさも感じる。
曲のタイトルでもある「19才」を感じさせる素直な発声は、昭和歌謡のそれとも令和J-POPのそれとも異なる。どちらかと言えばCMミュージックに近い色合いだ。
そこに踊るような旋律とレトロさが合わさってひとつの箱庭が構築されているように筆者は思える。倉橋ヨエコや天野月子がやっていたような、「アーティスト性を突き詰めた先」とでも言うべき姿の片鱗が見えたのだ。
それはもちろん、アングラでレトロでありながらポップという「ジャンルの世界観」でもある。それがアーティスト性として「たま現象」のような流行を引き起こすのかは定かではないが、これからに是非期待したい。
元々このバンドは「高校卒業記念の遊び」として始まったらしい。ここまで真剣に素晴らしい「遊び」を提示されてしまうと、一周回って困ってしまう。熱烈に応援するとかえって「遊び」が失われるのではないか、そんな杞憂すら浮かんでくるほどだ。
ハイパージャンルの時代
今や、ネットを通じたサービスによって好きな地域、好きな時代の音楽を耳にできる時代になった。近年の、そしてこれからのアーティストたちはそういった時代を経て誕生していく。
「うっせぇわ」を期に大衆からの認知度が爆発的に増加し、今や『ONE PIECE』の劇場版で親しまれる「国民的スター歌手」となったAdo。私はずっと周囲に初期オリジナル曲のひとつ「レディメイド」もいいよ、とおすすめしている。大好きな曲だ。ぜひ聴いてもらいたい。
スカやファンクの煙るような色気、そのど真ん中を突っ切っていくAdoのパワフルでいて透き通ったボーカル。そこに現代的なEDMサウンドが入り交じる様は、もはや「ジャンルのミックス」という陳腐な表現では通用しない。
Adoのボーカルにはどこかジャニス・ジョプリンを思わせる「親しみやすい力強さ」がある。元々ジャニスの大ファンな私は、初めて聞いたAdoが「レディメイド」だったことで彼女の音楽にドはまりした。
この「レディメイド」で作詞・作曲を担当しているアーティストもまたネットで人気を博している。すりぃというミュージシャンだ。
普段はVOCALOIDでの作曲を行っているすりぃだが、しばしばこうして彼自ら歌唱したバージョンも公開している。私は好きだ。
リズミカルでポップながらも癖の強い進行が中々に味わい深い。耳に残る音楽だ。ELLEGARDENのような疾走感、ORANGE RANGEのようなアッパー感に心が躍る一方、ラスサビ前のアカペラなどeastern youthにも似た物悲しさを感じ取れる。
ギターフレーズが本当に個性的だ。これはすりぃが自ら演奏する曲全般に言えることで、ちょっと耳にしただけで「あ、すりぃの新曲だな」と気づくことができる。個性がひとつのブランドに至っている。
実際に楽器を触ってみるとすぐにわかるが、「個性的な音楽」というのは適当に音を出せばできるものではない。様々なインプットを蓄積した上でようやく生まれてくるオリジナリティだ。
アーティストが「いいな」と思った入力が感性に蓄積されていき、それが出力されるにあたってミクスチャーされていく。この入力がインターネットの時代によって爆発的に増加した。
インターネットは老化しない
YouTube Musicを利用していると、ラジオ機能で様々な音楽を聴くことができる。まだ知らないアーティスト、すっかり忘れていたアーティスト。
今や意図的に「昔のもの」を発掘する必要すらなくなりつつある。時代を超越してコンテンツが提示される。サカナクションと沢田研二がひとつのプレイリストで再生される。
アニメや漫画もそうだ。「~~を知ってるってことは、〇〇年代だね?」みたいな会話はもはや「インターネット老人会」の会員しかやらない。「2004年に放送開始した」なんてことを考えずとも『BLEACH』や『ニニンがシノブ伝』を見ることができる時代に、生まれた歳は関係ない。
インプットが大きく変化していく時代になった。その環境でどこまで自分の「好き」を提示できるか。クリエイターと、それを取り巻く市場も大きな変化を迎えようとしているのかもしれない。
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