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懺悔

僕は今まで、
その場しのぎで生きてきました。

両親は僕に対して優しい方でした。
ただ、
僕が悪いことをすると強めに怒るタイプでした。
「『ありがとう』と『ごめんなさい』を
 言えるような人間になって欲しい」
と僕に何度も言って聞かせてくれました。

ただ、どれだけ怒られても
幼少の自分の至らなさから
何度も失態を繰り返してきました。
小さなもので言えば、
テレビを見ながらお茶を汲んで
こぼしてしまったり。
大きなもので言えば、
遊んでいる中で誤って
友達に怪我を負わせてしまったり。

その度に叱られました。
当時の僕にとって両親は
恐れの対象でした。
それ以外の何物でもありませんでした。
ずっと昔からとにかく恐ろしく、
「どうして怒られているのか」なんて
考える余裕がなかったため、
「どのようにこの場を切り抜けるか」
しか頭にありませんでした。

最初はとにかく怖かったので
「ごめんなさい」を何度も繰り返し、
許しを乞うだけでした。
当然、叱られている時は
謝罪だけで済むことはありません。
反省の意を見せる必要があるのです。
但し、幼い僕にそれがわからなかったので
「謝れって言ってたじゃんか、話が違うぞ」
と逆ギレしながら
やたら大きい声で謝るくらいしか
出来ませんでした。

ただ、成長すれば色々と分かるものです。
分かると言っても、
反省のやり方でなく、
上手く「叱られ」を避けることですが。

両親が、
どうしてこんなに怒られていると思う、
と聞かれた時は、
自分のやったことを詳細に答えれば
基本的にはくぐり抜けられました。
「何が悪いか分かっているか」の
A判定が下るからです。

今後はどうするか問われたら、
それを繰り返さない事を強く誓って
同じ局面で違う事をする事を強調します。
再犯をしない事をアピールするためです。

今まで何度も繰り返し注意したのに
なぜ今回も同じ事をしたのか聞かれたら、
どうしてもそうしなければならなかった状況を
なんとしても立証します。
ここをしくじればさらなる「叱られ」に
発展しかねないからです。

怒られている時は
声をワントーン下げて、首は俯きがちに。
目はしっかり合わせすぎないように、
相手の話す説教の句読点のタイミングで返事。
テクニックはあげればキリがありません。

これは学校でも、会社でも、
どこのどんな局面でも
助けてくれるスキルではありました。
どんな叱られも早めに鎮火できました。
ただし、見抜く人は見抜きます、
(見抜かれてただけで言われていなかった
ケースが過半数を占めているかと思いますが)
「あ、こいつ反省してねえな」と。

先ほどのテクニックを使っても、
嘘をついたりして辻褄が合わなくなった時、
「言い訳をするな」とよく言われました。
年端も行かない僕の気持ちとしては
「あんたが怒るからだろ」と思ってはいました。
ただそんなこと言ったら
新たな「叱られ」が発生するので
言えはしません。

叱る側としては、
この先同じ事を繰り返しているようだと
困るからしないように言っている、
というのが実情だと思います。
ただ、僕はそれを繰り返すことが
どうして悪いのか本気で理解するには
賢さが足りなかったのです。

その上両親を恐れるあまり
その場を凌ぐことばかりを考え
反省に注力する余裕がありませんでした。
叱られた後に
「反省をしていろ」と言われ
5分ほど哀しそうな顔で正座するのが
反省だとしか考えていなかったため、
行動の改善の傾向はありませんでした。

中学生になってからは、
叱られること自体が少なくなりました。
行動が良くなったからではありません、
悪事を隠すのが上手くなったからです。

誰も見ていない間に
自分のためにひっそりと
咎められるような事を行い、
誰かにバレたらあたかも共犯のようにして
誰にも喋らないように釘を刺す。

このような事を繰り返して
親や周囲に叱られる事なく
(バレていたかは別として)
うまいこと過ごすことができました。

但し、齢も20を超えると
それだけだと上手く行かないようになります。
今までは形だけの反省で
なんとかなっていましたが、
その後の行動が直っているかを
注視されるようにもなります。
いくらバレないようにしても
大人の嗅覚は鋭いのでバレます。

今の僕は
これまでのその場しのぎのツケが
回ってきているという状態です。
その場だけを凌いで
その先を凌ぐ術を持ち合わせていない、
そんな人間になってしまいました。

それはなんでもそうです。
何事も先延ばしにして、
必要なことがあったら
有り合わせの選択肢から選んで、
まともに努力もせずやってきました。

社長、警察官、小説家、ラジオ局のスタッフ。
これまでこれらを将来の夢としてきましたが、
「叶わなさそう」と分かればすぐに諦め
簡単な目標にグレードを下げて
楽をして生きていました。
社会に出るとその浅はかさは
周囲の輝かしい大人たちの
その輝きに責め立てられます。

僕も輝きたいです。

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