殺し屋に真偽無し #逆噴射プラクティス
昼下がりの喫茶店、壁際の片隅のボックス席。谷島はこの場で最も下座の席に浅く腰掛け、同席する者には背を向け、店内に目を光らせていた。
「アメリカの一流メーカー製で品質は折り紙付き。その下取り品、まだまだ使える物ばかりを詰め合わせ、第三国を経由して我が国に……」
「で、値段は?」
谷島の隣に座る上司の新見が、対面する短髪女性の力強い一声に遮られて息を呑んだ。カチカチと忙しない音が鳴る。新見が電卓を弾いているのだ。
「高い」
「そんな……」
新見は呻くように呟いた。谷島は肩越しに席を振り返る。商談相手である短髪女性の隣、部下と思しき褐色肌の女性が、意味深な目で谷島を見る。
「その時計、ランゲ&ゾーネでは?」
「模造品ですよ。単なるジョークグッズです」
谷島は書類鞄を持つ左手を掲げ、皮肉じみて言った。短髪女性の顔つきが不愉快そうに歪み、谷島に侮蔑の視線を向ける。
「見込み違いだったようだな。紛い物をつけるような男が部下のようでは、商売相手として信用できん。話は終わりだ」
「エッ!?」
新見が狼狽え、女たちが粛々と席を立つ。谷島は窓の外を見遣り出入口へ視線を移すと、不意に腰を上げ女たちの後を追った。
「話はもう終わりだと言ったはずだ」
「貴方、失礼でしょう!」
「銃だ! 伏せて!」
谷島は二人を追い越しながら、書類鞄を前に突き出した。鞄の底から布が滑り落ちて幕を作る。間髪入れずに、店に入ってきた三人組の乱射。
「死ねええええッ!」
怒号と悲鳴。谷島は防弾鞄を左手で構えつつ、右手で三八口径のポリス・ブルドッグ回転式拳銃を抜き、銃身を鞄に預けた。改造グロック機関拳銃の連射を防ぎ、三発撃ち返して三人の頭に的中。後続は無い。
「生きてますか」
谷島は背後を振り返った。新見は流血し事切れていた。谷島は諦めて床に屈みこむ。床に伏せた短髪の女が谷島の左手を掴み、腕時計を覗いた。
「……成る程な。ふざけた男だ、貴様」
【続く】
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