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カミ様少女を殺陣祀れ!/24話

【目次】【1話】 / 前回⇒【23話】

「ハァ、ハァ、ハァ……何とか振り切ったかな……」
僕は肩越しに後ろを振り返って、ソヤノとキリちゃんが追いかけてこないか確かめつつ、人目を忍んで体育館の裏に足を踏み入れた。
「ッラァーッ!」
「ヒャヒャヒャヒャ!」
「立てコラァ!」
「かかって来いよ、部落がァ!」
「何とか言えよ!」
男子生徒たちの歓声。僕は足を踏み入れ、そして、見てしまった。
「ヤメッ、止めろォッ!」
「止めねえ……よォっ!」
蹲る男子生徒を、他の男子生徒が蹴り上げる!
「ウワーッ! アアアアアッ!」
「「「ギャヒャヒャヒャヒャ!」」」
袋叩きだ! 3年生から1年生まで、徒党を組んだ男子生徒の不良たちが、一人の男子生徒を取り囲んで暴力を振るってる! よく見れば、輪の中心で痛めつけられているのは……シャクチくんじゃないか!
「おい手前、何見てんだこの野郎ッ!」
僕は運の悪いことに、不良たちの『お楽しみ』に首を突っ込んでしまった!


やばい。シャクチくんがボコボコに痛めつけられてるけど、僕にはどうにもできない。喧嘩なんてからっきし、そもそも人を殴ったことすらないのに!
「お、おおお邪魔しましたぁ~」
見なかったことにして後退ろうとする僕を、誰かが背後から突き飛ばす。
「おい、何だお前。ボサッと突っ立ってんなバーカッ!」
僕が恐る恐る振り返ると、男子生徒の立ち姿。制服ごしにもわかる筋骨隆々とした体つき。3年生を示すネームプレートには『宮下』の文字。県大会で優勝経験を持つ柔道部員! 僕は先輩に肩を掴まれ、引っ張り込まれた。
「オラァッ!」
「グゲェッ!?」
視界がぐるりと反転する! 僕はシャクチくんの横に投げ飛ばされ、地面に背中から衝突! 肺の空気が吐き出されて、両目がチカチカする!
「おい! こいつ見覚えあるぞ!」
不良グループの一人……髪を逆立てた3年生が僕を指差して叫んだ!
「あーあ、1週間かそこらか前、夜中にカツアゲしたヤツ!」
「ゲヒャヒャヒャ! まさか同じ学校の生徒だったとはな!」
「おーい、覚えてまちゅかあ! 覚えてますかッて、聞いてんだろが!」
甲高い声で不良が叫び、蹴り転がされる!
「カネ寄越せコラァッ!」
「「「ギャヒャヒャヒャヒャッ!」」」
「イデッ!? イデデデデデデッ!」
そこら中から足、足、足! どこから蹴られてるかもわからない、ともかく頭を防御するだけで精一杯だ! クソッ、何で僕がこんな目に!


ひとしきり蹴り回された僕が、俯せでぐったり転がっている時、何か呪詛のような呟きが聞こえた。僕の横に倒れているシャクチくんが、凄まじい目で僕を睨んで、呪いの言葉を吐き続けていた。
「ざまあみろ……ざまあみろ……ざまあみろ……お前も思い知れ……」
そうこうする内に、僕の身体が掴み上げられ、視界がぐるりと反転する。
「そうれ、もう一回!」
ミヤシタ先輩の野太い声。また、地面に僕をぶん投げる気か! チクショウ結構痛いんだぞ! 冗談じゃない、そう何度も投げられてたまるか!
僕がそう思い、僕の身体が宙を舞いかけた時、頭にカッと血が上って全身が熱くなり、力が漲る……ちょっと待って、これって朝と同じ症状!?
「地球とキスしな――グボァッ!」
ミヤシタ先輩の声がエコーがかって響き、僕の身体がぐるりと回って地面に叩きつけられた。ミヤシタ先輩が……あれ、ミヤシタ先輩が!?
「「「ゲホッ、ゲホッ……ゲッホ!」」」
もうもうと舞う土煙で不良たちが咳き込む! ミヤシタ先輩は漫画みたいに大の字になって地面にめり込んでいた。僕は不良たちめがけて駆け出す。
「何だてめゴボォッ!?」
「ンだらぁッ、神事てめェゲボォッ!?」
「てめえぶち殺されウガァッ!?」
一人、二人、三人。輪の中に突っ込み、滅茶苦茶に手足を振るう。何か固い物が砕けるような手応えと共に、男子生徒たちが宙を舞う……宙を? そう宙を舞う。行動に思考が追い付かないけど……とにかく、やってやる!


見物していた不良たちが、次々と輪の中に加わって数が増える!
「「「オラアアアアア゛ッ!」」」
頭から突っ込んできたパーマ野郎の、突き出した拳を掴んで一回転、後から突っ込んでくる不良たち目がけて投げ飛ばす! 鈍い音が連鎖する!
「「「ウギャアアアアア゛ッ!?」」」
不良たちが血を吐いて、手足が変な方向にひん曲がってる!
「「「コラアアアアア゛ッ!」」」
ナイフ、伸縮トンファー、切り詰めた木刀! 不良たちが武器を抜いた!
スローモーションみたいな光景。欠伸が出るように遅い不良たちに駆け寄り僕は手を振るう! ナイフを、トンファーを、木刀を真っ二つに圧し折る!
「「「何だとおおおっ!?」」」
回し蹴り! 何か砕けるような感触! 薙ぎ倒される不良たち!
「「「グボアアアアア゛ッ!?」」」
「クッソ……て、め、え……手前やりやがったなアアアアアッ!」
背後で声! 振り返れば、土埃塗れのミヤシタ先輩が両手を突き出し、腰を低めて走る! 僕は振り返り、タックルに合わせて踏み切り、膝蹴り!
「ンゴアアアアア゛ッ!?」
ミヤシタ先輩の股に一撃! ミヤシタ先輩が白目をひん剥いて吹き飛ぶ!
身体にまとわりつく旋風。唐突に時間感覚が追い付き、僕は立ち止まった。
パチパチパチッ、パチ……1年生の不良がスタンガンを、地面に落とす。
「ヒエッ……ウワァーッ、くくく来るなァ、化け物ォーッ!?」
僕が振り返ると、不良は周囲を見回し、一目散に逃げだした。


無事な不良たちは逃げ出し、怪我を負った不良たちが体育館裏に残された。
「「「グウウウウウーッ!」」」
ゾンビみたいな声を上げながら、地面で蠢く不良たち。僕は呆気に取られてそれを見回し、明らかな過剰防衛だと気づいて、強い後悔に駆られた。
足音が近づいて来る。しまった、誰かに見つかる前に逃げなきゃ!
「お前、いくら何でもやり過ぎだろ……もうちょっと手加減してやれよ」
強面の不良が今一人……クラスメートのタケイくんだ。
「探したぜ、ジンジ。助太刀しようかと思ったが、その必要はなかったな」
「え? ああ、うん」
僕らの背中で人影がこそこそと蠢く。シャクチくんだ。
「おい、シャクチ! 手前、ジンジに礼の一つも――」
「うるさい!」
シャクチくんが唾を吐き捨て、逃げ去った。別に助けたわけじゃないけど。
タケイくんは溜め息がちに頭をかいて、呆然とする僕に視線を戻した。
「チッ、あの野郎……まあいい、行こうぜ」

――――――――――

体育館裏に転がった不良たち、歩み出る臨と友與志、彼らを物陰から捉えるカメラがキラリと光り、ワックスだらけの天然パーマもキラリと光った。
「ンッハッハッハァ……こ~れはァ、面・白・い、物が撮れましたねェ?」
鷹丸はアクションカムを覗き込み、ねっとりボイスで満足げに呟く。
「フルハタさんに報告せねば。ンッハハハハ、フルハタさぁ~ん!」
鷹丸は高らかに哄笑して身を翻し、切子の元へ駆けて行った!

――――――――――

2年2組。5時限目を前に、生徒たちが教室へ戻る。その中に、尺地匠司と武居友與志、そして神事臨の姿は無かった。
「シャクチくん、戻ってこないね」
「トモも帰って来やがらん……それに、ジンジくんまで」
等々力三月が溜め息がちに言うと、鎌唯花は不思議そうに教室を見回した。
「ホントだ。ジンジくん、授業を無断欠席するような子じゃないのに」
「ん……」
「どしたの、ヤヨイ」
「いや……ジンジくん、昼休みにトモに呼び出されたんだってさ」
「エーッ、嘘!? 本当に!?」
「ジンジくんが言ってた。トモのヤツ、何か変なことしてなきゃいいけど」
「んー……それは、大丈夫だと思うよ」
「何でそう言い切れるのさ」
「トモヨシくん、きっとみんなの前であのことを喋るのが、恥ずかしかっただけだよ。きっとそう、トモヨシくんって不器用じゃない」
「ハッハハ……さすが、ユイカはトモにかけては何でもござれだねぇ」
教室のドアが開き、教師が教科書を抱えて歩み入る。
「ヤベッ、もう授業始まっちゃう」
「じゃ、また後でね」
三月と唯花は手を振り、互いの机に戻っていった。

――――――――――

昼下がり、塩尽の街。肩で風を切って歩くタケイくんを、僕は追いかけた。
「ちょっと待って、タケイくん! 学校サボるのはマズいでしょ!」
「うるせぇ、黙ってついて来い」
僕たち二人は、人目を避けるように大通りから路地に折れ、住宅街を進む。
「つくづく何もねえ街だよな」
「何も無い、って?」
「言葉通りの意味だよ! ゲーセン行くのにも電車で一駅だぞ。街を歩けばクズばかり、どいつもこいつも俺に喧嘩を売ってきて胸糞が悪ぃ!」
「よく分かんないけど、タケイくんはこの街が嫌いなの?」
僕の言葉に、タケイくんが哀愁漂う背中で立ち止まり、やがて振り返った。
「ああ……俺は嫌いだ。こんな田舎、大ッ嫌いだね!」
「言っとくけどさ、僕の家は電車で5駅走って、駅から自転車で30分走った先にある山の中だよ。僕から見れば、塩尽の街も充分に都会だけどね」
「……手前らの田舎っぷりを比べっこする気はねーよ」
タケイくんは眉を顰めて吐き捨てると、制服の背を怒らせて再び歩き出す。


住宅街を抜け、繁華街。僕はゴミ捨て場に目を引かれ、立ち止まった。
「おい、何だ」
カラスがギャアギャア鳴き喚いて飛び立ち、後には食い散らかされたゴミが残った。僕は無言でその光景を見つめた。何か……そう、何かがここで……。
「おい!」
脳裏に何らかの何かが思い浮かびそうになった瞬間、タケイくんに荒っぽく肩を叩かれ、僕はハッとして振り返った。
「いや、うん。何か忘れてたような気がしただけ。気のせいだよ」
タケイくんは変な物を見る目で僕を見ると、無言で踵を返して歩き出した。


路地裏をしばらく歩くと、タケイくんがある店で足を止めた。藍色の暖簾に染め抜かれた屋号は『そば処・武居』。タケイくんと同じ苗字だ。
「来いよ、腹減ったろ」
タケイくんが肩越しに僕を振り返って言うと、店の引き戸を開けた。
「エッ!? いやお腹は空いてるけど……」
「爺(ジイ)、腹減った!」
「おうトモヨシ、お前まーた学校サボリか!」
「うるせぇ!」
彫りの深い顔に眼鏡をかけたお爺さんが、タケイくんと言葉を交わす。後に続いた僕の姿を見るなり、作務衣姿のお爺さんが驚いた顔で眼鏡を正した。
「何だ、今日は二人か。珍しいこともあるもんだ」
「お邪魔します」
「お前もトモヨシの不良仲間ってェワケか、ン?」
「いや、そういうわけじゃないんですけど……」
「挨拶もできる、敬語も使える。ビックリするぐらい当たり前の子供だな」
「ジイ、もういいだろ。おいジンジ、座ろうぜ」
僕はタケイくんに促され、席の一つに腰を下ろす。タケイくんの後ろの席に座った、三人組の大人が顔を上げ、僕の顔を見て目を丸くした。


いぶし銀の中年。ラガーマンみたいな大男。神経質そうな七三眼鏡。三人に凝視され、僕は頭の中で何かが閃く……ようなむず痒い感触を覚えた。
「「「あッ」」」
「……あ゛ァ?」
三人が同時に口を開き、タケイくんが眉根を寄せて振り返った。
「おまッ……神事臨!?」
七三眼鏡のあんちゃんが、口に詰め込んだそばを慌てて咀嚼して声を張る。
「君たち、制服か? 学校サボリかい。感心しないぞ!」
図体のデカいあんちゃんが、僕たち二人に呆れた視線を投げて言う。
「こいつはまた、妙な所で会ったもんだな……神事臨くん」
そして、年季入りのオジサンが湯飲みを啜り、嫌なニヤケ笑いで言った。
「エ……エェッ!? 何なんですか貴方たち? どうして僕のことを?」
僕の頭で、頭痛めいて頻りに『何か』が瞬いた。電気信号みたいにバチッと閃く『何らかの何か』……でもそれが何なのかが『思い出せない』。
「しらばっくれてんじゃねえ、このガキ! 俺たちゃ刑事だよ! 塩尻署の刑事! あんだけの大太刀回りやっといて、忘れたとは言わせねえぞ!」
「落ち着けよ、足助」
「け、刑事……だと……オメーらマジで言ってんのか? ……ノゾム?」
タケイくんが驚いた顔で僕を振り返り……僕は、何も言えなかった。


【カミ様少女を殺陣祀れ!/24話 おわり】
【次回に続く】

From: slaughtercult
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