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カミ様少女を殺陣祀れ!/17話

【目次】【1話】 / 前回⇒【16話】

塩尽市南那井。宿場町の最寄駅から遠く離れた、霊山・隠ヶ平の山麓。
朽ちかけた村社、隠多喜神社。その目と鼻の先に建つ、宮司一族の古民家。
中学生くらいの垢抜けた少女が、居間の炬燵に腰まで潜って寝転びスマホを弄っていた。壁や柱には無数の弾痕と亀裂。少女は隙間風の音に身悶えして視線を上げると、閉じ切っていない障子戸の隙間から覗く境内、小さな蕾の綻びかけた梅の木に一羽のメジロが降り立ち、嫋やかな声で鳴いた。
「あああああ゛―――――ッ!?」
少女が感嘆に浸る間もあればこそ、中年女性の甲高く濁った叫びと、板間を打ち鳴らす足音とが、心に芽生えかけた純朴な美を塗り潰す。障子が左右に開かれ、少女の視界に取って代わったのは、血相を変えた母親の姿だった。
「お母さんうるさい……」
少女の気怠い抗議に、母親は歌舞伎役者の見得切りめいて身を乗り出した。
「ノゾム! ノゾムが居ないのよどこにも! また居なくなっちゃった!」


隠多喜神社の拝殿。壁の隙間から朝日が射す冷え切った空間に、老いた男は神職の装いで居住まいを正し、しわがれた声で厳かに祝詞を上げていた。
神主が拝する奥の壁には、供物を捧げた神棚。壁向こう、拝殿を突き抜けた延長線上には、御神体である霊山・隠ヶ平の山がそそり立っていた。
拝殿の神棚の前には、祝詞を上げる老神主と向き合うように、一糸まとわぬ巨乳八頭身黒髪ロング縦ロールの荒神様(カミ)が寝転がっていた。
老爺が祝詞を読み終えると、カミは退屈そうな顔で欠伸をこぼし、神棚から手近な日本酒の一升瓶を手繰り寄せると、栓を抜いてはラッパ飲みした。
「荒神様よ。ワシの可愛い孫、ノゾムをどこに『隠された』のか」
「異なことを訊く。あれは余が導くまでもなく、自ずから『隠れた』のだ。タキの一族は山の民、神の子は母の胎たる山へと還る……それが道理よ」
老爺は大昔の山籠もりの祭祀を思い起こして苦笑した。それからおもむろに腰を上げ、カミの柔肌に手を伸ばしては殴られ、血肉を撒いて即死した。

――――――――――

山の斜面、鬱蒼と茂る草木、人の道も獣道も無き純粋の自然の只中。
少年は森の中に居た。脳裏に思念は無く、過去や未来に心乱すこともなく、ただ条件反射で生きる獣や虫のごとく、無我・無意識の境地に至っていた。
思考も言語も記憶もない世界。自分が誰かも分からず、自分がどこを歩いているかも分からず、何のために山を行くのかさえも分からない。
少年は歩いた。素手・素足で藪をかき分け、斜面を登った。見開いた両目は物狂いに憑かれたように輝いていた。枝葉が顔や手足を傷つけ、小石に足を取られては転げ、泥土を浴びて着衣が汚れても、彼は無言で歩き続けた。
木立の四方から響く無数の声に耳を傾け、視線を巡らせる。森の住人たちが思い思いの警戒音を発して、藪を漕ぐ少年の存在を鳴き交わしていた。


藪を抜けた先の獣道、陣を敷いて待ち構えていた一群。それは山猿だった。
少年が足を止めて向き合うと、猿たちは牙を剥いて鋭い鳴き声を発した。
少年が立木に手をかけ、猿たちを見つめたまま動かずにいると、猿の一匹が激怒して突進した。一匹が走り出すと、二匹三匹と後を追って駆け出した。
ある猿は少年の顔に飛びかかり、ある猿は鋭い爪で鉤手を振るい、ある猿は手や足に食らいついた。少年は見る間に猿に集られ、骨肉を裂かれ、耳鼻や指を食いちぎられ、血塗れとなった。少年の悲鳴が林間に轟いた。
少年は叫び声を上げて振り払わんとすると、猿たちは飛び下がって牙を剥き威嚇した。一匹の猿は少年の顔に取り付いて執拗に攻撃を続けていた。
少年は身体の至るところから血を吹きながら、何本か指の欠けた両手で顔に張り付いた猿を掴んだ。猿は激怒して両腕を振るい、少年の顔に深い爪痕を刻み、右目を潰した。少年は暴れ狂う猿の両腕を、血の滴る両手で掴んだ。


今度は猿が悲鳴を上げる番だった。仲間たちがすかさず飛びかかり、少年の体中に食らいつくも、少年は両手に渾身の力を込めて猿を放さなかった。
少年は血を流す右目と、胡乱に光る左目で猿を睨んだ。少年に掴まれた猿は両肩の筋肉から断裂音を発しながら、少年と目を合わせて恐怖した。
次の瞬間、山猿の筋骨隆々たる両腕は千切れ、血飛沫が舞った。腕を失った猿は悲鳴を上げて地を転げる。数頭の猿が恐怖して飛び下がるが、それでもなお執拗な猿が二頭、少年の左肩と右脛に深々と食らいついていた。
少年は先ず足を振るった。弓弦のような風切り音が鳴き、右脛を食らう猿が弩に弾かれたような勢いで宙を舞い、生い茂る杉の高枝に刺し貫かれた。
次いで少年は左肩の猿を右手で掴むと、親指を食い千切られながらも両手で猿の頭を捉え、渾身の力で地に叩きつけ、猿を挽肉へと変えた。
一際大きな山猿が激怒し、集団から進み出ると少年に迫った。少年の喉笛をかみ切らんと力強く跳躍し、迎え撃つ少年の拳の一撃で顔を爆ぜさせた。


血塗れの少年が勝ち誇ったように山猿の屍を掲げ、心臓を抉り出して食らい屍を放ると、生き残りの猿たちは敗北を悟った。頭領を殺され、戦の雌雄は既に決していた。猿たちは我先に少年から背を向け、一目散に遁走する。
少年は虐殺した猿たちを見渡すと、屍を一つ一つ素手で解体して、奪われた身体を胃袋から取り戻した。醜く裂かれた傷口に、指や耳鼻を押し付けると元通りに繋がった。猿の心臓を食らうと、潰れた右目も元通りとなった。
血みどろの獣道に風が吹き、木々の梢がざわめいた。少年は何事もなかったように歩き出し、獣道をまたいで反対側の藪へと足を踏み込んでいく。
少年の無我無意識は研ぎ澄まされ、彼は隠ヶ平の山の一部となり、何者かに導かれるがごとく道なき道を歩んでは、霊山の深奥へと進むのだった。

――――――――――

諏訪神社。荘厳なる社殿群、広い境内を歩く参拝客、神職、巫女。石敷きの参道には大鳥居が聳え、正面に広がる鳥居前町へ睨みを利かせていた。
目抜き通りにディーゼルターボの排気音を轟かせて、純白の4WDミニバンが悠然と走り来て、諏訪神社の鳥居前に滑り込んで停車した。フェンダー前に小さな『特弌』の筆文字。後部座席の窓は暗く陰り、車内は窺えない。
「鬼頭様、到着いたしました」
運転席の白無垢をまとった眼鏡男が告げると、席の最後尾で影が頷いた。
「よろしい。穂積と兼石は車内で待機、他は私に随行せよ。行くぞ!」
「「「応!!」」」
車体側面で大きな白銀の花菱紋が浮き彫りめいて光ると、紋章を別ちながら装甲強化スライドドアが車体の両側で開き、白布で覆面した白無垢が四人、素早く降車して四方を警戒した。その後、白狩衣の男が悠々と降り立つ。


諏訪神社、斎館。畳敷きの広間、諏訪大明神が壁を背にして陣取り、右手に諏訪神社宮司・松林、左手に神社本庁の使者・鬼頭が座り、対峙した。
松林の背後には権禰宜たち、鬼頭の背後には覆面白無垢たちが立つ。彼らは互いに武装していた。諏訪の権禰宜たちは木の弓矢を、本庁の白無垢たちはB&T USW-A1ピストルカービン銃を携え、正に一触即発の様相であった。
張り詰めた空気に、巫女は硬直した様相で手を震わせ、三人分の盃に神酒を注いだ。杯は先ず諏訪神に、次いで客人たる鬼頭に、最後に松林の卓上へともたらされた。諏訪神が音頭を取り、三者は盃の神酒を飲み干した。


「諏訪大明神様。否、建御名方富命(たけみなかたとみのみこと)。此度は顕形し給いて心よりお慶び申し上げます。麗しきお姿、この目で拝謁を賜り誠に光栄にございます。私の名は鬼頭、伊勢神宮及び神社本庁の代理として馳せ参じ仕りました。ご挨拶に時を要した御無礼、どうかお許しください」
鬼頭が諏訪神の方を向いて畳に両手をつき、狐のような糸目顔をにんまりと笑ませ、立て板に水の調子で祝言を述べると、馬鹿丁寧に額づいた。
あぐらをかいた諏訪神は、一連の所作を見守ると髭を撫ぜて嘆息する。
「固いなぁ。全く、見てるこっちが肩が凝るよ。伊勢の奴らっていうのは、みんなこんなに頭でっかちで話が長いのかね、松ちゃんさぁ」
鬼頭の笑みが困惑したように強張る。対面する松林は無表情ながら、僅かに口角を上げた。諏訪神は空の盃を掲げ、値踏みする眼差しで鬼頭を見た。
諏訪神の傍らに侍った巫女が酒を注ぐと、諏訪神は一息で酒を呷った。


「我の関心はさ、伊勢がどんな意向でここに来たかってことなんだよな」
諏訪神が単刀直入に切り出すと、鬼頭は木笏で口元を隠し謎めいて笑った。
「命(みこと)は顕形されてまだ日が浅い故に、存ぜぬのも無理からぬことでしょうが。我ら神社本庁特殊部隊は、神が尖兵。国母・天照大神に楯突く傲岸不遜な狼藉者を、闇から闇へ葬り去るのが我らの大義にして務め……」
「あーもう分かったから、その気取った台詞回しは止めなさい。現代に来て日の浅いこの我でも理解できるように、もっと簡潔に説明を頼むよ」
諏訪神に言葉を遮られた鬼頭が、笏の上辺に覗く糸目の眉根を寄せた。
「ふむ……では仕方ありますまいな。簡潔に申し上げれば、この『国』には賊徒が忍んでおります。日ノ本を転覆せしめんと欲す、我らが仇敵……」
「賊徒?」
「いかにも。しかし命が案ずるには及びませぬ。先の話が如く、そが賊徒を狩り滅ぼすは、神に傅く我らが務め。全ては我らが丸く収めますゆえ……」
鬼頭は笏に隠した薄笑いと共に、威圧するように糸目を見開いた。


今まで沈黙していた松林が溜め息をつき、瞬きして鬼頭を睨んだ。
「つまり。我ら諏訪神社は、我らの膝元での諍いに手を拱いていろ、ということか。お主らと賊徒らの殺し合いを、黙って見ていろということか!」
存外の気勢に諏訪神が目を向け、鬼頭は乾いた高笑いを放った。
「流石は松林公。我らの言わんとすることを、即ち察するその慧眼、瞠目の極み。その若さで誉れ高い諏訪神社の宮司まで上り詰めた実力は、伊達ではございませぬな。これは伊勢勤めに栄転する日もそう遠くはないようだ」
「鬱陶しいね、鬼頭ちゃん。キトウじゃ語呂が悪い、キトちゃんでいいか」
諏訪神の手短な総括に、鬼頭の背に立つ覆面の配下たちがどよめいた。
「天照大神(ババア)の指図だか何だか知らないけど、ここは我の『国』なわけ。これ、天津神との誓約事項だから。まぁ神に傅いてるキトちゃんなら知らないわけないよね。で生憎だけど、我の領地の諍いは、我自身で収める主義だから。忠心の無い余所者に勝手に暴れられると、我も不愉快だよね」


「貴様が不愉快であろうが何だろうが、一向我らの問題ではない!」
鬼頭が額に青筋を浮かべ、笏を投げ捨てて立ち上がり、狩衣を脱ぎ捨てた。
「ギャーッ!?」
巫女は叫び、権禰宜たちは弓に矢を番え、それに呼応して白無垢たちが銃を構えた。諏訪神は無言で座し、松林は無表情の奥で戦慄して蒼褪めた。
立ちはだかる鬼頭の狩衣の下には、無数のC4爆薬が巻き付けられていた。
「いかに領主が命と言えど、この鬼頭に譲歩の二文字は無し! 建御名方命何するものぞ! 元より天津神に楯突き、この国に流れ着いて助命を乞うた賊軍ではないか! 偉大なる国母・天照大神の威光に遠く能わず!」
有線起爆装置を突きつけ凄む鬼頭の言葉で、諏訪神の額に血管が浮かんだ。権禰宜は弓矢を構えつつも恐れ、白無垢は恐れることなく銃を構え続ける。
「我ら神勅の代行者、神社本庁特殊部隊! 我らの言葉は、天照大神の詔と心得よ! 畏れ多くも異議申すなら我らを力づくで止めて見せよ、その時はこの鬼頭、貴様ら諏訪神社と共に粉骨砕身し、神勅申し渡す所存なり!」

――――――――――

その時、諏訪神社の上空へ唐突に黒雲が満ち、疾風と共に雷が響き渡った。
「何奴!」
覆面白無垢たちが弾かれたように動き、背後の障子戸を素早く引き開ける。
斎館裏に広がる山麓の荒れ地に、一際大きな雷鳴が轟いて視界が白んだ。
「見ろ、あれは!」
白無垢の一人が指さした暗雲の空に、稲妻のような黒鋼が煌めいた。それは巨大な人影を乗せ、雷鳴のような排気音を伴って地上へ天下る。それは雷の神鳥の名を冠す、黒塗りの大排気量クルーザーバイクだった。二メートルを超す身長の巨漢が、巨大バイクで荒れ地に着地し、ドリフト停車した。
斎館の中でそれを見守る一行は、思わず息を呑んだ。巨漢はバイクを降りて歩み来る。黒革のツナギ越しにも、全身に筋肉の漲る様が見て取れた。
「ククククッ……久しぶりだな、ミナカタよ。俺だよ、建御雷だよ」
諏訪神にも勝る屈強な偉丈夫が、レイバンのサングラスを外して悪戯っぽく笑った。しかしてその実態は……鹿島大明神! 建御雷命の顕形だ!


鹿島神は土間で靴を脱ぐと、大きな足で板間に上がって靴を揃え、それから斎館が手狭に感じる巨体を揺らし、慄いて後退る人の群れに歩み寄った。
諏訪神はあぐらをかいた足に肘をつき、露骨に不愉快な顔でその様を見る。
「鹿島大明神……建御雷命(たけみかづちのみこと)の顕形とは……」
誰ともなく呟くと、鬼頭が振り返って鹿島神に有線起爆装置を突きつけた。
「何が鹿島神だ! 俺は神社本庁特殊部隊……天照大神の一番槍だぞ!」
鹿島神はおもむろに鬼頭へ歩み寄ると、彼の握る起爆装置を奪い取った。
「な、何だお前! 何するつもりだ、おい、や……やめろ!」
鹿島神の極太の親指が、当然のように起爆スイッチを押し込んだ。
その場の全員が息を呑み……何も、起こらない。鹿島神は不思議そうな顔で首を捻り、スイッチを連打し続けた挙句、力み過ぎて装置を握り潰した。
諏訪の権禰宜も、本庁の白無垢も、武器を落として腰を抜かす。虚仮威しを暴かれた鬼頭は立ち尽くし、茹蛸のような顔で口をぱくつかせていた。


鹿島神は凄みのある笑顔で諏訪神に歩み寄ると、嫌そうな諏訪神を無理やり引きずり起こし、懐からスマホを取り出して二柱のセルフィーを撮った。
「ミカヅチの旦那、こりゃ一体どういう風の吹き回しですかな」
「ミナカタよ。出雲の父君に、たまにゃ会いに行ってやったらどうなんだ」
困惑して諏訪神が問うと、鹿島神が大きな手で小さなスマホを器用に手繰りながら、慣れた様子で二柱のセルフィー画像を送信しつつ切り返した。
「御冗談を。我は終生、この国の外には出ないと誓約したでしょう。記憶が正しければ、ミカヅチの旦那。我はあなたにそう誓ったんですがね」
「かってーこと言うなよ、お前それ何年前の話だ。百年か、千年か? 俺がいいつってんだからいーんだよ。ホレ、天津神は俺が説得するからよ、な」
「いや、”な”って言われてもですね。旦那……今度は何を企ててるんです」
「あーもうゴチャゴチャうっせぇなぁ。お前は昔っからそうなんだ、細けぇことをくどくどと……どうだ、相撲でもすっか。また昔みてえによ」


斎館裏、諏訪神社敷地内の荒れ地に風が吹き抜け、風が枯れ草を転がした。
「俺が勝ったら、お前は出雲に行く。お前が勝ったら、まあ今日のところは俺も大人しく引き下がってやるよ。どうだ、それでいいだろ?」
黒ツナギ姿で四股を踏み、悪戯っぽい笑みで手を打ち鳴らしてやる気満々の鹿島神に、白スーツ姿の諏訪神は苦笑して肩を竦めた。
「旦那も神が悪い。やる前から、結果は分かり切ったことでしょう?」
「御託はいいんだよお前よ。俺は退屈してんだよ、暇で暇でしょーがなくてうずうずしてんだ、つべこべ言ってんなら俺から行くぜ、ハッケヨイ……」
鹿島神が勝手に宣言して身構えると、諏訪神もまた溜め息をついて構えた。
「……ノコッタ!」
瞬間、斎館で眺めていた諸人の視界で、二柱の神が残像を曳きながら駆け、互いに真正面からぶつかり合い、組み合った。巨岩が崩れるような衝撃音と共に、取っ組み合う二人を中心に、振動と旋風が放射状に伝播した。


諏訪神が目を剥いて力み、鹿島神が歯を剥いて笑い、渾身の力で押し合う。
「諏訪神様ーッ! 諏訪神様ーッ! 頑張ってくださーい!」
「鹿島神ーッ! 鹿島神ーッ! 不届者にもう一度、裁きの鉄槌をー!」
斎館の縁側に松林と鬼頭が肩を並べ、背後に配下たちも並んで、それぞれの信ずる力士(カミ)たちの勇士を、声を嗄らして必死に応援した。
「んんん゛ッ、んんんん゛ッ!? ちったぁ強くなったか、ミナカタ坊!」
「我をッ、そう呼ぶのはッ、ミカヅチの旦那、あんた、だけですよッ!」
諏訪神の猛プッシュに、次第に押されてずり下がる鹿島神。
「……なーんてな」
と思った次の瞬間、鹿島神が笑って諏訪神を軽々と持ち上げ、諏訪神が抗う暇もあればこそ、想像を絶する膂力で突き飛ばした。諏訪神はカタパルトで弾かれたように勢いよく、神社の背後に広がる山の中腹まで吹き飛ばされ、木々を圧し折り地をまくり上げ、もうもうと土煙を上げながら停止した。


「だーもうッ! だから我は、やる前から分かってるって言ったのに!」
お気に入りの白スーツが泥まみれに汚れ、諏訪神は土砂塗れで起き上がって捲し立てると、苛立ち紛れに空中浮遊して諏訪神社まで飛び戻った。
「へっ! 俺に意見するなんざもう千年は早ぇみてーだな、ミナカタ坊!」
鹿島神は空を仰ぎ、諏訪神が飛び来る様を見て、心底おかしそうに笑った。
「はぁもぅ分かりましたよ。我、出雲に行きますよ、行きゃいいんでしょ」
「クッハッハッハッハ! ああそうだ、たまには家族に会いに行け!」
「ですがね旦那、我が離れればこの『国』に領主がいなくなり……」
「あー心配するな。お前が戻るまで、この鹿島神が見といてやるからよ!」
鹿島神が腕組みして請け合うと、諏訪神は気乗りしない顔で肩を落とした。
「鹿島神ーッ! さすがのお働きでございまする、この鬼頭、感無量……」
すかさず揉み手して歩み寄る鬼頭を、鹿島神は不快そうな顔で振り返った。
「ガキはさっさと家に帰って、天照大神(ババア)の乳でも吸ってろ!」


【カミ様少女を殺陣祀れ!/17話 おわり】
【次回に続く】

From: slaughtercult
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