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リュカオーン獄門道

俺たち4人だけの救国義勇軍は、魔王と謳われた巨魁を遂に打ち破った。

夢破れた魔王は、捨て台詞に復讐を誓い姿を消した。彼の率いる魔の軍勢は潮が引くように姿を消し、王国にはようやく平和と安息が戻って来た。

国に戻り、束の間の名声と僅かばかりの褒章を得て、救国義勇軍は解散。

剣士のライオネルは剣聖の称号を拝命し、国王付きの武官に配属。若くして国立武術アカデミーの剣術指導員に抜擢される、歴史的快挙を成し遂げた。

僧侶のゼノクラテスは、枢機卿の背信と腐敗を暴き、神の威光を世に示した功績を認められ、流れ宣教師を止めて国教会に復帰できることとなった。

紅一点・狩人のトゥーリは勇者の名声を得て山の部族に戻り、不具の父親と病床の母親、7人の弟妹たちの生計が、部族に保障されることになった。

翻って、俺はどうだ。天涯孤独の戦災孤児、戦と金の傭兵家業に生きて来た俺が掴んだものは何だ。富も名声も、俺は別に欲しくはなかった。

あの日、断崖の戦で追い詰められ海原に没したあの敗北から。記憶を失って寒村の貧しい父娘に見いだされ、生活を共にした束の間の平和な日々。

山を越え、迷いの森を抜け、あざみの道を通り抜けて。記憶が蘇ってくる。

見えた。村の灯り。全てはあそこから始まった。俺が生まれ変わった場所。


「ゾーイかい。農地指導で赴任した役人と結婚したよ。お似合いの夫婦さ」
「そうだったんですか」
「あんた、ゾーイの何なの?」
「昔、彼女と父君に世話になりまして。父君の死は本当に残念です」
「あの子も父親が死んで塞ぎ込んでたけど、苦労がやっと報われたさね」


風の吹き曝す海岸。家主の居ないあばら家の机に、迷いの森で摘んだ一輪の白百合を供える。救国の戦は余りにも長過ぎた。

「見つけたぞ、傭兵リュカオーン。父の仇、今度こそ貴様を倒す!」

銀色の髪。褐色の肌。美麗なる悪の武将、魔王の娘キスメット。

「武器を抜け!」

戦が俺の人生だ。ここで死ぬのも悪くないか。


【続く】

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