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カミ様少女を殺陣祀れ!/7.5話

【目次】【1話】 / 前回⇒【7話】

夜半。諏訪神社、鳥居前。純白の隼めいたSSバイクが停車する。
白スーツの偉丈夫がサイドスタンドを下ろし、悠然とバイクを降りた。
鳥居の向こうで蛍火めいて行燈が煌めく。待機していた神職たちだ。
「「「お帰りなさいませ、諏訪大明神様」」」
厳かな出迎えを受けた偉丈夫は、眩い白ヘルメットを外して大欠伸を一つ。
見上げる長身に、腰まで伸びる長髪と、腰まで伸びる長い顎鬚。
「うん。そういう堅苦しいのは今後はナシで。見てるこっちが肩が凝るよ」
白づくめの諏訪神は、歩み寄る神職たちに嘆息して平手を振った。

行燈の揺らめきが大鳥居を抜け、暗闇の境内を奥へと進む。
宮司・松林の先導に諏訪神が続き、更にその後ろには2人の権禰宜。
権禰宜たちは2人がかりで、行燈を片手に器用にバイクを押して運ぶ。
「諏訪大明神様。今宵の淀みなきお鎮め、お見事にございます」
「隠ちゃんは相変わらず力が強いね。まだ本調子じゃなくて助かったよ」
「オンチャン……? ご勇姿を直接お目にかかれなかったのは残念です」
「何か思ってたのと違ったね。隠ちゃん、ずっと人間らしい姿になってた」
「は。と、仰りますと?」
「女の子だったよ、少なくとも見た目はね。それが、おかしな髪型でさ」
松林は溜め息と共に首を傾げ、拝殿脇の門扉を開いた。
「出会った瞬間から大激怒でさ。昔のことを根に持ってるのかと思ったら、兵隊なんぞ寄越しおってとか、身に覚えのないことを聞かれて参ったよ」

松林は諏訪神に背を向けたまま、僅かに眉根を吊り上げた。
「神社本庁特殊部隊、とか言うらしいんだけど……我、聞いてないよね」
諏訪神は後頭部で両手を組み、軽薄な口調で欠伸交じりに言った。
「ここ数百年で新しく出来た役職? 松ちゃんさぁ、何か知ってる?」
松林は無言で嘆息し、門の中に足を踏み入れる。
その後を諏訪神が続き、背後で権禰宜たちが苦労してバイクを運び入れた。
門が閉ざされ、再び拝殿に静寂が満ちると、平林が背後を振り返った。
「そは伊勢の郎党にございます、諏訪大明神様」
「あっそう、やっぱりな。話聞いてて、何かそんな気はしたんだよね」
諏訪神の不愉快そうな吐息。
「その様子だと、松ちゃんは? 我に仕える身でありながら、事もあろうに伊勢の高飛車どもをフリーパスで、我の領内に招き入れちゃったわけだ?」
「は。全てはこの松林の不徳の致すところ……面目次第もございません」

――――――――――

一般人の立ち入れない、神社敷地の奥深く。
「先を越されたな。我の頭を飛び越えて、直々に兵隊を送り込むなんてね。伊勢のヤツらときたら、機を見るに敏……つくづく油断ならん連中だ」
檜風呂の御神湯に、諏訪神が筋骨隆々たる裸体を沈め、息をついた。
「やってくれるじゃない。我の領分に侵犯するなんてさ、約束が違うよね。好き勝手暴れるなんて、舐めてんのかね。我も面白くないよね」
諏訪神は呟きながら湯船に身体を沈め、ブクブクとあぶくを上げた。
「ぷはぁ。伊勢の連中も何を考えてんだか。我でさえ手こずる隠ちゃんを、人間風情が殺そうだなんて。思い上がりも甚だしい、死んで当然!」
雪のちらつく夜空に、語気を荒げて拳を突き上げ、湯を跳ね上げた。
「隠ちゃんも気になるし、伊勢の動きも気にかかるし。暫くは様子見だな」
諏訪神は浴槽にもたれて目頭を揉み、星空を見上げて白い息を吐いた。


【カミ様少女を殺陣祀れ!/7.5話 おわり】
【次回に続く】

From: slaughtercult
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