謝肉祭のモンド -Mondo Carnevale-
瓦礫の街。野営地を見下ろす丘の上。爆撃で崩れかけた教会の残骸。
「――サン・サーンスより、死の舞踏」
イヤホンの向こうから、ラジオの音楽が聞こえてくる。
「ステイですよ、坊ちゃん」
無線で諭す女の声。女の背後で響く優雅な管弦楽の旋律。少年・モンドは吐き気を堪えた。瓦礫の裂け目に寝そべり、分隊支援火器を十字架のように抱えて、照準眼鏡ごしに彼が見下ろす野営地は、酒池肉林の大騒ぎだった。
「貴方の撃つべき敵を忘れないことです」
捕虜の片腕が生きたまま切断される光景を前に、モンドは歯噛みした。
「今日、ヤツがここに現れる」
「そして坊ちゃん、貴方がそれを撃つ」
「それで全部ケリがつく。お前とも今日限りだ、このクソッタレ」
「フフフ、だといいんですがね」
女は飄々と答えた。モンドは無線の音楽を努めて聴き、故郷にある湖畔の別荘を思い出す。ここには死体の異臭などしないし、逃げる捕虜が背後から射殺されたりしないし、女子供が複数人がかりで犯されたりしていない。
「弾倉の六十発は一人殺すには充分ですが、英雄になるには足りませんよ」
女は、モンドの焦りを見透かしたように忠告した。モンドは記憶の連想を繰り返した。別荘、暖炉の広間、父母の死体。サングラスの男。妹の叫び。
「黒のレンジローバー。ナンバーを確認。標的の車です」
視界の端から車が迫る。その時、幼い女の子が逃亡した。少女は撃たれて倒れ、男たちに捕まる。モンドの脳内で、バイオリンの旋律と妹の叫び声が共鳴する。頭が真っ白になり、照準線の向こうで兵士の脳髄が飛び散った。
「クソッ、クソッ、クソッ!」
モンドは叫び、片っ端から兵士たちの頭を狙撃する。走り出す車。咄嗟に銃をフルオートに変えて連射するも、車は火花を上げて難なく逃げ去る。
「ステイって言ったのに」
女が言った次の瞬間、ロケットの至近弾でモンドの意識が吹き飛んだ。
【つづく】
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