見出し画像

カミ様少女を殺陣祀れ!/19話

【目次】【1話】 / 前回⇒【18話】

「あざっしたー! お嬢ちゃん、また来てなー!」
「どうも、御馳走様でしたー!」
午後1時を少し過ぎ。少女・古畑切子は中華屋・餃子将軍のドアを出た。
「うぃ~、っぷ。食い過ぎた……」
切子はパーカーの腹を摩りながら歩き、失敗してばかりいたオバサン店員の顔を思い出し、どうもこの辺には相応しくない顔と語り口調だと思った。
切子はまだ知らない。化粧の濃い都会かぶれのオバサンが、臨の実母とは。
彼女は銀無垢のシャフトドライブ自転車に跨ると、顔を顰めさせた。
「別に、心配とかそういうんじゃないから……ただ見に行くだけだから」
言い訳めかして呟くと、三段ギアを一速に入れてペダルを漕ぎ出した。
中華屋の駐車場には既に、赤いジムニーの姿は無かった。

――――――――――

「ねーよ、マップに。隠多喜神社なんて、載ってねーよ」
「ハァ!? 嘘、何で!?」
山間の谷間に広がる、畑や耕作放棄地の中央を貫き伸びる、農道の只中。
一面を覆う茶色と緑色の世界の中、赤いジムニーは良く目立った。
「知らねーよ……マップに載ってねえ場所なんざ、よくあることだろ」
三速、二速とギヤを落とし、ヘロヘロと走る車が遂に停まった。空の雲間に光が射し、エンストして立往生するジムニーを赤く光らせた。助手席で心が煙草に火を点け、運転席では瑞希がステアリングを殴って悲鳴を上げた。
「あーりーえーなーい! どーすんのよーもーう! こんな道じゃバックもできないじゃなーい! ブードゥーマップのバッカヤロー!」

――――――――――

人っ子一人いない静まり返った畑地に、立ち往生し続けるジムニー。
その背後より、切子の駆る自転車がゆっくりと駆け寄って来た。
「……何あれ、迷子? この狭い道でやってくれるわ……すれ違えるかな?」
切子はパッツン髪の下で眉を顰めると、自転車のギヤを三速、二速、一速と落とし、道を占領する赤い軽四駆車に徐行しつつ近づき、様子を窺った。
助手席と運転席、両側の窓の上辺からもくもくと煙突めいて煙が立ち昇る。切子は反射的に身構えた。男に攫われるのではないか、と一瞬危うい憶測が脳裏を巡ったが、神社までの一本道に迂回ルートは無かった。
「何かあったら逆方向に全力疾走だな、こりゃ……」
片手をハンドルから放し、パーカーの懐のアクションカムを手探った。


心が灰皿で煙草の燃えさしを潰すと、瑞希にミラーを示した。
「みず姉、後ろ」
「ん……あッこれはまさか現地民キターッ!? 何て運がいいのかしら!」
瑞希が煙草を灰皿に放り、両手を打って嬉しそうに捲し立てて、運転席から飛び出すと、心が舌打ちして煙草の燃えさしを灰皿でにじり消した。
「お、女……?」
長い金髪を揺らして降り立つ瑞希に、切子は困惑して自転車を止める。
「ヘーイそこのかーのじょー! もしかしてこの辺の人かな?」
「は、はぁそうですけど……道に迷ったんですか?」
「そうなのよォ~も~う、ブードゥーマップにも載ってない場所でお手上げだったのォ~! 隠多喜神社に行きたいんだけど、この道で合ってる?」
瑞希の胡散臭い佇まいから出た意外な地名に、切子は思わず目を見張った。


隠ヶ平の山麓に続く、山あり谷あり曲がりくねった細道を、切子の自転車が先導してヘロヘロと走る。その背後を、瑞希のジムニーが徐行して続いた。
蛇めいてのたうち登る、心臓破りの坂の中腹、唐突にそれは姿を現した。
隠多喜神社・前宮。忘れ去られた古代神を祀る古社。少年・神事臨の生家。
切子が自転車から降り、瑞希と心が車を降りると、木々の梢より木漏れ日が淡く煌めき、アカショウビンの繊細な鳴き声がピッコロのように響いた。
切子、瑞希と心の三人は、朽ちかけた石鳥居の前に並び立つ。瑞希が鳥居を見上げて足を踏み出しかけ、心の一礼した姿を横目に、慌てて礼をした。
三人が境内に歩み入ると、片隅の露地に切り株が円陣を組んでいた。棚引く煙に興味を引かれ、切子が歩み寄ると、円陣の中では焚火が燃えていた。
赤い矢のように飛び、境内を横切るアカショウビンを、心が視線で追った。

――――――――――

山麓にせり出した崖地、隠多喜神社の横手の急斜面の数十メートル下方。
南那井川の静謐なる澱み、山を下ったばかりの清冽たる水で、一糸まとわぬ美少女、カミが水浴びをしていた。もっともカミは常より全裸であったが。
澱みの深みに身を沈め、水底に身を横たえて空を仰げば、澄んだ流水の音を聞き、水面に透けた陽射しが万華鏡めいて輝く。息継ぎも、身を切る極寒の冷水も一向関わりなく、カミは暫し川底より真昼の木漏れ日を眺めた。
やがてカミは岸に上がり、小石に水を滴らせた。禊というより、風呂にでも浸かるようだった。一頭の雌鹿が、木立の影からじっと様子を窺っていた。
「フム……久しぶりに鹿も食いたいものよ」
カミが視線を巡らせ、林に潜んだ鹿を目ざとく見つけて嘯くと、雌鹿は鋭い鳴き声と共に素早く斜面を駆け上がり、姿をくらました。カミは縦ロールの黒髪ロングから水を滴らせ、眼前に切り立つ急斜面を素手素足で登攀した。

――――――――――

境内の奥に佇む、牢獄めいたボロ屋敷……拝殿の格子戸の隙間から、三人が次々に賽銭を投げ入れると、柏手を打って礼拝した。瑞希は適当で、切子も会釈程度だったが、心は淀みない二礼二拍手一礼の後、暫し拝み続けた。
「感心ねぇ~ココちゃん。あんた、どこで覚えたのそんなの」
「ハァ? わかんね……常識だろ」
瑞希がギクリと笑みを引き攣らせると、切子が歩み戻って空を仰いだ。
「ここからも見えるんだ……あの山」
「あれは隠ヶ平と申す霊山。ワシら一族の故郷とされる聖なる山ですじゃ」
神職姿で、竹箒を手にした背の低い老人・丑寅がどこからか現れ、言った。
「あ、どうもお久しぶりです。ノゾムくんのお爺ちゃん、でしたよね」
「いかにもですじゃ。あいや失礼ながら、前にどこかで会いましたかのう」
丑寅は言いつつ、切子の背後より来たる人影に視線を滑らせた。瑞希と心の顔が見えるまで近づくと、丑寅は警察署の顛末を思い返し、頷いた。


先導する丑寅の後に続き、切子と瑞希と心は、神社横の古民家へと歩く。
「折角来てくれたことじゃしの、どうぞお茶でも飲んでってくだされ」
玄関から縁側へと回り込むと、麗奈が部屋着に半纏を羽織って板間に座り、膝に青白い鬼火狐を抱え、スマホを手繰って日向ぼっこをしていた。麗奈の膝上で狐が顔を上げ、つられて麗奈も視線を上げて、一行の存在に気付く。
「おーい、麗奈ァー! すまんが、お客さんに茶を淹れてくれんかァ!」
「えーめんどくさーい……あッ」
気怠そうに答える麗奈の懐から狐がひょいと飛び出すと、庭に降り立っては切子や心、瑞希たちに飛びかかっては離れ、周囲をグルグル回り始めた。
「ウワッ何こいつ! 何、何、何なのコワッ!? ちょ離れなさいって!」
無視して歩く心、横目に過ぎる切子をよそに、狐は瑞希の反応を面白がって彼女の周囲にまとわりつき、飛んで離れてを繰り返した。しかし屋敷裏から湿った足音を伴ってカミが現れると、鬼火狐は麗奈の懐へと飛び戻った。


全裸巨乳八頭身黒髪ロング縦ロールの水も滴る美少女に、心は瞠目しつつも半ば呆れ、切子は両目を指で隠し、瑞希は平手で顔を隠しつつ指差した。
「い、いやオメー……何でマッパなんだよ」
「ワ、ワ、ワ、ウワーッ! はだか! はだかのおんなのひと!」
「イヤーッ! 全裸! 変態! 痴女! 露出狂! 公然猥褻物陳列!」
心の呟きを切子の叫びが塗り潰し、切子の叫びを瑞希の指弾が上書きする。
「何じゃ、うぬら。随分と好き放題に言ってくれるよの……」
カミは顔を顰めて言いかけ、林間に轟く排気音を察して口を噤んだ。麗奈の膝上で鬼火狐が鋭く鳴き、彼女の羽織った半纏の背中へと素早く潜った。
「話は後じゃ。うぬら、屋敷へ上がっておれ。決して外には出るなよ」
「荒神様、急にどうされました」
「悪しき兆しじゃ、翁よ。うぬも屋敷へ籠っておれ。何かが……来る」
恭しく問う丑寅にカミが答え、歩き出す。その眼差しは鋭かった。

――――――――――

川沿いの畑道を、山道を、黒塗りの天鳥船(クルーザー)が駆ける。黒革のツナギに覆った巨躯でシートに跨り、無精髭の生えた豪胆な顔に悪戯っぽい笑みを浮かべ、レイバンのサングラスを木漏れ日に光らせ、雷神が奔る。
大型バイクでワインディングを自在に抜け、鳥居前に至れば赤いジムニーの隣へと単車を滑り込ませ、エンジンを停めると、辺りに静寂が戻った。
鹿島神はサングラスを外してツナギの開いた胸元に挿すと、巨体から想像もつかぬ身軽さでバイクを降り、のっしのっしと石鳥居に歩く。
「おぉ――いッ! かぁみよぉ――ッ! いるかぁ――ッ!」
玉砂利を踏みしだいて歩く鹿島神の前、焚火の燻る煙のカーテンの向こうに隠多喜のカミが腕組みし、境内の只中で待ち構えていた。
「不埒者め! そう大声を出さずとも聞こえておるわい!」
清水に洗われた裸身が木漏れ日を受け、火山めいて湯気をまとっていた。


「フン、手前か。ミナカタとやり合った『お友達』ってぇヤツはよ」
「友、とな。異なことを。彼奴は余の不倶戴天の怨敵、ただそれだけよ」
「カッハハハ! 何だその芝居がかった喋り方は。それにまあ、酷いナリをしやがって。洞窟から出て来たばかりの獣か、原始人か。あァン?」
煙を払い、髭をかきながら鹿島神は嘲い、傍らを見遣った。
「ゲッ!」
茂みの隙間で反射光。切子が隠れて握る、アクションカムのレンズだった。鹿島神は視線をカミに戻すと、腕を広げて深呼吸しつつ歩み寄った。
「ここはケダモノの匂いがするぜ。泥臭く、肥溜め臭くて、甚だ不愉快だ」
「戯け者がよう喋りおる。ここは余の領分じゃ、目障りゆえ早う失せろ」
「この建御雷に失せろ、だと? 聞きしに勝る傲岸不遜、身の程知らず!」
「傲岸不遜、とな。身の程知らずがどちらの方か、試してみるか」
鳥が鳴き、頭上を飛び去り……カミが睨み、鹿島神が笑った。


鹿島神が膝に手を突き、片足を大仰に振り上げて四股を踏んだ。着地点より辻風が立ち現れては吹き荒び、境内の焚火を吹き消した。
「受けて立つとも。それではとくと御覧じろ……ハッケヨーイッ!」
カミが即座に駆け出し、弓弦に弾かれた矢のように駆け、足裏で突いた。
鹿島神は両手をついて腰を落とした、関取の姿勢のままカミのローキックを顔面で受け、暴風めいた衝撃波を辺り一面に放射し、微動だにしなかった。
衝撃波に木々の梢がざわめき、木の葉と鳥たちが一斉に舞い上がる。茂みに潜んでアクションカムを構え続ける切子が、固唾を呑んだ。
「……ノコッタアアアァッ!」
すかさず身を翻し、三畳ほど飛び下がったカミへと、鹿島神の巨体が残像を引いて急接近。逃げる隙を与えずに組み合い、カミの裸体を正面から捉えて十間ほど押し遣り、両腕を掴みハンマー投げめいて宙に振り回すと、拝殿の上方、その背後に聳える山……隠ヶ平へと投げ飛ばした!

――――――――――

臨は山の中、斜面の洞穴の祭祀跡に腰を据え、滴る水の音に耳を傾けて瞑想していた。一週間飲まず食わずだったが、その顔には生気が満ちていた。
恐れ知らずの蜘蛛が顔を這い、髪に潜んだヤモリが飛び出して食らっても、臨はただ石のように座し、木のように背筋を正して瞑想を続けていた。
彼の周囲を、超自然の翠色の蛍火めいた御魂が飛び回っていたが、次の瞬間何かの気配を察したように掻き消え……臨は静かに目を開けた。
超音速の衝撃波を身にまとい、山麓からカミが来たりて、洞窟の上の斜面に隕石めいて衝突すると、木々や石塊を薙ぎ倒して斜面を駆け上がった。
採石場でダイナマイトが爆ぜたような衝撃が洞穴を貫き、埃が舞い、驚いたヤモリが臨の顔を飛び降り、土砂や生木が穴の外を夥しく滑り落ちた。
臨は猪のように駆け、鹿のように跳び、猿のように手繰り、地を踏み締めて木を駆け上がり岩壁を捉え、熊めいた力強さで急斜面を駆け上がった。


斜面にそそり立つ、磐座の一つたる巨岩に星型の罅(ヒビ)が入り、砕けて崩落した地点に、臨は走り来て立ち止まり、静かに様子を窺った。
「……ゲホッ、ゲッホ、ブゲッ! ぐぬぬ、奴やりよるわい!」
岩の下で、生き埋めにされたカミが悶え、口惜しげに声を震わせた。
おもむろに巨岩が持ち上がると、臨を目がけてふわりと舞い、落ちて来た。
臨は跳んだ。一撃で身を潰しかねない岩塊の鋭い切っ先を飛び越え、断面を駆け上がって踏み切り跳ぶと、前方宙返りを繰り返して着地した。
薄汚れ、獣めいた眼光を放つ臨に、カミは正対して会心の笑みを浮かべる。
「久しいな、ノゾムよ。いい顔つきじゃ……よう仕上がった」
カミの声を耳にした臨が、雷に打たれたように身を竦ませ、視線を落として自然と膝を折った。カミは悠然と歩み寄り、臨の頭に手を当てる。
「タキの末裔、余の血を分けた息子よ。お前は今や人であり人でなし……」
カミが厳かな祝辞を上げ終わる前に、風切り音を唸らせ、何かが飛び来た。


山麓より――黒い巨躯が――眩い後光を背に――雷の速さで――
「カッハッハッハッハハハハハアアアァ――ッ!」
カミは僅かに身を傾げた。臨は身を翻し、立木で跳ねて三角に跳んだ。
虚空を貫き、絶笑を朗々と響かせ、磐座の残骸を目がけ、衝突!
地中貫通爆弾めいた衝撃! 半分崩れかけた巨岩が、今度こそ木っ端微塵に粉砕され、地が捲れ返って塵芥舞い、石片と土砂が飛び散った!
足元の洞穴ごと地面が崩落! 夥しい生木と岩石と土砂が雪崩うち、斜面を滑り落ちる! シールを破り剥がすように、通り道の森を削ぎ落しながら!
遥か眼下の深谷を目がけ、土砂崩れがもうもうと注いで、漸く鎮まった。
「ゲ――ハッハッハッハハハハァ――ッ!」
鹿島神は胡坐をかいて空中浮遊し、閃く後光を身にまとって疾駆!
臨は反射的に身を躍らせ、転がる岩や流木を飛び石めいて飛び渡る!
カミは……土砂の生き埋めとなりつつ、蛮力で地中から這い出して走る!


森の斜面、鹿島神が降り立ち振り返れば、眼下に影を曳いて臨が立つ!
臨の顔と髪は汚れ、まとったジャージは破れ、瞳は爛々と輝いていた。
「カッハハハハハ……何だァ、手前はァ……」
その時、鹿島神の背後より絶叫轟かせ、巨大な黒熊が顎を開きて襲い来る!
鹿島神はおもむろに片手を背後に伸ばし、神をも畏れぬ熊の喉首を捉えた。
「人間風情が、この鹿島神にィ……頭が、高ええええェ――ッ!」
黒熊が驚き身悶えし、パチンコ玉のように宙を舞い、臨へと一直線!
臨もまた、両手の指を千切れんばかりに握りしめ、全身を力ませて跳躍! 熊の投擲に真っ向からぶつかり、交錯、解体、肉片と臓物を撒き散らせた!
臨が地を踏み、斜面を駆け上りつつ、鹿島神に何かを投げ返した。
空を切る物体を鹿島神が掴む! それは切断され、血の滴る黒熊の生首!
「成る程、面白ェ……オメー人かッ、それとも化け物かァッ!?」


臨は雄熊の心臓を食らい、より一層に瞳を輝かせて鹿島神へ迫る!
「おおおおもしれえええぇぜェッ!」
鹿島神もまた瞳を輝かせて、両手を打ちつけ腰を落とし、迎え撃った!
斜面の交錯! 鹿島神の神速残像タックル! 臨が跳び躱し背後を取る!
鹿島神の髪を片手で掴み、背後に体を落としつつ、もう片手で首狩り手刀!
鹿島神の丸太のような首に手首がめり込み、血管が浮かび……跳ね返した!
臨の右手の骨と、手先から肩の関節が連鎖破壊! その力、神に通用せず!
鹿島神はニヤリと笑い、右手の垂れ下がる臨を引き剥がして……投げた!
行き先には巨木! 宙に突き出す鋭利な太枝! 胸部を貫き、縫い留める!
「甘い甘い甘いッ! 熊と五十歩百歩の力だ、全くお話にもならないぜ!」
破れた心臓からシャワーのように血が注ぎ、鹿島神は呵々と大笑いした。


轟音が土埃を一斉に舞い上げた。鹿島神は振り返り、斜面に影を落とす。
影の先に、美少女姿のカミが立っていた。いくらか土埃に塗れてはいたが。
「ヘッヘヘへ……ご自慢の犬ッコロは串刺しになっちまったぜェ……」
カミの顔は見えなかったが、シィィと噴煙のごとく哄笑が空を切った。
「そいつはどうかな」
生木の枝が悲鳴を上げ折損! 臨が胸から血を噴きつつ回転落下! それもただの落下ではない! 無事な左手に勢いを乗せた、丸鋸が如く手刀!
鹿島神、再び振り返り眼前に片手を掲げる! 利き手でない左手! 落ちる臨の丸鋸手刀が衝突! 骨が折れ、関節が砕けるも、今度は弾かれない!
逃げ場のない宙空、衝突の威力が全身に巡り、臨は全身より噴血! しかし臨は鹿島神から目を離さぬ! 鹿島神が邪悪に笑い、臨を背負い投げ!
地が爆ぜる! 臨はバラバラになりながら、土砂と混じり合って埋もれた!


鹿島神が嘲るように乾いた笑いを放ち、クレーターを踏み渡って歩いた。
「お前ェ……俺を舐めてるのかァ? その偽りの姿ァ、その下に隠した真の姿を、この鹿島神に見せてみろォ。お前は……お前は本当は何なんだァ?」
「フン。忌々しき諏訪のもたらした、この鉄枷さえ無かばのう……」
カミの両手首で、両足首で、そして首で、藤縄状に縒り合されて銀色に輝く超自然の鉄輪が揺れ、凛と音を立てた。聖なる力でカミを圧するように。
「成る程、ミナカタの仕業か。あいつも余計な真似をしやがる……歯向かう土蜘蛛はァ……ブッ潰せばいいだけなのによおおおォッ!」
鹿島神が駆け下り、カミが駆け上がる! 両者の拳が真っ向からかち合い、林間を衝撃波が貫いた! 鹿島神が十間退き、カミが二町吹き飛んだ!
「グッフグフグフ……土蜘蛛の分際にしちゃあやるじゃねえか……」
鹿島神の見下ろす斜面の穴で、血塗れの腕が土砂をかき分け、飛び出した。


【カミ様少女を殺陣祀れ!/19話 おわり】
【次回に続く】

From: slaughtercult
THANK YOU FOR YOUR READING!
SEE YOU NEXT TIME!

頂いた投げ銭は、世界中の奇妙アイテムの収集に使わせていただきます。 メールアドレス & PayPal 窓口 ⇒ slautercult@gmail.com Amazon 窓口 ⇒ https://bit.ly/2XXZdS7