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【給食会社って知ってますか?】子どもを脅かす給食停止問題の原因

心配が現実になった、給食会社の破産

 広島市の食堂運営会社「ホーユー」が、2023年9月、破産手続きに入ることが分かった。
それに先立つ形で、同社に業務委託をしていた学校などの約150施設では、利用者への食事が提供できない状態。
そのため、各施設の職員がスーパーやコンビニを回り、利用者用の食料を調達せざるを得ない日が続いている。

 とうとうこの日が来てしまった。
皮肉なことに、子どもたちにまで大きな影響が出るかたちで。

給食,会社

破産の影響は、他府県にも及ぶ

 今回の破産の影響は、広島市や広島県だけにとどまらない。
運営会社は全国22カ所に営業所を構え、国内の2道府県以上で学校や学生寮の食堂などで食事の提供を行なっている。
そのため、他府県にもその影響が及んでいる。
静岡県知事や大阪部知事も、この件で困惑のコメントを発表している。


給食停止の原因は、行政の不条理な対応

 今回の問題には、業務委託の際に特に行政でよく見られる「不条理な対応」があると思われる。
今回破産する会社に業務を委託した施設の内訳はよく分からないが、公立の施設が含まれていることは間違いない。

 そして今回の問題は広島市だけでなく、全国どの施設で起きてもおかしくない問題なのだ。
特にお子さんをかかえるご家庭では、お子さんの通う学校の給食がなくなったりするかもしれない

 今回の問題の原因として、
インフレに慣れていなかった日本とそれに対応できない行政の甘さ
が挙げられる。

 そしてこのまま行政が手をこまねいていると、
普段当たり前のように利用している公的なサービスがいきなり停止するかもしれない

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作者のプロフィール

〇 私(スカイハイ)
 片田舎で男性公務員だったが、第2子誕生の際に1年間の育休を取得
育休後に復職するも、将来を見据え、退職・独立。
引き継いだ農地で小規模農業を行いつつ、ブロガーとしても活動中。
行政職員として経験した「ヤミ」を発信中。

 今回の倒産ニュースを見て、「これは子どもたちにも影響があるぞ!」と危機感を抱いたのでこの記事を投稿する。


今回の給食等提供会社の倒産きっかけ

 まず今回の食堂運営会社が破産した原因として、
食材費の値上がり」があるだろう。

もともと健全な経営をしていたかどうかは、今のところ不明。
しかし、近年のウクライナ戦争から始まった食材費の高騰は、確実に経営を圧迫したのだろう。

 そもそもこの問題は、
ある会社が破産して、学校の食堂や施設の食事提供が停止しました
では、終わらない。

食事を配給する会社は日本全国どこでも、食材費の高騰に悩まされている。店舗型のお店であれば、事業主や運営法人の苦渋の判断で提供メニューを値上げできる。

しかし、今回のような「業務委託を受けて食事を提供するスタイル」では、値上げは相当難しいのだ。

これには、入札や業務委託特有の事情がある。
特に学校などの公共施設との受託契約では、その問題が顕著になる。

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公共施設との委託契約の問題

 もし、都道府県や市町村などの地方自治体が運営する公共施設に、食堂が必要だったとする。
すると地方自治体は、
「年間〇〇万円で、ドコドコと契約し委託料を払います」
という予算案を、そこの議会で認めてもらう必要がある。

この予算案が了承されると自治体は、入札や業務委託などを行ないその食堂を運営してくれる団体を選定する。
ここで給食などを提供する会社が選ばれることが多い。

「〇年間、ここの食堂で食事を提供します」という契約をその団体と結び、業務が提供されると団体に代金が支払われる。

 今までのように食材費や物価が高騰していない状況では、問題なく契約年数を消化できていただろう。


食材の納入でも同じ仕組み

 全国の小中学校の給食では、公立の給食センターを構える自治体が多い。そこで働く方たちは、公務員やそれに準じた立場となる。

 しかしそのような施設でも、食材を業者から購入しているというパターンがメインだろう。
この納入でも「年間通じて、〇〇円で納入します」という入札契約が主流。ここでも各市町村では予算が決められているので、先ほどの業務委託契約と同じ扱いになる。

「年間通じて〇〇円で納入、途中で値上げはめったにできない」という非情な仕組みなのだ。


行政による契約は、インフレ対応が遅い

 今回の問題は次の2つであるが、その内情を解説する

  1. 近年は、国内外で急激なインフレ局面にあったこと

  2. 自治体で決められた予算は、簡単に増額できないこと

1.インフレへの対応は、ほぼ未経験

 日本は「失われた30年」と言われるほど景気が低迷し、デフレの局面が続いていた
そのため、今回のインフレ局面で行政の素早い対応ができなかった。
各自治体で、物価高に困る会社に補助金を支給する事業は全国的に見受けられる。
しかし、いったん契約した業務委託契約などの増額を認めるのは、別次元の対応である。

 委託契約の条項には、「不慮の事態があった際には、契約者双方が対応を協議する」という救済的な文言が存在することが多い。
しかし、これは「建前上は、どんな状況にも対応できる」ようにしておく万能型の文言。

 誰が見ても分かるような大災害が起きれば、説明もつきやすい。
しかし今回のようなインフレに対してこの文言で対応できるかどうかは、とても疑問である。
行政側の担当しては何も波風を立てずに、契約期間が終了することを願うばかりである

2.予算流用や予算増額という手段は、困難

 インフレはともかく行政事業の経費が膨らみすぎると、行政にも表向きの対応策がある。
他の予算から必要額を補う「予算流用」や、その事業の予算増額を自治体に要求することも可能。
しかし、地方自治体の予算当局を説得するのはかなりの苦労で、予算措置までにもけっこうな時間もかかる。

自治体の’有能’な予算係のはたらき

 現場から「委託契約の増額を求める声」があがっても、自治体の’有能’とされる予算係には聞き入ってもらうことが難しい。
なぜなら契約金額の増額を行なおうとすると、流用もしくは増額の審議などで予算係自らの業務量が増加するからである。

また予算流用や増額の起案を上司にあげても、決して良い顔はされない。
上司からすると「そんな話は上げずに、下で潰してこいよ」という心境だ。インフレ局面ではなかったが、実際に私が勤めていた予算所属で言われたことがある。
当時の優秀な先輩は、このような要望に対して硬軟織り交ぜて、増額要求させないようにしていた。

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まずは、行政の柔軟な対応を

 このように行政の硬直的な仕組みが機能し続けていると、給食会社など現場からの悲鳴は届かないままである。
たとえ悲鳴が届いたとしても、増額措置が間に合わず破産することもある。

 皮肉なことにその結果、今回のニュースのように現場の職員が利用者の食料調達に駆り出されるなど、行政コストが増大し業務の停滞を招くのだ。


行政の事情

 行政は、今回のようにインフレ局面での対応が遅い。
その根底には、行政特有の事情が存在する。

事情1.インフレ影響の判断が難しい

 食堂などの運営を委託した事業者の経営が悪化しても、それがインフレによるものなのかどうかは、判断が難しい。
もともの放漫経営のツケが一気に回ってきたかもしれないし、インフレとは別の要因があるのかもしれない。

 補填や予算増額の原資は、もちろん税金である。
税金を投入するので不適切な使い方をすると、後に議会や住民から責められることになる。

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 業者の選定

 行政においても業務委託で不適切な業者を選ばないように、いろんな準備をしている。
たとえば、入札の時点でさまざな経営条件などを課し、一定のレベル以下の事業者の参加を排除している。
また委託内容に合わせ、柔軟に条件を課してよりよい業者を選定できるようになっている。
これはこれで、「行政は事前に事業者を見定めてますよ」という’言い訳’なのだ。
このような公務員の「言い訳ばかり作る仕事」に心が疲弊してしまった私である。


事情2.制度を悪用する事業者の存在

 近年のコロナ禍の補助金で報道されたように、補助金などの支給に合わせて制度を悪用する事業者も横行する。
 コロナ禍の対応では、緊急で事業者を救済する必要があったため、「とりあえず必要書類がそろっていればOK!」で補助金が支給された。

 しかし「不正支給」とされた案件がたくさんあり、警察が事後的に動く形になった。

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 コロナ関連補助金の主体は経済産業省や中小企業庁が多かったが、「迅速すぎる補助金支給」で痛い目を見たのではないか。

 このような事態を受けて、今回のインフレ局面では行政も「事業者の制度悪用がないよう、経営実態を正確に見極める」という慎重姿勢になるのではないかと予想される。


民間組織の対応はどうなのか

 特に行政はインフレなどの物価高騰への対応は、極めて遅い。
しかし、民間の会社などの組織でも年間の予算を立てているという点では、その対応は似通ってくるだろう。
 給食業者が「受託契約を値上げしたい」と言っても、委託元の親会社が民間組織だから二つ返事でOKとはならない。


まとめ あなたの子どもにも迫る問題「学校の給食停止」

 以上のように行政の対応を切り口に解説してきたが、今回の給食危機の問題の裏には「行政による入札や委託契約の不条理な仕組み」がある。

 そしてその仕組みは、民間組織でも大きく変わらない。
つまり今回の給食関連会社の破産というのは、日本国民全体に大きくのしかかる問題だ。

子どもをかかえる家庭では、「学校の給食停止」という問題が迫っている。

 さらに不安をあおるようだが、この数年で銀行などから「ゼロゼロ融資」を受けた企業では借入金の返済が始まる。
2020年からのコロナ渦中で、政府は経営に苦しむ事業者に対し「無利子・無担保」のゼロゼロ融資を進めて、事業者救済を図った。
この融資で事業を立て直すことができればよいが、「単なる延命」になった事業者も多いと聞く。
この借入金の返済が本格的になると、事業者の経営体力がより奪われ、倒産のリスクがより高まる。


行政に期待される対応

 行政側も、苦しむ企業などに補助金や助成金を用意するなどの対応は行っている。
しかし、インフレによるリアルな影響を見極めることは、自治体にも困難だろう。
「インフレ」に乗じて代金増額を目論む悪徳業者も横行する恐れがあるからである。

行政や自治体においては、委託契約先の経営状況を見極める体制を構築し、必要に応じてインフレによるコストを補填する対応をしてほしい。

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