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意識「他界」系 その77

呻き声と共に目を開いた橋爪が最初に目にしたのは、タイトスカートの中のピンクのショーツだった。普段なら見ることの無い真下からのアングル。男子として普通なら嬉しいはずだが、ピンクのショーツの主が自分に銃口を向けていれば話は別だ。

どうしてくれるんだ馬鹿野郎と怒鳴りつけているトラックの運転手に、全く目線をやることも無く、乱堂美姫は冷たい表情で橋爪を見下ろしていた。

「どこに雇われてるのか正直に喋ってくれる? まあ、そう言われて喋るスパイはいないだろうけどね」

「まあな」上目遣いが疲れたので橋爪は倒れたまま真上を見た。満月が冷たく光っていた。見下ろせば両手首には銀の手錠が光っている。

「ウチの内部調査室の連中、容赦ないわよ。拷問のスペシャリストが揃ってるから。多分アンタは1時間もすれば、早く殺してくれって叫ぶことになるわ」

橋爪も噂では聞いていた。一本ずつ歯をペンチで抜かれ、爪を剥されるなんてのは前菜で、メインディッシュの頃には精神崩壊寸前まで追い込まれるらしい。少なくとも、そこから生きて帰ってきたスパイというのは聞いたことがない。

「…正直に話すから、そいつで頭をぶち抜いてくれないか?」

「内容次第では、ね」

覚悟を決めた橋爪は、一つ咳払いをしてから話し出した。「アンタの言ってた、その『人口削減委員会』のことは知ってる。そいつらが戦争を作り出したり、気象兵器やウイルスで有色人種を減らしてるのもな。でも、俺は無関係だ。俺が追っていたのは違う。国を売るようなことはしてない、絶対に」

美姫は怒鳴る運転手に警察手帳を見せて黙らせた。銃の先を少し動かし、続けてと橋爪に促す。

「俺が追っていたのは…まあ聞いたら、アンタはきっと笑うだろうけど」

「何よ、もったいぶらないで」

「いいか、驚くなよ…不老不死、だ」

「え? 意味分かんない」

「だから、『不老不死人間』」

「不老不死? 何それ、冗談でしょ?」

「だろ? 何でも、日本の古代天皇たちの異常な長寿を調べているうちに、そういう説が浮上したんだとさ」橋爪は、仁徳天皇が143歳没だとか武内宿禰は295歳まで生きただとか話すと付け加えた。「彼らに『不老不死人間の血』が混じっていたから、ありえないほどの長寿なんだとさ。ホント笑える。でもって、そんな与太話を真剣に信じてる連中がいるのも凄いけどな」

その連中って? という美姫の質問に「団体名は流石に喋れないが、確かに俺は大金貰ってソイツの存在を調べていたのは事実だ」と橋爪は答えた。

「で、死ぬ前にアンタには教えてやるよ。そいつの名前はマツオバ・ショウ」

「マツオバ・ショウ? 場末のホストにでもいそうな名前じゃない?」

「まあな…さあ、俺は洗いざらい喋った。殺してくれ」

「ダメよ。アナタには色々証言してもらわないと。内部調査室にも、あとクルマの保険屋にもね」



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