
足りないのは、身体性への自覚 ― 男がフェミニズムについて考えてみた
日本赤十字社の宇崎ちゃんポスターが、「過度に性的ではないか」とネットで話題になっている。
このポスターに関して議論をするつもりはない。しかし、私は男性である。そして、どちらかといえば「オタク」に近いアイデンティティもある。正直、戸惑っている。
一方で、1~2年前からフェミニズムには興味があり、少しだけ調べていたこともある。男である私は、フェミニズムが提示する議論に混乱し、戸惑い、そして吐き気も経験した。「フェミニズムなんて嫌いだ」と思ったこともある。
その中で、「それでもやっぱり考えてみよう」と思いたち、Twitterで考えや気持ちを書き出してみた。以下、私のツイートを並べる。
フェミニズムに接した男の戸惑いと吐き気
男にとって「男は社会的に下駄を履かされている、生きているだけで女より得してる」と明確に自覚できたなら、吐き気がするものだ。少なくとも自分は気分が悪くなった。むしろ吐き気に至る前にそれを自覚できない男が多数派かもしれない。
— ふじわらゆい@プライベート🍵 (@sky_y) November 2, 2019
弱い男は、弱さと卑屈さと社会的正義の板挟みになりやすい。
個人的には、今の世の中なら弱さをそのまま出せるなら最もイージーだと思う。しかし卑屈さ(高すぎるプライドと挫折感、コンプレックスなど)が、弱さの表出を邪魔する。容姿も自尊心にマイナスの影響を及ぼす。
— ふじわらゆい@プライベート🍵 (@sky_y) November 2, 2019
社会的正義(強い者は弱い者を助けろ)も、男の弱さの表出を抑制する傾向にあるだろう。
男がフェミニズムを学ぶことについて
男がまともにフェミニズムと接するならば、少なからず戸惑いと後ろめたさと吐き気を感じるだろう。男にとって「お前は敵だ!」と言われるような学問は学びたくない。
— ふじわらゆい@プライベート🍵 (@sky_y) November 2, 2019
一方で、男であっても、フェミニズムに歴史や各種流派があり「一枚岩ではない」と理屈を理解することは案外難しくないと思う。
もしあなたが男で、女性のパートナーや妻がいるなら、フェミニズム(ジェンダー学)は実用に足る価値があるだろう。話すことが重要だ。
— ふじわらゆい@プライベート🍵 (@sky_y) November 2, 2019
異なる価値観を持つ人間が最も傍にいること、「真の理解」に近づけなくても「理解しようとする態度」が尊いことをフェミニズムから学べるはず。
男がフェミニズムを理解しにくい理由は、身体性への無自覚?
仮説だが、男がフェミニズムを理解しにくい理由の一つは「身体性および自身の身体への無自覚」だと思う。
— ふじわらゆい@プライベート🍵 (@sky_y) November 2, 2019
女性にとっての「男性の威圧感」は、男性の身体(声や表情も含む)を抜きに説明できないだろう。それは男性にとって所与のものであり、特に外見を整える習慣のない男には自覚も工夫も難しい。
幸か不幸か、女性は男性に比べ、嫌でも自身の身体と向きあわざるを得ない機会が多くなる。道端での視線、就活や勤務でのメイク、その他ミクロすぎて列挙しきれない身体自覚が日常だ。
— ふじわらゆい@プライベート🍵 (@sky_y) November 2, 2019
それに比べ、男は身体を一切気にしなくても生きていける。鏡を見ずに済む。故に己の身体性を自覚する機会に乏しい。
提案:身体・演劇エクササイズを取り入れた「男性のためのフェミニズム入門」
もしかしたら、男がジェンダーを自覚するために必要なのは、劇や身体表現を通じたエクササイズなのかもしれない。自分の身体に向きあうこと。鏡を見てニュートラルに自分の顔と身体を刮目すること。普段と違う表情、声、しぐさをしてみること。
— ふじわらゆい@プライベート🍵 (@sky_y) November 2, 2019
「自分の身体は自分のもの」と理解し腑に落ちること。
逆に、女性のためのフェミニズムは、身体性への自覚を嫌ほど経験している前提があるのかもしれない。
— ふじわらゆい@プライベート🍵 (@sky_y) November 2, 2019
つまり、男性のためのフェミニズム入門には、本題の前に身体・演劇エクササイズがあると腑に落ちやすいのではないか。「自覚を促す」ことを、身体的なアプローチからやると案外うまくのかも。
最後に
最後に、これはどちらかといえば個人的な願いだ。
— ふじわらゆい@プライベート🍵 (@sky_y) November 2, 2019
ほとんどの男は「自分の下心や性的欲求を公的に表出しない」ことが社会的に存在できる必要条件とわきまえている。だからその欲求や外見を馬鹿にせず、安易に刺激・中傷しないでほしい。
男のオタクは案外傷ついているのにも関わらず、自覚できない。
ただ「表現の自由」で暴れ回っているオタクは、自分の身体性や暴力性をうまく自覚できず、社会や他者から大事にされていないのだと思う。
— ふじわらゆい@プライベート🍵 (@sky_y) November 2, 2019
それどころか、自分自身を大事にできず、外見に自信もなく、傷つき、数少ない生きがいであるオタク趣味も社会正義的に迫害され、敏感になっているだけだろう。
余談だがトラウマ治療の世界では、安易にフラッシュバックを呼び起こすことを抑えて治療を進める療法(EMDRなど)が開発されている。
— ふじわらゆい@プライベート🍵 (@sky_y) November 2, 2019
フェミニズムでも同様に、「男性への攻撃」や「男性が感じる吐き気」なしに、ジェンダー感覚や身体性への自覚を持てる手法が開発されることを願っている。 https://t.co/E5eioA7Oo2
反応
大賛同を送りたいです。身体性の無自覚は、非言語コミュニケーションの無自覚につながります。男性は、男の子は、もっと自分の体を大事にしたほうがいいと思ってます。 https://t.co/piAR9kmeXQ
— 佐川・抜け首・なん (@nankuru28) November 2, 2019
これ、プロデュース101を見ると、すごいわかるよ。
— 佐川・抜け首・なん (@nankuru28) November 2, 2019
自分の身体性をつかんでいく男の子たち見ると、変化にびっくりするし、応援したくなるし、些細な返事の仕方や表情一つでどれだけの人に「反感を買う」かとか、分かるよ。 https://t.co/j946hxuBYk
おまけ:フェミニズム初心者のための情報源とキーワード
フェミニズムは、一般にはジェンダー学という学問で取り扱われます。なので「ジェンダー」の入門書を手に取るとよいでしょう。(下記は一例です)
まずは、フェミニズムの歴史と流派をざっと抑えましょう(下記リンク)。フェミニズムは大ざっぱに分類しても「第一波/第二波/第三波フェミニズム」という歴史があり、さらにさまざまな流派がある(一枚岩ではない)ことを、まずは理解しましょう。
個人的には、次のサイトである程度学びました。ボリュームたっぷりで、いろいろな角度からフェミニズム(そして自分自身の生きづらさ)を考えることができます。
これからフェミニズムを学ぶ方(特に男性)は、次のような事項や概念を押さえるとよいでしょう。
■マンスプレイニング、有徴/無徴
(下記記事は男性にとって、理解が難しい or 気分を悪くする可能性があるので注意)
■バッド・フェミニスト
ロクサーヌ・ゲイ『バッド・フェミニスト』という本があります。
「バッド・フェミニスト」という概念は、葛藤の中で生きる女性のリアルを表す、現実的で人間らしい考え方だと思います。男性にとっても励みになるでしょう。
彼女は、自分も長くフェミニストと呼ばれることを拒み、フェミニストを誤解していたと繰り返す。そして、フェミニズムの正しさを支持しながらも、ものすごく女性を貶めるようなラップ音楽の歌詞や、ピンクのドレスに感じてしまうどうしようもない魅力の双方を否定しないために、完璧ではないけれどもフェミニズムを固く信じる「バッド・フェミニスト」を名乗る。
「バッド・フェミニスト」とは何か? | 文春オンライン
個人的に好きな書評:
本当に言いたいこと
最後に言いたいことがあります。
自分の身体と向きあってみよう。自分のことを大事にしよう。
私は、自分の身体に自信がない人間です。物心ついたときからお腹は出ているし、服もテキトーだし、表情はいつも硬い。肌はアトピーだし、運動は苦手で、猫背です。鏡を見ることも普段はありません。たまにちゃんとした服を着るときだけ。
おまけに、大人になってからのモラハラでうつになり、長らく自分を大切にすることをすっかり忘れていました。
そしてここ1ヶ月で、また本格的にしんどくなったため、今は仕事をかなり減らしています。余裕ができたので、本格的に「自分を大事にする」練習をしています。
その背景でフェミニズムについて改めて触れると、実はそのメッセージは「あなたの身体はあなたのもの」「あなたは自由に生きていい」だったりするのです。フェミニズムは、本来は人の幸せのためにあったはずの学問なのだと思います。
(繰り返しますが、フェミニズムは一枚岩ではないです。まともな情報源でゆったり学べば、その分別はつくと思います)
結局、私はフェミニストを自称することはないと思います。ただ、「バッド・フェミニスト」的な立場にはいたいと思います。文化的にインストールされた「男らしさ」には縛られているし、エロい話もまあまあ好きだし。
さあ、もう一度。
自分の身体と向きあってみよう。自分のことを大事にしよう。
藤原 惟
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