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神々のトリッガー

 このところ、おれの標的を隕石に横取りされている。さっき5人目が死んだ。
 電話口でボスが苦笑する。
「そろそろ依頼金の返還は終わりにしたいのだがねぇ」
 おれは受話器を叩きつけた。
 電話ボックスと車道越しにライバルを見つめる。厳重に梱包され、大人数に囲まれて博物館に向かおうとしている。
 安アパートに帰るとモモミはベッドでスマホ。
「帰ったよ」おれは言った。
「仕事は」モモミはこっちを見ずに言った。
「またやられた」
「ラーメン、買ってあるよ」
 おれは黙って銃のメンテにかかる。

 ラーメンはにんにくがよく効いていた。
「あたしもそろそろ覚悟しなくちゃだめかな、テレクラ」モモミは塩ラーメンを啜って言った。
「カネはたっぷり残ってんだ。まだ寄生しがいはあるよ」
「だったら引っ越そうよ、広いとこ」
「ここで充分だろ」
「なに、怒ってるのさ」
「プロのくやしさは女にはわからねえよ」
「10年続いたトップランナー、宇宙の殺し屋に敗れ引退、か」
「ばか言うな」
 その時、急にひどく足元が揺れだして、おれは麺をこぼさないよう必死になった。ここまで大きな地震は最近はなかった。
 しばらくして揺れはおさまった。久しぶりに鼓動が早くなっていた。
 机の上のモモミのスマホから、嫌な音楽が流れ出した。緊急のしらせだ。モモミはその画面を覗き込んだ。
「えっ、トーキョーがやばいよ、ねえ、ここからすぐ近くだよね」
 おれは震えるモモミのスマホをもぎ取った。おれが息を呑むのと玄関のドアが開くのが同時だった。鍵は掛かっていた。重装備の男たちがなだれ込んできて、おれたちにSFみたいな銃口の群れを突きつけた。偉そうな眼帯がひとり出てきて言った。
「仕事を依頼したい。報酬は即金で払う用意がある」
 脇の男がべらぼうにでかいアタッシェケースを床に落とした。大きな音がした。
「標的は」おれは言った。体が震えていた。
 街では耳をつんざくようなサイレンが鳴りはじめた。

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