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メディアサービスとそのUIにおけるモラル

多くのユーザーに触れてもらうメディアサービスのUIデザイナーをしている。

ビジネス上の狙いとそれを表現するUIにはどうしても苦悩がつきもの。

例えば...

1. 性別選択UI

サービス上でユーザー情報として性別を取得するケースがよくある。

ユーザーの自認するジェンダーをなるべく選択肢から排除しないように、男性/女性の他に項目を用意しているサービスも増えてきている。

「男性/女性/その他」にしているサービスが多いのではないだろうか。

「男性/女性/カスタム」のようにしてさらに多様な選択肢を提供しているサービスもある。


ここで問題とされることの一部を取り上げる。
①「その他」という表現について
②そもそも性別を聞く必要性とその配慮について

①「その他」という表現について
男性とも女性とも答えたくない人にとって、「自分は"その他"なのか」と感じさせてしまうのはよろしくない。
その場合「どちらでもない」というラベルにするのもいいかもしれないし、「その他・無回答」としているサービスもある。(「その他」と「無回答」を別の項目に分けているところもある。)
「その他」や「どちらでもない」は生物学上の性と性自認が一致していないまたは不明な場合に選択される傾向にあると思う。
「無回答」や「指定なし」はどちらかというと答えたくない意思表示ができる項目。

②そもそも性別を聞く必要性とその配慮について
そもそも、性別データを取得する必要がそのサービスにあるのだろうか。聞かれること自体が苦痛の人ももちろん多い。(そのようなアンケートに出会っても毎回スルーしている人は多いのではないだろうか)
まぁ、実際はほとんどの場合で「必要」なのだろう...。
FacebookのようなSNS、動画コンテンツやニュース系のメディアサービスでは実際に性別データがビジネス上、一定の影響力がある。
多様な性がある世界だが、実際はこのデータをレコメンデーションに使用すると母数が多ければそれなりに一定の傾向が見られるのだと思われる。
広告配信も性別や年齢でターゲティングすることがビジネス上ではかなり大きなインパクトとして求められる。(ヒゲ剃りのCMを男性に配信する等)
ここらへんの話になってくると、そもそも昨今のITサービスの徹底的なレコメンデーションやターゲティングに対して制限が必要なのでは?という大きな議論もある。世界的に新たなガイドラインや制限がないと、民間企業がそれぞれのポリシーとして制限するのは相当な意思が必要だと感じる。

また、年齢を取得する際も
・デフォルトが何歳になっているべきか
・10歳区切りにした場合「〇〇歳以上」と大きく括ると年寄り扱いされているように感じるのではないか
・年齢を直接入力させるのか、生年月日を入力させるのか
・聞かれたくない、答えたくない人
などの考慮が必要だ。

性別も年齢も、ビジネス上は取得せざるを得ない時にどのようなUIを採用するかが難しい。

多様な選択肢を提供するには、それなりに画面上のスペースも必要だし、開発コストも多少は増える。
さらには、ここに「回答率」などの指標が課せられる。悲しいかな、「男性」と「女性」以外の項目は選択されたとしてもレコメンデーションなどのロジックに反映されないケースが多いのではないだろうか。
「その他/無回答/どちらでもない」の項目はビジネスのKPI的には軽視される傾向があるように思える...。

だが、なんとNetflixはパーソナライズ/レコメンデーションに性別や年齢データを使用してないとのこと。

どんな作品が見たいかは性別や年齢などである程度全般的なことが言えるのかもしれませんが、やはり個々の好みは違います。私たちが知りたいのは“real you”、本当のあなたが何を求めているのかです。そのために必要な方法も既に持っていますから、現時点では性別や年齢などの情報は使う必要はないと判断しています。

素晴らしいと思う。が、おそらくコレはずば抜けたレコメンデーション、パーソナライズの技術ゆえの判断なのだと思う。
その技術を持たない企業がこの判断をするのは、前述したように「意思」が必要だと感じる。

2. 人種や国籍に対する考慮が足りないUI

これもかなり事例が多いし様々な知識を要するので簡単な問題ではない。

例えば、姓と名が分かれている入力フォームはミドルネームを持つユーザーを悩ませることになるかもしれない。名前のひらがな・カタカナ・漢字の強制バリデーションは他のシステムとの連携時などに困ることが多いそうだ。
生年月日も、和暦を知らないユーザーは西暦の方がいい。
居住地は、日本国内は細かく都道府県で分けられるのに対して、海外は「その他」でまとめられることが多い。国籍に関わらず、海外と行き来することが多い人もいるし、より排他的ではないUIはありそうだ。
また、人種への「イメージ」でクリエイティブが作られる問題もある。特定の音楽やスポーツなどを表現する際に、特定の人種のフリー写真素材を選んでバナー画像を作ったり、とかはよくあるのではないだろうか。

3. バイアスへの考慮が足りないUI

記事内の言い回しや、バナー画像のクリエイティブなどで偏見やステレオタイプとしての表現をしてしまうことが多いと思われる。

・機械に困る人を表現する際に女性のイラストを用いる
・育児を表現する際に女性のイラストを用いる
・転職やキャリアアップの表現に男性のイラストを用いる
・性的客体化をした表現をする
・外国人を表現する際に金髪の白人女性のイラストを用いる

何かを作る時に、急げば急ぐほどクリエイティブの構成要素としてパッと思い浮かんだ対象を扱ってしまうことは多いのではないだろうか。

また、特定のコンテンツを「男性向け」「女性向け」と勝手にラベリングしてしまう運用も見かける。
「スターウォーズは男性向けの映画です!」「ラ・ラ・ランドは女性向けの映画です!」と言ってしまうことに対して、違和感を覚えること。
確かにそのコンテンツはユーザー属性に偏った人気があるかもしれない。だが、それをサービス側がラベリングしてしまうのは少し違うのではないだろうか。
(「男性によく見られている映画です」などとあくまでも事実を言っているのならまだわからんでもない)
そもそもこれはビジネス上も機会損失を生んでいるので、より得策ではないと思う。

4. 法的、規律的に問題のあるUI

著作権、肖像権、景品表示法、薬事法など、一定の知識とプロからのレビューがないとよろしくない表現になってしまうケースもよくある。

ものづくりをする人が知っておいた方がいいかどうかでいうとそりゃあ知っといた方がいいんだろうが、少なくとも必ずプロや詳しい人にレビュー/ネガティブチェックを求めるのは一つの手ではないだろうか。

法律でなくても、プラットフォームのガイドラインやアクセシビリティの基準など様々な観点がある。

特にアクセシビリティの観点はより多くのユーザーに公平に使ってもらえるような設計をするために重要である。

アクセシブルでないWebサイトが訴訟を起こされるケースも海外ではよく見られる。

5. 政治、宗教、文化、歴史への考慮が足りないケース

知識がなかったりレビューがされない環境だったりすると、なかなかアウトなクリエイティブが生まれてしまう可能性は多分に有る。

「文化の盗用」というワードも最近よく聞くようになった。


・造形としてかわいいからとある軍服をモチーフにした
・レトロな表現がしたくて特定の文化や政治にまつわるモチーフを使った
・なんかかっこいいから特定の文化の装飾や文字を使った

などなど、自分も思わずやってしまった、というクリエイターは多いのではないだろうか。

どれも完全に明確なOKライン、NGラインはないと思うが、最終的にはその対象の知識をちゃんと学び、尊敬と敬意を持った上で検討されているかどうかが重要になってくる気がする。


最後に

この記事で取り上げた例はほんの一部だと思うし、自分も知識や思考が足りなくていつもアワアワしている。

問題視されるUI、クリエイティブ、コンテンツも、実際作り手は相当な熱量を持って本気で作っていることがほとんどだと思う。
ただそこに少しだけ知識がなかったり、レビューされる環境がなかったり、どうしようもない外的要因があったのだろう、と…。

自分が所属しているものづくりの組織にも、少しずつ知識をインストールしていけるように働きかけていきたい。
知らないで作るのと知った上でどうするか考えるのは全然違うから。

ただ、ハードルに感じるのはこれをガイドラインやルールのようにして全員に示したところで、
少なくない人に「ポリコレにより面白いものが作れない」「めんどくさいルール」「少数のユーザーを優先なんてできない」「そうは言ってもビジネス上のインパクトが弱くなる」と思われてもおかしくない。
トップダウンの方針で無い限りは、共感と浸透に向けて工夫が必要だと感じる。

自分の中では、ただ単に自分のものづくりや仕事で誰かを傷つけたくない、という単純な原動力が強い。
もう少し広く捉えると「社会への影響」や「凝り固まった価値観のアップデート」など色んな観点はあるのだろうけど。

考えれば考えるほど自分の知識が足りないことを痛感するし、体現もできていないし、正解もわからないのだが、一つ一つ向き合っていくしかない。




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