風景を残して未来を残す
「いつまで存在するか分からない、その”限定性”が人々を惹きつけているのも事実です」
衝撃的だった。
目の前の光景は、筆舌にしがたく、ただただ美しい
「こんな絶景は後世に引き継がなければならない」
そう思っていた矢先の言葉だった。
目の前に広がる青い世界
氷河だ
2018年6月、僕は滞在中のニュージーランド(以下、NZ)で、氷河ウォーキングのツアーに参加していた。
「氷河の上を歩く経験なんてなかなかできないから」という”地域的な限定性”が動機であったが、なるほど、「いつまであるか分からない」という”時間的限定性”が、氷河の希少価値を皮肉にも高めていた
恐らく僕自身も無意識に感じていたのだろう
氷河の名前はフォクス氷河(英:Fox Glacier)
NZ南島の西海岸沿いに位置する氷河だ。
世界的にも珍しく、アクセスが手頃な歩ける氷河として有名で、毎年多くの観光客が訪れる。
驚くべきことに、この氷河は約10年ほど前までは徒歩でアクセスすることができた。
温暖化の影響で急速に氷河が後退しているため、現在は安全上の理由からヘリコプターでのアクセスのみとなっている。
これを聞いて残念に思った。
現地では実際にガイドがこの数年でどれくらいの後退が進んでいるかを説明してくれた。
自分の目で見ない限りこの衝撃は伝わらないと思うが、当時、直近の10年くらいの間に過去80年分に相当する後退が進んでいると推測されていた。
クレバスや氷の洞窟は息を呑むほど美しかった。
だが、この後退量を知った時の衝撃はそれ以上で
「まだ使えるものを無闇に捨てるのはやめよう」
「自分だけじゃなく、周りにもプラスチック削減やごみの分別などを呼びかけよう」
と思った。
皮肉にも、この移動痕が環境問題の深刻さを可視化させていて、氷河の価値や役割を高めている。
だが、それは氷河を”消費”するためではなく、「ひとりひとりの問題意識に訴えかけて、氷河を、自然を、環境を保護していく」という大切な役割を果たしている。
ただ綺麗だからではなく、人の価値観すらも変えてしまうこの氷河は、まさに「未来に残したい風景」である
いま思えば、田舎生まれ田舎育ちの僕が、NZに惹かれたのは必然だったのかもしれない。
大学入学を機に上京したが、周りが唱える”首都圏至上主義”に違和感を持たずにはいられなかった。
いつでも開いてるコンビニよりも、何でもすぐに手に入るショッピングセンターよりも、15分かけて向かうコンビニの道中で見える山の景色や、何も考えずに玄関前で大の字になって見上げる星空の方が愛おしいと思った。
そんな背景もあり、大学では環境社会学のゼミに所属するようになった。
そして、エコツーリズムに強く関心を持つようになり、大学を休学してNZへと渡った。
僕に直接的な気づきを与えたのはフォックス氷河であるが、僕をそこまで導いたのは、何の変哲もない日常の光景だったのである。
何気ない日々が大きなものへと繫った瞬間だった。
僕には夢があります。
NZに移住して、フォックス氷河でガイドとして働きたい。
4年前の氷河との出会いは、僕の人生をも狂わせるような、そんな出会いでした。
エゴでしかありませんが、4年前にあそこで感じたことを、今度は自分が多くの人に伝えていきたいと思いました。
そして一人でも多くの人に環境問題に意識を向けてもらうことで、自然保護に貢献していきたいです。
この氷河が何年先まであるか、そして自分がNZに移住するのに何年かかるかは分かりません。
先日母から、地元の写真が送られてきました。
雪が被った山は、どこかNZを彷彿とさせるものでした。
夢や目標、関心は、何気ない日常の中から生まれるものなのだと思います。
だからこそ、日常の中での小さな取り組みが、環境だけでなく、一人一人の人生、豊かさを守ります。
この記事を読んで、一人でも多くの方が環境保護に取り組んでくれるようになったら嬉しいです。
未来の自分のためにも、次の世代のためにも
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フォックス氷河では、ツアーの安全のために氷河を削りはしますが、これは元々溶けてなくなってしまう分であるため負荷自体は最小限に抑えられるようにツアーが遂行されています。
また、ヘリコプターを使用していますが、毎年収益の一部をDOC(保全団体)に寄付しています。
もしこの記事を読んで興味を持たれた方は、ぜひフォックス氷河に行ってみてください!
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