紗倉ノート #3

こんにちは！紗倉です。日々を無為に生きていたら「梅雨入り」なんて単語がテレビから聞こえてびっくりしました。雨は好きなので、今からわくわくです。わくわく！

早速本題、の前に、少しだけ宣伝させてください！

細々と連載していた一次創作小説が、先日やっと完結しました！やった〜！！初めて最後まで書き切れた小説で愛着がすごいので、そっとリンクを置いておきます。

創作家である4人が、恋し、愛し、悩み、足掻く、美しい物語。ちらと覗いていただけたら嬉しいです。

『花に触れ、鳥を愛で、風を呑み、月を描き』
(https://novelup.plus/story/601554788)

閑話休題。

それでは早速本題に。本日はこちら。

『悪寒』

著:伊岡瞬  出版社:集英社
ISBN: 978-4087440096

ミステリー。正直なことを言うと前半を読んでる時は「あまり面白くないな……？」とか思ってた。


以下ネタバレ注意です！！！！

とある社内トラブルで出向になった主人公と、その家族の物語。『社内トラブル』は本当に、単なるトカゲの尻尾切りって感じなので省略。嫌ですけどね、尻尾切り。簡単に切られると困るんですよ。

この主人公の奥さんが殺人犯として捕まってしまって、しかも早々に罪を認めている。さてどうするか、という物語。これまでの経験則から奥さんが犯人じゃないことは分かりきっていて、真犯人の目星も結構早々についたのだけれど、『面白くないな』と思った要素はそこじゃあない。

探偵役である主人公が腑抜けすぎる。

そのせいで、謎解きに必要な情報が圧倒的に不足したまま物語は進んでいきます。こう、絶妙に「それじゃない」ピースばかりを持ってくる主人公に若干イライラ。一般サラリーマンだったので無理はないし、一人称小説として書かれている以上、きっと作者の意図もここにあるんだけど。分かるんだけど。バイアスばかり、なんなら事件を紐解くつもりすらない無自覚の探偵。ミステリの語り手としては……というのが私の率直な感想でした。

物語としては好きだけど、嫌いじゃないけど、ミステリーとしてはちょっと……なんて考えが、途中ぐるっとひっくり返されました。来る裁判当日で。いやもう、あれ素晴らしいですね。すごかったです。
新情報に翻弄される読者と探偵。刑事の忠告。探偵の覚醒。伊岡さんごめんなさい。面白くない、あれは嘘です。ちょっとミステリ通ぶった1読者の痴れ事です。めちゃくちゃ面白かったです。この物語の真髄は後半にありました。ネタバレになるので書きませんが。

どんでん返しからの物語の収束までがあまりに綺麗で惚れ惚れしました。最後は確かにミステリー。いや、最初からずっとミステリでしたが。私好みのミステリーでした。大満足です。

主人公が徹底的に『一般サラリーマン』として書かれていて、他人事なんだけれどどこか近い、そんな錯覚を感じながら読み進めました。弱い。甘い。でも、分かる。期待する気持ちも、絶望する気持ちも。分かるよ！でももう少し頑張って！！ と。『中年男の鈍感さはそれだけで犯罪だ』といった記述が散見される物語ですが、本当に『そう』だよなとしみじみ。それでも、憎めないから不思議です。きっと彼らは愛すべき犯罪者。たまに愛す余地のない人も居ますが、それはそれ。

伏線がすごく多い！とか、そんなことは思わなかったのですが、その分丁寧にひとつひとつを回収している印象を受けました。私が気づいてないだけかもしれないですけど！私もまた、バイアスしかない語り人。語るつもりで騙っているのかもしれない。これだから言葉は面白い。この物語の彼は『騙る』というよりかは『語らない』な印象がありますが。まぁ、私もあんな事になったら冷静にはなれないからな……。思考停止も止むなし、でしょう。多分。

個人的には予想が外れていなかったのでハッピーです。やっぱあの人だよね、うんうん。動機もしっかりしてたし辻褄も合ってたし、完成度が高いんだよな。伊岡瞬は綻ばない。流石、というしかない。

ミステリーの感想、描くの難しすぎるな！となっているので、今回は短いですがこの辺りで。ネタバレ増し増しで書くことも考えましたが、やっぱり私は、皆様にこの物語を楽しんでもらいたいので。

主人公との心理的距離が近い事。情報が後追いで出されるので黙って読んでれば普通に面白い事。謎解きに際して特殊な知識を要求されない事。基本的なテンポの良さ。丁寧な文章。どれをとっても、普段ミステリーを読まない人も楽しめる物語だと思うので、この機会に是非どうぞ！

ミステリ好きな方とはいつか、無自覚な探偵さんについて語り合いたいです。下手すれば批判されそうな事を書いている自覚はあるので。嫌いじゃないんですよ！！(精一杯の自己保身)

それでは今回はこの辺りで。
ありがとうございました〜！