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「川っぺりムコリッタ」を読んで

 人は誰しも過去を持つ。過去とは記憶に基づくドラマ。事実のようで、案外、都合よく構成されていたりもする。思い込み、願望、防衛。過去は人を束縛し、ときに疼く。

 シナプスが触手を伸ばしていくかのように、人は誰しも他人と出会い、関わり合う。それは煩わしくもあり、けれども避けられない。ムコリッタの住人たちとその周辺でも、老若男女、亡くなった人までもが関わり合う。

 他人と関われば、互いの何かが刺激され、化学反応のように、新たな何かが生成される。刺激されるのは、それぞれが抱える過去ではないか。刺激された過去は、ほんの少し、ときに劇的に色や形を変え、新たな過去となる。過去の解釈が変わり、気づけば束縛や疼きが緩む。

 人生はその繰り返しなのかもしれない。出会っては別れ、別れては出会い、他人を通じて過去と折り合いをつけていく。他人との関わり合いの向こうに、自分だけでは到達し得ない、他人からしか得られない未来がある。その未来に向かい、他人と関わることこそが、今を生きるということなのかもしれない。

 それならば、一度きりの人生、煩わしい人間関係も悪くはない。むしろ人と関わりたい。他人を受け入れ、未来を書き換えていこうじゃないか。そんなことを思わせてくれた物語。

 過去は未来に変化する。そのために、私たちは今を生きる。


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