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ユニーク・セリング・プロポジション (USP) に関する誤解

こんにちは、米田 @ 富士通にてマーケティング変革実行中です。皆様は、USPという言葉を聞いたことがあるでしょうか? 新しい商品・サービスの販売計画を立てる際に、USPの検討をすることが多いです。この記事では、USPを検討する際に、特に現代におけるB2B領域で正しく作成・活用するために気を付けるべき点に触れながら、その概要について触れていきます。


USPとは?

USPとは、「Unique Selling Point」或いは「Unique Selling Proposition」の略で、自社の商品・サービスが競合のものと比較して如何に優れているかを伝えるマーケティング戦略です。「Unique Value Proposition」と呼ばれることもあります。商品・サービスの販売計画を立てる際に作成して社内外に展開するのが一般的でしょう。

富士通でも、近年はマーケティングについて体系的に学んでいる営業・マーケティングのリーダーが増えてきているので、本社からリージョンに新商品を展開する際にも「USPは何なのか」という質問が良く来るようになりました。

では、USPとは何なのかを具体的にもう少し紐解いていきましょう。もともとUSPは1940年代にうまくいった広告キャンペーンのベストプラクティスが元になっています。テレビ広告の第一人者であったロッサー・リーブスによって1961年に提唱されました。USPは以下の3つの特徴を持っているべきとされます。

(1) 広告はすべて、消費者に対して提案(プロポジション)をしなければならない。単なる言葉や、単なる製品礼賛、単なるショーウィンドウ的広告ではなく、読む者にこう言わなくてはならない。「この製品を買えば、この便益が手にはいります」と。

(2) その提案は、競争相手が示せない、もしくは示さないものでなければならいない。それは独自でなければならない。すなわち、そのブランド独自(ユニーク)のものであるか、その分野の広告ではなされていない主張であること。

(3) その提案は、数百万の人々を動かせるほど強力でなければならない。すなわち、製品に新規顧客を引き寄せられるものでなければならない。

Rosser Reeves著『Reality in Advertising』(2012)  近藤隆文 訳・加藤洋一 監訳

ロッサー・リーブスの提唱から、今では60年以上の月日が流れています。現代のマーケティングでは、当時のように一般消費者向けにマス広告を打つ以外にも様々なチャネル・手法を考えなければなりませんが、USPはメッセージを作成する際にまだまだ役に立つ考え方です。

Unique Selling Proposition を設定すべき領域
図: USPを設定すべき領域
自社の商品・サービスが強い領域であることはもちろん、
消費者が求めている領域であることが必須です。

USPの例

USPとして成功したと言われているものの例をいくつか挙げます。

M&M's

お口でとろけて、手にとけない

1954年に登場した、最も古いと言われているUSPのひとつです。チョコレートと言えば持ち運ぶと溶けてしまったり携帯していても食べにくい、手で持つと溶けてしまうというイメージを覆す、チョコレートの新たな消費の仕方を提案するものでした。

ドミノ・ピザ

熱々のピザを30分でお届けします。間に合わなければ無料。

1973-1993年に使われたUSPです。ピザを素早く作って短時間で届けるというフードデリバリーの先駆けとなるモデル、しかも間に合わないと無料になるという提案は、消費者の印象に深く残りました。

FedEx

絶対に、何としてでも一晩で届けたい時に

FedExは翌日航空貨物輸送を専門とし、荷物の追跡システムを初めて導入した会社です。このシステムとそれによって生み出される価値の提案をうまく表現したUSPです。

Apple iPods

ポケットに1,000曲のミュージックライブラリを

製品出荷当時はアップル社の他に1,000曲ものミュージックライブラリをポケットに入れて持ち歩ける製品はありませんでした。顧客に1,000曲ものたくさんの曲を小さなデバイスに持ち歩けることを提案した印象的なUSPです。

ダイソン

吸引力の変わらない、ただひとつの掃除機

サイクロン掃除機の先駆けとして、この新しい方式の価値をうまく顧客に提案したUSPです。

アスクル

当日または翌日にお届け

社名の由来にもなっている「明日来る」をUSPにも活かしています。「欲しい商品をリーズナブルな価格ですぐに購入したい」という顧客ニーズをいち早く掴んだ配送サービスの先駆けです。

稲葉製作所

100人乗っても大丈夫!

丈夫であることをよく表しています。実際に屋根に100人乗るニーズはないですが、100人乗せた様子をテレビCMで流したものはインパクトがありました。

QBハウス

ヘアカット1000円 所要時間10分

男性のヘアカットで2,000~3,000円くらいの費用、1時間くらい時間がかかっていたところを、たった1,000円、しかもたった10分で終了するという価値を提案、そのかわり処置はかなり簡素的、といった特徴をわかりやすく端的に表したUSPです。

それぞれのUSPを見てみると、単なるスローガンやキャッチコピーにとどまらずに、言葉自体が顧客に価値を提案していることがわかります。これがUSPと単なる言葉、スローガン、キャッチコピー、ショーウィンドウ的広告と異なる点です。

USPに関する誤解

いままでいろいろなUSPの成功例を見てきました。「こんなふうに自分の商品・サービスでもUSPを作ってみたい」と思ったときに、考慮すべき主なことについて挙げてみました。

自社しかできない独自性が必要?

USPの「ユニーク」ということを聞いて、よく「誰にも真似できない自社しかできない独自性を探さないといけない」と考える人がいますが、これは必ずしもそうではありません。「この商品は自社しか提供できません」というようなものがあれば市場の中で絶対的な優位性を築くことができますが、殆どのケースでは他社でも同等のもの、もしくは代用品を提供することが可能です。

一方、広告の中で他社もやろうと思えばできるけれどやっていないことを「提案」することは、どの会社にもできます。その内容が一般消費者に響いて心を動かすものであれば立派なUSP候補となります。

他によく陥りがちな例としては、「ユニークさ」「独自性」に拘るあまり、ユニークだけれど顧客ニーズがないものをUSPに挙げているケースも見受けられます。たとえば「当社の商品にはこんな独自技術が入っています」という場合、その技術が一般消費者の問題を解決してニーズに刺さるものでなければ、いくら入っていてもUSPにはなりません。USPの条件 (3) 「その提案は、数百万の人々を動かせるほど強力でなければならない」が満たされていない状態です。

加えて、商品・サービスの歴史が短くバージョンが1、2の間は、市場に出ている他の競合商品・サービスと比べてベーシックスが同様に満たされているかどうか、基本的な機能が遜色ないかどうか、についても訴求しなければなりません。差別化要素だけ訴求して基本的な機能が疎かになってしまっては、応用問題はできるけど基礎問題ができないと言っていることと同じです。スタートラインに立つには、まず基本が問題ないことを期待値設定する必要がありますが、これは意外と疎かにされがちなので気をつける必要があります。

参考情報:

USPがないとB2B営業も商品が売れない?

私も営業から「USPはないのか」「きちんとしたUSPがないと訴求が難しい」と言われることがあります。ただし、USPというのは、今まで見てきたように、基本的にはマス広告のような、多くの情報を伝達できない環境において商品の価値と顧客への提案を端的に伝えられるように工夫された文です。

あらかじめインターネット上に必要な情報を別途出しておき顧客の商品選別プロセスの初期に刺さっておく必要がある前提はありますが、B2B営業のような、顧客と多くの情報をやり取りできる環境においては、ひとつのUSPにのみ情報をまとめることのみが勝ち筋ではありません

顧客セグメント、ターゲットやユーザーシナリオに従って、複数の異なる提案事項を練ったり、チャネル戦略を強化して顧客の選択肢を事実上自社の商品・サービスに絞り込むなど、営業として取り得る手は他にも色々あります。USPを理由に売りにいかない営業がいるとすると、USPが口実に使われているケースもあります。

いずれにしても、どんなビジネス形態であったとしても、短いフレーズで顧客が気づいている、もしくは潜在的にほしいであろう価値を、他社がやっていない領域で提案するUSPを開発しておくことで、ビジネスが進めやすくなることには間違いありません。

最後までお読みいただきありがとうございました!では、また!

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