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35歳、ひとり、餃子の王将で呑む

・週明けから不運

なにもせず、ただダラダラするというハッピーな三連休が終わってしまった。
街中に無数にいる通勤途中の会社員達の背中からも、祝日明けの気怠いオーラが溢れている。
自分自身もそのオーラを出している一人であり、さらにこの日は不運にも外周り仕事があった。祝日明けだというのに。
そこに加えて様々な問題が重なって発生してしまい、外回りからの謝罪行脚という修行僧もびっくりのスケジュール。
無茶苦茶なハードワークになるな、と覚悟していたため行動予定表には「直帰」と書いた。
その文字は力強く、しかしどこか悲しさを纏っていた。

・僥倖

会社を出ようとしたところ、後ろからクラクションが鳴った。
車を運転していたのは一昨年、別部署に異動した元部下。
少し話をしていると、私の訪問先の近くを通る様だ。
これは固有スキルの幸運(小)が発揮されたのか。
お願いして同乗させてもらい、近くまで送って貰った。
しかし、先方との約束時間よりも1時間ほど早く到着し手持無沙汰。
コンビニに入ったりドラッグストアを徘徊するも、いつもより時間はゆっくると流れる。今じゃないでしょ。
意を決して先方に「気合を入れて早めに伺いました!ご都合いかがでしょう!?」と確認すると、ここでもスキル幸運(中)が発揮され何と快諾。
これがOKだったら事前のアポは必要ないのではなかろうか。
幸運ではあるがあからさまに非常識である為、皆様には決しておススメはしない。
打ち合わせはつつがなく終了。スムーズ、いやスムージィである。

空いた時間でコーヒースタンドに入り雑務をこなす。
雑務の処理が想像以上にはかどりハイテンション。
この勢いで謝っちゃうか!と妙なテンションになり次の謝罪案件へと向かう。
いつまでたってもクレームに慣れない35歳だな、と思いながら来訪受付を済ませた。
担当者の名前を確認し、内線電話で呼び出す。
さぁ鬼が出るか蛇が出るか。
だいたい鬼でも蛇でもなく、怒り狂ったおっさんが出てくるのが一番質悪い。
と構えていたところ、同世代ぐらいの担当者が階段から降りてきた。
パッと見た感じ鬼でもないし蛇でもない。
怒り狂ってもいないしおっさんでもない。
35歳前後はまだギリギリお兄さんでもいいのでは?
名刺交換を済ませ「この度はまことに申し訳ございませんでした。」と軽く謝罪。
このジャブのような謝罪「ジャ謝(じゃざい)」が後から効いてくるのだ。

そんな軽いやり取りを終えたところで、会議室に通される。
担当のお兄さんが終始ソワソワしており、なんか様子が変だ。
いざ話が始まってみると、今回のクレーム原因は打合せ時の先方の伝達ミスとのこと。
ご足労いただき申し訳ないと謝罪も合わさったハッピーセット。
スキル幸運(大)が遺憾なく発揮された。
この瞬間めちゃくちゃホッっとしたのと同時に、じゃあ電話で先に言ってくれよ、と思ったのが本音である。
しかし終わり良ければ総て良し。どちらにせよ僥倖であった。

・お先にあがらせていただきます

午後11時30分で長引くと思われていた全ての予定を消化してしまった。
しかも今日は、直帰宣言済みだ。
承認書類は先に作れ、デスクはいつもキレイにしろ。できる限りで構わないから。このオマージュわかる人いる?

なにはともあれ腹が減った。
気苦労から朝食をとっておらず、腹ペコペコ状態。
幸い土地勘がある場所で、ラーメンにするかそれとも定食にするかで悩んだ。
この辺には前にも一度ラーメンを食べに来ており、その醤油ラーメンが非常に美味しく次は限定メニューにしよう、と考えていたのだ。
ぶらぶらとそのお店に向かって歩きだしたところ、待てよ?今日は直帰申請済み。そして電車移動。
となれば選択肢は一つに絞られた。

餃子の王将。
この店外まで漂っている独特の油の匂いが食欲を駆り立てる。
ガラス扉を開け入店。
店内はひとり客やグループ客で満席。
待合席に腰掛けた。
5分ほどして、カウンター席に案内される。
王将ではカバンの置き場所を慎重に探さなければならない。
床にダイレクトにおいてしまうと目も当てられない。
時間をかけ納得のポジションを見つけ、ゆっくりと腰を下ろす。
やっと目の前に置かれているメニューに目を通すことができた。

単品メニューから定食メニュー、しかし探していたのは一番最後のページにあったドリンクメニューだ。

周囲はちょっと遅いランチを食べているスーツ姿の方、テーブル席でわいわい食べている作業員の方など様々。
そんな賑やかな客席に、店員さんの呼出ボタンの音が響く。
素早くやってきた店員さんに「大瓶1本ください」とオーダー。

スマホで日報を書いている途中にやってきた瓶ビール(大)(¥580・税別)
この瞬間に本日の業務からは解放され、心の中では「労働お疲れ様です!お先に上がらせていただきます!」と叫んでいた。
午後はまだまだこれからだ。

・いつもと違う日

祝日明けの平日が意図せず半ドンに。令和の時代に半ドンて。
こんな幸せがかつてあっただろうか。
あったとしても、昼から呑んでいて覚えていないだろうが。
今は幸せでも明日は平日、現実は辛いことの繰り返しである。
しかし偶然得た今日という日の幸せがあるからこそ、つらい日々の労働に耐えられるのだ。今日ぐらい許してくれ。
と、言い訳をしながら注がれたビールを一口で飲み干し、改めてメニューに目を落とす。
そういえば発売されてから長く口にしたことがなかったメニューをオーダー。

ニンニク不使用の生姜餃子(¥250・税別)
初オーダーの品である。
ガーリック教の敬虔な信者であるため、本来ニンニクが使用されている商品からニンニクが排除された商品は頼まない。
しかし明日はしっかりと労働の為こちらを選択。
日本社会の同調圧力に踏み絵を踏まされてしまった。
しかし、たまたまなのかいつもの餃子と皿が違う気がする。柄が少なくない?
肝心の味はというと、個人的には少しパンチが足りないように感じた。
ニンニクの強靭なパワーをカバーするとなると、結構な生姜の量が必要だろうな。
しかしながら生姜感は感じられる味わいで、生姜好きな人にはハマりそう。

もしかして餃子のたれが濃いので生姜感がぼやけているのか?と酢と胡椒をオーダー。
追加で酢胡椒をクリエイトするもあまりマッチせず。

さらにラー油を足すも、さらにマッチせず。
サッパリさせたいのかコッテリさせたいのかわからない。
個人的には普通の餃子をタレで食うのが一番と再認識できた。

・Jの存在

皆さんは「J」と聞くと何を思い浮かべるだろうか。
サッカーファンはJリーグを連想するだろうし、理系の方は熱量と捉えるかもしれない。
個人的な意見で言えば「J」といえばやはり鶴田だろう。

そんな三冠ヘビー級王座の初代王者は置いといて、王将の「J」といえばジャストサイズメニューである。
そのなかでも優秀なのが天津飯。
ちなみに大阪に甘酢餡はない。(稀日記にあるが長野県松本市では甘酢餡と京風餡といっていた。)

ジャストサイズ天津飯(¥292・税別)
コンビニおにぎり1個分ぐらいの白米に卵と餡が絡んでおり、小さいながらも素晴らしいビジュアルである。
しかしまだ焦ってはならない。時間はふんだんにある。

まずはこの餡で呑む。
醤油と中華だしの風味がたまらない。
そこに具として少し入っているカニカマをほぐして肴に。
この嘘くさい味のカニカマがまた良い。
酒が進むなぁ、と黙々と呑んでいく。

・日式中華のエース

さぁ餡がなくなった。丸裸である。
餡がない天津飯など天津飯ではない。
天津飯とは白米に玉子焼きを乗せ、その上から餡をかけたもの。
餡がなければただの玉子焼きのっけ飯だ。
つまり天津飯のアイデンティティは餡にある。
この状態の天津飯は天津飯業界において天津飯にあらず、元天津飯の状態なのだ。

この悲哀さえ漂っている元天津飯。
こいつを復活、いやさらに強化して生まれ変わらせよう。

まず初めにジャストメニューにあるエビチリを追加注文。(¥400・税別)

単体でも十分な破壊力。日本中華の王といっても過言ではない。
このジャストサイズのエビチリでも、生半可な量の白米であれば蹂躙することができる。
まず一つ口にすると激しい旨味が口内を襲う。
甘みと酸味がバランス良く交じり合い、そこにエビの食感。
この素晴らしい味わいはまさに日本で生まれた中華料理、日式中華のエースと実感できる。

急いでビールで追いかけようとするも、すでに瓶ビールは空になっており慌ててプレーンチューハイ(¥300・税別)をオーダーした。

・シンプルな強さ

あまりの旨味に圧倒されてしまい、本来の目的を忘れてしまうところであった。
つまみ食いが過ぎない様に気を付けなければならない。
気を取り直してエビチリをおもむろに元天津飯の上にブチ撒ける。
これでエビチリ天津飯のクリエイトが完了。
最高の一品の登場である。

もちろん不味いわけなどあろうはずもない。
山頂の部分は、エビチリソースのしっかり味とマイルドな卵が白米を強くも優しい味で包む。
麓の部分は天津飯の餡が白米に染み込んでおり、出汁の味とエビの旨味が口内を圧倒。
シンプルに強い。

あまりの美味さに我を忘れガツガツと一気に掻き込み、喉が詰まりそうになる。
追ってプレーンチューハイをザバザバと流し込み長いランチが終わった。

・5%


残りのチューハイを飲み干し会計。
本来であれば税込¥1964。
しかし、この「餃子倶楽部」メンバーズカードがあればお会計から5%オフされる。

ちなみにこの上には、いつでもお会計から7%オフになるゴールドカードが存在する。
¥500で一つ押されるスタンプを期間内に25個分、つまり¥12,500分集めなければならないので、まだまだ手が届かない存在だ。
いつかこの手にゴールドカードを、と思い店を後に。
時間は14時45分。
家に帰ってゆっくり風呂に入ろう。
そこからまた飲み直せばいいじゃない。
まだまだ午後は長いのだから。


コレステロール値を下げる薬の購入資金にさせていただきます。