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【心の詩歌】『遠い感』の同時代性

郡司和斗『遠い感』という歌集には、三次創作的な短歌がいくつかあります。
二次創作という言葉は、一次創作、すなわち単なる創作物を、題材とした二次的な創作物を指します。
さらに、作者はそれ自体を楽しんだひとりとして、短歌にしています。

あずにゃんのフィギュアを買いに行くときの心まみれの心のことを

郡司和斗『遠い感』

眠れない夜になんどもありがとうゆっくり魔理沙ゆっくり霊夢

郡司和斗『遠い感』

あずにゃんというのは、漫画を原作としたテレビアニメ『けいおん!』の登場人物のあだ名です。
ここで詠まれているのはあずにゃんのフィギュア、すなわち模型で、二次創作的なグッズが短歌の題材となっています。

ゆっくり魔理沙ゆっくり霊夢、は、知らない人に説明しようとすると難しい二次創作です。
まず、東方シリーズと呼ばれるシューティングゲームのシリーズがあり、その登場人物が魔理沙と霊夢です。
魔理沙と霊夢をモチーフにしつつ、彼らをまんじゅうのような丸いキャラクターにして、「ゆっくり」と呼ばれる機械音声に喋らせるのが「ゆっくり魔理沙」「ゆっくり霊夢」です。
と聞いても知らない方にはよくわからないと思いますが、ともかく「魔理沙」「霊夢」という人物名が出てきたからといってこの作者はシューティングゲームをしているわけではありません。


しかし、作者は特に三次創作がしたくてこれらの短歌を詠んでいるというよりも、身近に二次創作があふれているのが彼の実際の生活だったのだろうと思います。
普通に生活を詠んだ短歌とともに三次創作が並んでおり、モチーフは日常生活が中心です。日常に二次創作がある現代がそのままに映されている、面白い歌集でした。

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