無題
教室に行きたくなくて
駐輪場でもう帰ってやろうかと思いながら
どうしたらいいか分からなくて迷っていた
ぼーーっと突っ立っていた私に
「なにしてるの?」
と声をかけてくれた彼女が居なかったら
私は今も、ここにいない気がする
みんなが食べ終わる時間に食べきれなくて
もそもそと静かに弁当を食べていた私を
横からひょいっと覗き込んで
「なに、お前の弁当黒豆入ってんの」
と馬鹿にしてきた彼が居なかったら
私は今も、夢に出会えてなかった気がする
ふと入り込んできた偶然の存在は
明らかに他とは異なる、圧倒的で
簡単に私の心をさらう
人さらいは誰もが恐れるのに
心さらいは恐れられない
だから恐いのだ
いつの間に、隣にいるのだ
気づいたら、さらわれてるのだ
後になったらもう遅い
次のさらいが来るまでさらわれ続けるか
茫然と日めくりのごとく過ごすのか
でも
変わりたいと貪欲になるのなら
さらされるべきなんだろう
笑って、泣いて、食べて、怒って、憎んで、
ぼこぼこに醜く
削られていくべきなんだろう
だから
手離しちゃいけないんだ
今までの全部は一切合切ビリビリに破り割いて
その代わりに、今、紛れもない今、
それだけは
どんだけ醜かろうと酷かろうと
手離しちゃいけないんだ
アイスを買います