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「Gershwin,Pumpkin,Tambourine,Sirloin!」

(※物語のネタバレは極力無いようにしていますが、シーンの細かい部分や表現には触れています。)

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花組東京国際フォーラム公演「NICE WORK IF YOU CAN GET IT」
1年ぶりの花組の新作ということへのワクワク感と、この状況の中劇場まで足を運び観劇をすることの緊迫感に包まれていた客席を迎えてくれたのは、なんとも明るい、なんとも幸せそうな、輝きに満ちた柚香光さんの開演アナウンスでした。

はいからさんが通るの大劇場公演では、「皆様にお会いできる日を心待ちにしておりました」という一言が入れられていた特別なアナウンスでしたが、それとはまた違う意味を持つ特別なアナウンスだったように思います。
文言こそ通常公演と同じものなのですが、「ようこそ!」という想いが溢れに溢れてとまらないといったような声色で、その時点ですでにマスクの下は満面の笑みになってしまいました。

こんな風に劇場に迎え入れてくれること。舞台を作り上げ、届けてくださること。舞台を愛する観客として、今この時に、こんなに嬉しいことはありませんでした。

本来この公演は2020年8月に上演されるはずのもので、スケジュールが大幅にずれ込んでしまった形になりましたが、2021年という新しい年の幕開けにこれほどふさわしい演目はないのではと、それくらいに明るさと、そして何よりも音楽、ダンス、舞台芸術の素晴らしさに満ち満ちた作品だと思います。

一幕1時間半、二幕1時間10分もあるとはとても思えない(特に一幕は、何度観劇してもせいぜい30分ではと思う体感だった)あっという間のハッピーミュージカル。
笑い声を漏らさないように必死になるほど、笑顔でいることをやめられない。ものすごく、ものすごく楽しくて、初見時の幕間には「これは大変だ!」とひとり興奮を抑えるのが大変で苦労しました。

まさに、'S Wonderful!

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" NICE WORK IF YOU CAN GET IT "
ガーシュウィンの音楽を愛し、フレッド・アステアを敬愛していらっしゃる柚香さんが、ガーシュウィン兄弟の楽曲で彩られたブロードウェイミュージカルを主演される。
演目が発表された当時、私は恥ずかしながらこの作品のことを知らず内容もさっぱりわからない状態だったのですが、それでも大興奮でした。
ガーシュウィンの楽曲は私も元々大好きですし、なによりも柚香さんが愛するものが詰め込まれている演目である!ということに、喜ばずにはいられなかった。

舞台が大好きですと、その気持ちを何よりも大事にされている柚香さんが、さらに大好きなもので構成されている作品の中で、どんな風に生きて、魅せてくださるんだろうと思うと、ワクワクが止まらなくて。

実際に舞台を観劇して、ジミーとして舞台のスポットライトを浴びた姿を見たその瞬間から、一気に柚香さんのジミーに恋に落ちてしまった。

まさに「洒脱」という言葉がぴったりな、ハンサムで優しいプレイボーイ。ガールズに囲まれて甘い笑顔を浮かべ、ボーイズを引き連れて粋にステップを踏む。そしてどんな時もエレガンスな物腰。
幕開きからこんな姿を見せられて、好きになるなという方が無理と言うものです。

そもそもジミーというキャラクターが、私にとってドンピシャに好みなキャラクターなのです。
ハンサムで男女問わず分け隔てなく優しく、天然でしょうもない女たらしなのに、本命に出会うと一生懸命で一途。
そんなどタイプのキャラクターを、どタイプの外見、どタイプの言い回し、どタイプのダンス、どタイプの笑顔…と完膚なきまでにご贔屓さまが演じているのだから、それはもう…という辛さでした。(責任取ってよ!と言いたくなるのはさすがに我慢)

柚香さんのジミーはすべてが素敵なのですが、中でもとりわけ、ふとした時の言い回しが秀逸だと思います。
特にビリーに対して、優しく問いかける時。「ちがう?」や「どう?」という、何気ない一言の端々に、ジミーの身軽さと女性に対する優しさが滲み出ている。その柔らかさはずっと変わらず、ビリーを愛していると自覚してからの彼女に対する言葉には、他の人に対しては無い、力強さや甘さが含まれていくのも素敵でした。

そしてクッキーに対しては信頼と友情、アイリーンに対しては素直な優しさ。裏表を持つことができない真っ直ぐさがあり、分け隔てなく接するジミーだからこそ、特別な人に対する言葉の色に変化がついているのは、彼自身の心の動きがひしひしと伝わってくるようで。
感情移入とはまた違う角度で、観客としてジミーに恋をしつつ、頑張ってと応援したくもなってしまう。
「愛すべき」というのは、まさにこういうことかと思います。

初めての観劇時ですでに、柚香さんのジミーに激しく恋をしてしまったのですが、それというのも、これまで柚香さんが演じてきたいくつかの役の面影が見えるというのも大きな要因だったように思います。

パッと思ったのは、少尉と道明寺。優しくてプレイボーイな面を持つ少尉と、不器用だけれど好きな人にはどこまでも真っ直ぐで強引だった道明寺。
二人の要素が絶妙にブレンドされたものが、ジミーに通じるのでは…と。
そして「メランコリック・ジゴロ」のダニエル。ジミーの柔らかな言い回しは、ダニエルの言葉のニュアンスに繋がるものがあるようにも感じられて。

この三役のそれぞれの面影を柚香さんのジミーには感じるというか、要素が詰め込まれているのではと観ていて感じてしまったのです。
そしてこの三役は、柚香さんが演じてこられてきた中でも特に心を奪われたものだったので、余計に恋心を掻き立てられ、惹きつけられてしまったように思います。
(ちなみにジミーとビリーが初めて出会う場面で、ジミーがビリーに優しく楽しげにダンスを教えるのですが、このシーンが道明寺のダンスレッスンと少し重なり、教え方が雲泥の差…!と一人で可笑しくなっていたのでした)

これまでの軌跡を感じながらも、今の柚香さんだからこその表現や懐の深さ、愛情の豊かさが見受けられる。
ただただ一言「魅力的」と言ってしまえばそれまでなのですが、その一言にしてしまいたくないほど、柚香さんのジミーは「素敵」なもので溢れていてたまらないのです。


"I've Got to Be There"
柚香さんジミーの好きなところを挙げていったらキリがないのですが、シーンとして大好きだったのはガールズたちに囲まれる「I've Got to Be There」。
ジミーの「女性にだらしない」ところが前面に出ているシーンですが(ここのタップダンスも最高に好き!ガールズを喜ばせようとしているのが憎めないんですよね)、歌の最後にガールズに囲まれてあれよあれよと脱がされていくジミー。大人なお色気のシーンですが、ガールズを見つめる柚香ジミーに「いやらしさ」が不思議と1ミリもなく、ガールズたちにも「はしたなさ」が一切ないんです。

どうしようもないんだ、抗えないよ、だって君たちがキュートだから!と訴えているかのような、どこか困り果てた男の子みたいにも思えるジミーの表情が、ガールズたちを引き立てているというか。

柚香さんには、柚香さん自身に常にエレガンスさがあって、さらに娘役さんを上品に可憐に魅せることができる品格があるのだと思います。このシーンでは、それが顕著に現れているんじゃないかなと。

気にしちゃダメ!とガールズに囁かれて連れていかれるところも、最初は困り顔だったのに、気にしちゃダメか〜とふわあと笑顔になってしまうのも、柚香さんだからこそ許されるとっておきのチャーミングさ。
大好きなシーンです。


" Do,Do,Do "
もう一つ、ビリーを振り向かせようと一生懸命になる「Do,Do,Do」も大好きなシーンです。
頑ななビリーをそっと解いていくように、「I love you, and you love me」ととびきりの優しさで歌いかける。そっとビリーの頬に触れ、まるで魔法のことばのように紡がれる柚香さんジミーの優しい歌は、ビリーの心と踊りたいと求愛しているかのよう。

一生懸命だけど必死ではない、あくまでもジミー「らしさ」をそのままに、ビリーに真っ直ぐに愛を伝えている。歌そのものもかわいらしいですし、中盤から出てくるジミー応援隊の皆さまも愛らしい!
(このシーンでは、最初に少しだけジミーがウクレレを弾くのですが、その時の柚香さんの弦を抑えている指がとんでもなく美しいのです。形が完璧すぎて、初見時は本当に弾いているのかと思ったくらい。ここも大切なときめきポイントです。)

「振り向いて!」とお願いしながらウインクを決めてしまうのがなんともジミーだし、ビリーのモヤモヤをものともせずに愛を表現するところが、二人の恋に喜びを感じているんだなと思えて胸がいっぱいになってしまう。

そして何と言っても、そのジミーの勢いに負けないぞと頑張る華ちゃんビリーが最高にキュート!
あんな風に「振り向いて!」とお願いされて、騙されないから!と自分を保てるビリーの芯の強さにも憧れてしまう。そしてその一方で、ふとした時に、切なげに愛おしそうにジミーを見つめる笑顔に目が離せなくなってしまう。


" Someone To Watch Over Me "
これまでになく豪快で荒っぽいビリーという女の子を演じながら、ささいな一瞬に見せる、繊細な表情でビリーの心の風景を表現している。華ちゃんのビリーの持つ信念、強さ、そして恋への戸惑い、喜びのすべてが愛おしくてたまらなかった。

今回何よりも驚いたのは、華ちゃんの歌でした。
素晴らしく深まり、とても気持ちよさそうに伸び伸びとしている。一幕二幕にそれぞれ華ちゃんビリーが一人で歌うシーンがありますが、劇場中をその伸びやかな歌声が包み込んで、心がふわりと休まるような心地よさでいっぱいになる。

特に一幕の「Someone To Watch Over Me」。
透明で、清々しく、とても美しい空気に吹き変わっていくように思える、華ちゃんだけの特別なナンバー。
この時の華ちゃんの歌声を映像で表すならば、雲ひとつない青空を、何にも邪魔されることなく自由に羽を広げて飛ぶ白い鳥のようなイメージ。
爽やかで、けれどもあたたかい。


" But Not For Me "
一幕のソロの清々しさとはまた違った表情を見せてくれる、二幕の「But Not For Me」。
運命の恋なんてあるはずもないけど、と小さく微笑みながら歌い始めるビリー。初めての恋、初めての気持ち、初めて愛した人。それなのにうまくいかない、手が届かない。
狂おしい状況に立たされているのに、その心は悲しげに凪いでいるようで、ものすごく切なくなってしまう。
声をあげて泣くことも、ジミーに縋り付くこともなく、最後まで冷静に自分自身の心と向き合おうとする華ちゃんビリーの歌こそが、幸せに溢れたこの作品に奥行きをもたらしているのかと思います。

あまり、こういうことは言わないと決めてはいるのですが…ビリーの歌を聴きながら、華ちゃんどうしてやめちゃうのと、思わずにはいられなかったです。原田先生も仰っているように、今年の夏には退団してしまうなんて惜しすぎる。ただただ、さみしい。

そんな風に思ってしまう中、だからこそ、華ちゃんの退団が控えた今この時に、この演目を柚香さんと華ちゃん率いる花組さんで上演をしてくださったことは、何よりの贈り物のような気もしています。

" 'S Wonderful "
きっとお二人にとっても、そして私たち観客にとっても、最高のプレゼントのような「'S Wonderful」のデュエットダンスでのタップナンバー。

'S wonderful
'S marvelous
You should care for me
'S awfully nice

'S paradise
'S what I love to see

恋する喜びだけが綴られたこの曲を、柚香さんジミーと華ちゃんビリーが歌いあいながらタップを踏む。
お二人がコンビを組まれてから、それこそはいからさんの初演からずっと幸せな景色をたくさん見せていただいてきたけれど、その中でもこの'S Wonderfulの柚香さんと華さんは、特別に愛おしくて。

トップコンビとして信頼を築き、DANCE OLIMPIAでのフラメンコを共にやり遂げ、激動の一年間を少尉と紅緒さんとして生き抜き、そしてこのタップナンバーで恋の喜びを劇場いっぱいに響かせている。
あくまでもジミーとビリーとしてではあるけれど、このナンバーを歌い踊る二人の笑顔には、やはりどうしてもその内にいる「れいちゃんと華ちゃん」を感じずにはいられないのです。

こちらに切ない気持ちを抱かせる隙なんてないくらいにお二人が幸せに満ち満ちていて、観客として、宝塚のファンとして、こんなにも嬉しいことはないと心の底から思いました。

柚香さんと華ちゃん、お二人が肩を並べ、手を取り合い、笑い合い、作り上げていくものは愛しくて楽しくて、ときめきに溢れていてたまらない。
私の大好きなご贔屓さま、そして愛する相手役さん。
最高のトップスターに、最高のトップ娘役。
最高の王子様に、最高のプリンセス。
最強のトップコンビだと、ファンとして世界中に自慢をしたいくらい。
お二人を思う存分愛することができる今に、感謝しかありません。

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初日のご挨拶では、瀬戸さん、柚香さん共に、会場にいるお客様への感謝だけではなく、来られなくなってしまった方、諦めざるを得なかった方、すべての方に想いを寄せて、心からのお気持ちを伝えてくださっていました。

そして、一人も欠けることなく、一公演も落とすことなく駆け抜けていきたいと力強くお話しされていた柚香さん。そのお言葉の通り、この状況下で、無事に千秋楽まで幕を上げ続け、笑顔と幸せを届けてくださったことに感謝の気持ちでいっぱいです。

そして千秋楽のご挨拶では、皆様の日々に笑顔が絶えませんようにと、皆様の大切な人もこれ以上顔を曇らせることのないようにと、柚香さんは心を寄せてくださっていました。

その言葉に、どれだけ心が救われ、守られているか。
その場の客席に向けてだけではなく、その先の私たちの生活や日常のことにも想いを向けてくださる。
どこまでも美しく、優しいトップスターさんだと思いました。柚香さんのファンでいられることが、私の喜びであり、なによりの誇りです。

1月9日から19日までの十日間、ただひたすらに幸せだけを感じていた日々でした。これから先も、この時に目にしたこと、感じたこと、心に芽生えた想いは、一生大事にしていきたい大切なものです。

2月2日からの梅田芸術劇場公演も、無事に幕が開き、たくさんの笑顔にあふれますように!配信を心待ちに、めいっぱい梅田に向けて気持ちを飛ばし、応援しております。

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「ミュージカル・コメディをやる上で大切なのは、知性とテンポとエレガンスだと思うんですね。」
歌劇1月号の座談会で原田先生がお話しされていたことですが、まさにパーフェクトにそのすべてを網羅しているのが、柚香さん率いる花組だと思います。
作品が持つそのもののパワーに流されることなく、それぞれがしっかりと役を生き、世界観を作り上げ、新たな花組のパワーでさらにどんどん大きく膨らませていく。膨らめば膨らむほど、舞台は軽やかに楽しく、輝きを増していく。

柚香さんの花組で、こんなにも素敵な作品に出会えたのは、私のこれまでの観劇人生の中でもベスト1の出来事だと思います。
この幸せと、赤い糸で結ばれている二人の恋に感謝して。

'S Wondeful!

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