見出し画像

鳴らなかった風鈴が鳴った日のこと

今年の夏はまた暑いという。

昨年の地獄のような暑さが再び繰り返されると思うと、それだけで気持ちが滅入りそうだ。

そこで、少しでも気分を明るくする方法はないかと、風鈴を買ってみることにした。選んだのは「津軽びいどろ」のガラス風鈴。

わが家の近くに洒落た雑貨店などはないから、心からかわいいと思うものを選びたいときはネットショッピングを使う。今回もネットを使って取り寄せた。届いた風鈴は写真通りで、清涼感があり、きれいだった。

さっそく窓の近くに引っかけてみた。

するとどうだろう。全然鳴らない(笑)。

ガラス風鈴はずっしりと重みがあるため、微風くらいではびくともしなかった。試しに扇風機を強モードで回して、真ん前に持ってきてみると、ようやく仕方なさそうに「チリン」と鳴るだけだった。

***

ある日、ニワトリ用のエサにするつもりだった米俵からカサカサカサ……という不気味な音がしていることに気が付いた。明らかに袋の中で何かが動いている。しかも大量に。

嫌な予感がして夫に相談し、袋を開けてもらった。すると、おびただしい数のコクゾウムシが出てきた!

コクゾウムシとは別名「米虫」とも呼ばれるように、お米にわく虫である。体長数ミリという小ささであるが、あまりにも数が多くて、別の生き物に見えるほどだった。

「なんてこったーーー!」

ニワトリのエサはふだん夫が管理していて、玄関の土間に適当に置かれていることをずっと気にしてはいた。気にしてはいたが、ここまでひどいとは。と、文句を言っても仕方がない。

ぶつくさ言いながら、米粒なのかコクゾウムシなのかよくわからなくなってしまったもの30kgを、2人してひたすら別の袋に詰め直した。その間もずっとコクゾウムシは点々と散らばっていき、どこかに逃げようと必死だ。

唯一の救いは、彼らの見た目がチャーミングなところ。お口が長くて、ちょっぴりかわいいのだ——いや、そんなことは言っていられない。

ようやく処理が終わろうとしたとき、一人で遊んでいた子が泣き出した! 早くしないと! 

***

縁側に吊るした風鈴

コクゾウムシ騒動がひと段落して、子もウトウト眠りにつきそうになっていたとき。

窓際にかけっぱなしになっていた風鈴がふいに「チリンチリン」と涼しそうな音を立てた。

扇風機の強モードを当てているわけではなく、自然の風で鳴ったのだ。なるほどその日は風がとても気持ち良く、何日かぶりにエアコンなしで過ごせる日だった。

風鈴の音が鳴り、波立っていた気持ちがすーっと凪いでいく。

風鈴には暑さを減らすことを期待していたが、人の気持ちを静める作用もあるんだな。てんやわんやして少しも休まらない日だと思っていたけれど、こんなバタバタもきっと将来思い返したとき、良い思い出になっている。

鳴らなかった風鈴が鳴った日のこと、覚えておこう。

カリブラコアの花が庭に咲く季節

そのとき必要なことに必要な分だけ、ありがたく使わせていただきます。