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湖での神隠し

数日前、実家の両親が私たち夫婦の家へ遊びに来た。

特に母は最近、外国人相手のガイドの仕事がめっきり無くなって、田舎でゆっくりしたいと「のんびり旅」を求めていた。そこで私たちの家へ招待してみることにしたのだった。

滞在中は庭仕事やヤギの世話など、自分らにとっては当たり前の日常タスクに生き生きと取り組んでくれた。とりわけヤギの世話は珍しかったようで、自分たちで食べた果物の皮をヤギのために大切にとっておくなど、存分に甘やかしていた。

ヤギの世話でも十分そうだったけれど「できるなら他にもたくさん自然にあふれて野生的なことをしたい」といったリクエストをもらったため、母と二人で湖畔でエビ獲りをすることにした。

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私が暮らしている地域の湖には川エビがたくさん生息していて、湖畔沿いに立ちながら網ですくえば割と大漁。1時間程度作業すれば、夜ご飯のおかずが一品増えるくらいの量になる。

「網とバケツを持っていけば大丈夫だよ」

持ち物を確認して湖畔へと出発した。秋晴れのいい天気。

現地に到着してからは親子二人でエビ獲りに夢中になった。いい歳した二人が網を持って子供もみたいにわいわいエビ漁をしている様子は、近くを通った人にはどう映っていたのだろう。

「もうたくさん獲れたね!すごいね」

バケツにたっぷりのエビが泳いでいる。ぴょんぴょん跳ねるから、フタが無いとあっという間にぴゅーんとどこかへ飛んでいってしまう。エビってほんとに反って跳ねる生き物だよなあ。

こうして楽しんでいたのはいいけれど、途中から網が1本無くなったことに気が付いた。最初は3本使っていたはずなのに、気が付いたら2本になっていた。夫に借りた物だっただけに母は焦っていた。

「えー!なんで1本無くなってるんだろう?湖に落としちゃったかなあ」

知らぬ間に消えた網をしばらく探したけれど、結局見つからなかった。正直どこかへやってしまったのは、私なんじゃないかと思っている。知らない間に手から網をパッと離して、そのことに気が付かなかったとか……。

母も私も「自分が最もドジである」と思っているから、二人とも自分がやったと思います、といった会話になって親子だなということを感じた。無くすだけでなくて、無くしたことさえ気が付かないことがある二人である。

夫には網が無くなったことを正直に話した。もちろんどうして無くなったかは分からないことを含めて。物が突然無くなるってあるよね。ドジなのか、神隠しなのか。

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川エビは素揚げ、グリル焼き、佃煮の3種類のおかずへと変身した。私たちのなかではグリル焼きが最も美味しくて好評だった。

カリカリっとした食感とエビの香ばしい匂いが鼻をくすぐる。川エビと一緒に獲れてしまったハゼも食べるけど、ハゼは見た目が少しグロテスクで個人的には食べるのに勇気がいる。


そのとき必要なことに必要な分だけ、ありがたく使わせていただきます。