経営とデザインが“手”を取り歩む、ブランド価値浸透の道のり
京都で「包装関連機器」と「コンバーティング関連機器」の2つの分野、「PACK」「LPC」「AIREX」「UE」の4つの事業を展開する、産業用機械器具製造会社「株式会社三橋製作所」。
1950年代から大手精密機械メーカー製品の製造と、自社ブランド製品の開発・販売を両立する状況が続いていたところから、少しずつ自社ブランドの確立に向けて動き出します。
SKG代表・助川との協業を通じて、それまで統一感に欠けていた販促ツールのデザインを1つずつ刷新。助川はブランドコピーやホームページ、製品カタログの制作をはじめとするブランディングデザインを担当しました。
三橋製作所の代表取締役社長・三橋宏さん(以下、三橋社長)と長期的なパートナーシップを築くなかで、あらためて企業の特色を整理していき、「手にかわる“手”を。」というブランドコンセプトも作成しました。
今回は、「経営のそばにデザインを置くことの重要性」をテーマに、三橋社長との対談を前編・後編にわけてお届けします。
後編では、ブランディングを確立するためのブランドコンセプトを活用した取り組みや、経営におけるデザインの可能性について三橋社長に話を伺いました。
コンセプトを現場の一人ひとりに。三橋社長が考えるブランディングの本質
– 「手にかわる“手”を。」というブランドコンセプトが完成した後、社内に浸透させるために、現在どのような取り組みを進めていますか?
三橋:今取り組んでいるうちのひとつが社内報です。助川さんとも議論を重ねながら策定したブランドコンセプト「手にかわる“手”を。」を社内報のタイトルにし、そのなかで度々ブランディングの背景や想いに触れています。ブランドコンセプトを、社員の心に根付かせるための取り組みを進めているところです。
ブランドコンセプトとして私たちの存在意義を言語化しましたが、その本質を社員に理解してもらいながら、純度を保ったまま社内全体に浸透させるのは一朝一夕にはできません。だからこそ、今日の取材には社員にも同席してもらいました。
入社時からすでにデザインが整っていると、どうしてもそれが当たり前に感じてしまうもの。しかし、なぜリニューアルしたのか、想いを知ってもらうこと自体が浸透につながると思うんです。ブランドコンセプトを意識しながら仕事をするのと、単に製品を作るだけ、メンテナンスするだけでは、仕事の質は変わってくるはずですから。
社員一人ひとりがデザインの意義を深く理解して業務に活かしていくことは、企業の長期的な信頼の構築に直結します。私はこれこそがブランディングの真髄だと考えているため、今日みたいに取材へ同席してもらったり、社内広報を通じて継続的に皆さんにブランドコンセプトとその背景をお伝えしたりしながら、社員とともにブランドを築き上げている最中です。
助川:多くの企業が抱える課題として、経営者とデザイナーだけでブランディングを進めた結果、社員との間に溝ができてしまうこともありえますよね。「上の人が勝手に決めたこと」、と当事者意識を感じられないという…。
ですので、三橋社長のようにデザインに対する想いが最も強い経営者が、率先して浸透活動に取り組まれていることは非常に意味があると感じます。介在する人が多ければ多いほど浸透の純度や温度感は薄まってしまいますから。
ブランドコンセプトの作成やデザインの統一だけでは、ブランディングは構築できません。社員一人ひとりがデザインの意義を理解し、意思が変わるほどにまで自分ごと化して捉えられてこそ、ブランディングデザインの力が発揮されるのだと思います。
経営のそばにデザインを置いて終わり、ではなく、今日こうしてブランディングの背景について語る場に社員の皆さんも同席してもらうなど、三橋社長自らがコンセプトの浸透・定着に取り組まれていて素晴らしいです。
ブランドコンセプトを行動指針に。インナーブランディングから見えたデザインの可能性
– ブランドコンセプトを行動指針にも置き換えられたと聞きました。
三橋:そうなんです。ブランドコンセプトをより社内に浸透させて、一人ひとりの行動にも反映すべく、「手にかわる“手”を。」というブランドコンセプトをもとに、「使いやすい」「扱いやすい」「安心できる」という3つの合言葉を設けました。
「使いやすい」は文字通り機械としての使いやすさ、「扱いやすい」はメンテナンス性の高さ、「安心できる」はお客様が安心して製造ラインを任せられる、といった意味合いを込めています。お客様の“手”に代わり、さらにその先の“手”をも支援する。ブランドコンセプトをそのように捉え直したんです。
お客様の声に耳を傾け、細かく設計にフィードバックして改善していく。そうした対応がお客様との長期的な信頼関係の構築につながり、次の受注にもつながっていくはずです。
私たちが本当に大切にしていたことを、より社員にわかりやすいかたちに具体化できたのは、デザイナーの視点も取り入れながら練り上げたブランドコンセプトが指針となっていたからこそです。
助川:三橋社長がブランドコンセプトを社内向けに解釈し直し、社員の方々にイメージしやすい行動指針に落とし込まれたのですね。
当初は、これまでお客様が手作業で行っていた工程を、機械を導入することで自動化、省人化するという意味合いが強かったブランドコンセプト「手にかわる“手”を。」も、アフターサービスの観点から見るとまた違った意味が見えてくる。
三橋製作所は、単に機械で効率化を目指すのではなく、機械を導入したことで生じる修理の手間や扱いづらさをもカバーする「“手”=人による迅速な対応、アフターメンテナンス」を提供しているとも読み取れます。
シンプルなブランドコンセプトを社長自らが咀嚼することで、社員の皆さんにも理解しやすい明確な指針が生まれた。
もしコンセプトが言語化されていなければ、社員の方々への伝え方ももっと複雑になっていたかもしれません。ブランドコンセプトという “たった一言” が、社内の意識や行動を変える原動力になる。デザインの力がインナーブランディングにも大きな影響を与えうる、まさにデザインの可能性を示す興味深いお話だと思いました。
デザインとともに、「らしさ」を深めていく。デザインが支える企業の未来とは
- 最後に、今後の展望についてもお聞かせください。
三橋:ホームページが新しくなり、ブランドコンセプトができたことで、私たちはより自分たちの存在意義と向き合えるようになりました。
今年(2024年度)が新しいブランドコンセプトを設定して初めての採用活動だったのですが、すでに学生さんからは「ホームページから三橋製作所のらしさが伝わってきた」との声をいただいたんです。
面接では「数ある企業の中でなぜ三橋製作所を選んだのか」という質問に対して、「『手にかわる“手”を。』に関心を持ったから」と話してくれた人もいました。彼らの声からも、デザインを通じて「らしさ」に一貫性を持たせられたのだと実感しています。
そして次にすべきは、三橋製作所「らしさ」をさらに追求し、デザインとともにそれらをアップデートしていくことだと考えています。
企業が成長するには、「お客様にいかに自社のファンになってもらえるか」が重要です。
好きだからこの企業にお願いしたいと思いますし、好きだから他の人にも紹介したくなる。デザインを取り入れながら次の時代の「らしさ」をかたちにできれば、ファンづくりにも、他社とのさらなる差異化にもつながるはずです。
助川:今後、お客様に伝えていきたい部分、強調したい部分がアップデートされたら、それを発信するためのツールとしてのデザインもまた統一性を持って進化していく必要があります。
つまり、アップデートされた三橋製作所の「らしさ」をデザインでどう表現していくかが、これからの課題だと言えるでしょうね。
先程(前編)「デザインがブランディングの一助となるには、単に経営の『そばに置く』だけではなく、PDCAをまわして一つずつ課題を解決していく必要がある」とおっしゃっていましたが、デザインにもそういったサイクルが必要ですよね。
三橋:おっしゃるとおりですね。
ブランドの価値を確立して外へ発信するには、大前提としてインナーブランディングの強化が欠かせません。先ほどファンづくりの話をしましたが、まずは社内の人に自社のファンになってもらい、自社ブランドの価値や存在意義を十分に理解・浸透させていく地道な活動が必要なのです。
ブランディングを経営者だけの力で推し進めるのは非常に難しいですが、他とは違うことを表現する手法であり、イメージを向上させるためのものでもあり、自分たちの意識を高めるためのものでもあるデザインと一緒なら実現できると確信しています。
デザインを活用して「らしさ」を追求しながら、社内に浸透させていく。そのための試行錯誤をこれからも続けていきます。
今回の対談から、デザインが経営にもたらす可能性の大きさをあらためて実感しました。ブランドコンセプトの策定という企業の根幹に関わる段階から、経営者とデザイナーが共に議論を重ね、想いをすり合わせていくことで、より強力なブランディングが実現できるのではないでしょうか。
ブランドコンセプトを社内外に浸透させ、社員の意識改革にもつなげていくことは、企業の成長と発展を支える重要な要素の一つ。私たちSKGがその一端を担えるよう、これからも経営者の方々の思いに寄り添い、長期的な視点でブランドの在り方を考えてまいります。
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