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〝自分らしく生きる〟#2000字のドラマ

これは、僕が体験した本当の話し。
よーーく最後まで読んで欲しい。


僕には自慢の彼女がいる。名前は柚希。
彼女はとても可愛い。目は大きくて綺麗な二重、手足は
長くて細い。声は少し低めで心地いい声だ。
僕と彼女とでは、とても釣り合わない。
例えるならそれこそ月とすっぽんのようだ。

ある日の会社帰り。いつもの時間。いつもの道をあるく。

「千尋千尋!聞いてよ!」

彼女が僕の名前を呼ぶ。

「なんだよ、聞いてるよ」

「だからー!無人島に1つだけ持って行くとしたら何を持って行くの?って話しだよ」

「何の話しだよー、、、」

「でも1つだけならスマホかな」

「千尋、あんたバカね」

「じゃあ柚希は何を持って行くんだよ」

「決まってんじゃん。スマホ。」

「一緒じゃねえかっっ!(笑)」

なんて、いつもくだらない話しをする僕たち。
とても平和な毎日で幸せだ。
僕たちは普通に仲が良い...たぶん...そう思いたい。
けれど、

「今度の日曜に柚希の家に行ってもいい?」

「あーーごめーん!その日は用事があるの!また今度ね」

「そうか、分かったよ...」

このように、僕は彼女の家に行ったことがない。
僕の家にはよく来るのに。
デートはいつもショッピングモールか公園。
もうすぐ付き合って1年になる。
けれど、僕は彼女の家すら知らない。

「次の連休に温泉旅行でも行かないか?」

「んー、旅行はもう少しお金を貯めてからにしない?」

「たまには旅行とか行こうぜ」

「はいはーい。今度ね!!」

僕たちは2人で旅行に行った事がない。
ちなみに、僕たちは社会人3年目だ。旅行に行くくらいのお金はあるのに...

彼女がこんなだから、僕はハッキリ仲が良いとは言いきれないのだ。女心は複雑だ。

「誰か、僕に女心を教えて下さーい!」

なんて言いたい。
でも彼女の笑顔を見てしまうとそんな事はどうでもよくなってしまう。
そのくらい、僕は彼女の事が好きなのだ。

でも、今日こそは聞く。絶対に。

1年記念日を前に僕はそう決意したんだ。

「柚希!」

僕は歩いていた足を止め彼女を呼ぶ。
自分でも驚く程の大きな声が出た。

「なあに?怖い顔しちゃって!ビックリするじゃん!」

笑っている彼女に僕は真剣な眼差しを向けた。

いつもと違う雰囲気を感じたのだろうか。

一瞬として柚希の笑顔が消えた。

「柚希、もうすぐ付き合って1年になるよね。僕、1年記念日は一緒に旅行に行きたい。」

ハッキリと言った。

「そうだね、でも...」

柚希の顔が少し俯いた。
彼女の次の言葉が気になる。

「今、金欠だからお金貯めなきゃ〜」

やはり、思っていた通り聞き慣れたいつもの返事がかえってきた。もう何回目だろうこのくだり。

彼女はいつもこうやってはぐらかす。
でも、今日はこそは折れないと決めた。とにかく、理由が聞きたい。彼女の事をちゃんと知りたい。
その一心だった。

「本当にそれが理由なの?」

「そうだよ!」
彼女が鼻を擦りながら応えた。
まただ。彼女は嘘をつくと必ず鼻を擦る癖がある。
きっと自分自身、その癖には気付いていないのだろう。

「僕、柚希が何を考えてるのかサッパり分からない」

いつもの僕じゃ考えられない強気な態度に柚希は少し驚いているような気がした。

「教えてくれよ」

「......」


そして、ようやく柚希が口を開いた。

「千尋はさ、〝自分らしく生きる〟ってどう思う?」

「え?」

「私は、すごく勇気がいる事だと思うの」

何の話しなんだ。
彼女が何を言いたいのか全く理解できない。

「千尋、ごめんなさい」

なんだ。怖い。僕は振られるのか?

「私ね実は、」

「...うん」





「男の子なの」



「......え?」

彼女は今、何と言った?僕は混乱した。
そんな僕の手を彼女は強引に自分の股に押し当てた。

「...あ、え...??」


僕は、ようやく言葉の意味を理解した。

「もう終わりだよね...」

泣きそうな声でそう言い残し彼女は走り去って行った。
僕は呆然と立ち尽くした。

まさか、自分が今まで男と付き合っていたとは。
なんで気づかなかったのだろう。
いろんな思いが込み上げてくる。

家に帰っても落ち着かない。
正直、まだ頭が追いつかない。
今まで旅行や、家に行くのを拒んだ理由。
いろんな事を僕なりに考えた。

今後どうすればいいのか。
先が見えない。

けど、1つだけ言える事がある。

僕は柚希が大好きだ。
この先もずっと一緒に居たい。

そうか、この気持ちをそのまま伝えれば良いのか。
いろんな事を考え、疲れた僕は眠りに着いた。

翌日。

眠い目をこすりながら会社に向かう。

「おはよう」

聞き慣れた声だ。でも、少し元気がない。
振り向くと柚希がいた。

「おはよう。今日も眠いな。」

「うん...」

何か言いたげな柚希。

「あのさ」

先に口を開いたのは僕だった。

「昨日の事、正直驚いた。」

「だよね...ごめんね...もうおわりに...」

「しないよ。」

「え...」

彼女が目をまん丸にして驚いていた。

「別れない。性別なんて関係ないよ。誰を好きになろうが個人の自由だって僕は思う」

「......」

「だから、これから先もずっと一緒に居よう。」

僕は自分が思っている事をしっかり伝えた。
彼女は泣いていた。

でも、その涙はすぐ笑顔に変わった。

「千尋!ありがとう!」

涙が輝く彼女の笑顔は最高に素敵だった。

性別という壁を越え、〝自分らしく生きる〟彼女。


そうか、柚希って名前は女だけの物じゃないもんな。





ちなみに千尋って名前も男だけって訳じゃないぞ!





僕も柚希に話そう〝自分らしく生きている〟って事を。


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