「専門家以外は口出すな!」という主張について/優秀であればあるほど専門家が陥りやすい罠とは?

新型コロナウイルスへの政府側対応に関連して「専門家以外は口出すな」的な主張をみかけます。

もちろん専門家の業務を妨げるような、単に怒りのはけ口とするだけの有害無益な口出し(=悪口)や粘着はいけません。批判や自己正当化が目的化しているような人も見受けられますがこれもいけません。

しかし建設的な批判・提言はありだと思います。私は以下のように考えます。

積極的に指摘・提言すべき。ただしそれは以下のような場合
・専門家の知見を最大限に発揮することを妨げているものが自明で、それを解決できる知見がある
・明らかな間違いがある
・社会的関心が高くてその見解を得られると公益に叶う(社会不安が静まると確信できる)

★★★重要★★★
電話で拘束したり、Twitterで粘着したりは内容が有益であってもやってはいけません。それは妨害行為です。
★★★★★★★★

専門家の定義

今回の危機での専門家は、疫学、公衆衛生、感染症、あとはその分野の数理モデルを研究する学者を指していると思います。たとえば「クラスタ対策班/データ解析チーム」の西浦教授が該当すると思います。

ここで「専門家以外は口出すな」を主張する人に悲報です。

西浦教授自身が「自分は医学バカ・データバカ。プロの力を借りられるのはありがたい」と言っています。

専門家の知見を最大限に活かすには、専門外の知見が欠かせないのです。ここでは「リスク・コミュニケーション」が挙げられていますが、他にもあります。たとえばICT活用やプロジェクトマネジメントです。

私のいるIT業界の例をあげます。

データサイエンティストだけではサービスは提供できない

ここ数年、ビッグデータを活用した分析、機械学習やAI機能の開発が盛んです。その中心にいる専門家はデータサイエンティストです。データサイエンティストが開発した凄いヤツを「モデル」と言います。

ここで問題です。この「モデル」があれば、その利用者はその凄い機能を利用できるでしょうか?

答えはNOです。

データサイエンティストが開発した「モデル」をサービスとしてエンドユーザに届けるには、モデルの設計・学習に要する時間よりもさらに多くのエンジニアリング作業が必要です。データサイエンティストもITエンジニアもどちらも欠かせない存在なのです。

プロジェクトマネジメントとの知見とは?

IT業界は大半の業務が「プロジェクト」として運営されるので、プロジェクトマネジメント慣れしています。経験も知見も豊富です。

プロジェクトマネジメントでは以下のような様々な要素を扱います。

・様々な立場のステークホルダとのコミュニケーション。
・不透明な状況での意思決定。
・効率的な情報伝達・共有。
・リスク・不確実性を扱うこと。
・大量のタスクを優先度や重要度を考慮して扱うこと。
・進捗や各メンバーの作業負担の可視化。
・自動化による生産性向上。
・品質管理手法の駆使。Etc...

これらの知見は今回の有事でも活用できたはずです。

厚労省職員が内部事情を述べた記事では、100人以上の職員がメールだけを使って業務を遂行しているというにわかには信じがたい状況(20年前のやり方ですよ!)が明らかになりました。IT業界で当たり前に実践されている手法・ツールを使えば効率もクオリティも格段に向上することは確実です。

厚生労働省の職員「多忙でメンタルをやられた人もいる」 新型コロナ対策の現場で何が起きているか?(Yahoo)

4/1の専門家会議の会見では、クラスタ追跡に欠かせない「クラスタ・サーベイランス要員」の業務が非常にアナログ、労働集約的な作業で、人員が枯渇・疲弊して追跡が困難になったことが明らかになりました。その対策(サーベイのアシスト)の一つがICT利活用。方向は正しいです。韓国や台湾が既に成果を出しています。が、遅すぎます。遅すぎです。クラスタ戦略そのものに疑義もありますが、もっと時間稼ぎできたかもしれません。悔やまれます。

2020/4/1 専門家会議メンバーの会見で気になったこと(1) クラスタサーベイランスを遂行できる人材の枯渇・疲弊|かつしん|note

優秀であればあるほど専門家が陥りやすい罠とは?

・無意識のうちに、過去や平時の「常識・制約」を前提として物事を考えてしまう
・「わからない」と言えない。単なる推測や希望的観測を不用意に発言してしまう。メディア・視聴者と伝わるうちに情報が歪んで誤解や憶測を招く。
・専門に徹し切れない・・・分野外~例えば経済や政治~のことも考慮してしまう。

まとめ

専門家は欠かせません。が専門家は得てして「専門バカ」でもあります。

専門家は、古い常識・制約や手法にとらわれやすいです。「未知」のものに対して素直に「わからない」と言えません。分野外のことも学んでいるので「余計な事柄(例えば感染症専門家が経済を考慮してしまう)」を提言に含めてしまいます。こういう「専門家が陥りやすい罠」を自分自身で突破することは難しいです。コーチが必要です。

専門家は、他分野(特にICTのように変化がイノベーションが激しい分野)の最新の知見は持っていません。

専門家の知見を最大限に発揮するにはそれ以外の分野の知見が必要です。

専門家の知見を最大限に発揮することを妨げているものは何かを見極めて、それを解決できる知見があるのであれば、積極的に指摘・提言すべき。です。

注意点

西浦教授は以下のようなツイートを投稿しています。本文の最初でも記載していますが、仮に有益な助言・提言であっても電話での拘束やTwitterでの粘着はやってはいけません。自戒を込めて。

追加の考察

ふと思ったのですが、「専門家以外は口出すな」という主張にはいくつかのパターンがあるように思います。

・批判される側のファン・信者
・批判される側と利益をともにする人(既得権側)
・どんな場合でも批判は生産的でないと信じている人
・ゼネラリスト(非専門家)・・・専門家の限界を知らない
・正解を探している人

唯一正当化できるのは、本文でも記載したように「悪口」・単なるわ批判される側が疲弊してやんdね

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