2020/4/1 専門家会議メンバーの会見で気になったこと(1) クラスタサーベイランスを遂行できる人材の枯渇・疲弊


専門家会議メンバーの会見を見ました。2時間のうち記者との質疑応答が1時間30分。ストレスが溜まるだけの総理会見とは比べ物にならないほど有用。疲れましたが・・・。汗

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とはいえエンターテイメントではないので気になったことを控えておきます。多くの重要な質疑応答がありましたが、やはりクラスタ対策が気になりました。

座長によるとクラスタ対策は

・三本の矢の1つ
・これをやってるから日本は抑え込めてきた

とのことです。このクラスタ対策を遂行するためには、

・クラスタ対策にはクラスタサーベイが必須
・クラスタサーベイには所定の知識・スキルが必要。FETP(実地疫学専門家養成コース)で習得

とのことです。問題はここからです。

クラスタ対策班組織図

問題はここからです。

・FETP訓練を受けた人材は既に枯渇・疲弊してしまっている
・素人(公衆衛生の門外漢)は戦力化できない。
※該当箇所の質疑動画(Youtube)

もちろん座して手をこまねいているわけではなく、以下のような取り組みを行っているそうです。

・保健師の人などをだしてもらえるよう自治体や保健所に働きかけている。
・とても協力的で、つい先日、都道府県リーダが集まって研修を行えた。

懸念されること

クラスタ追跡作業の詳細はわかりませんが、検体の運搬までやっているそうなので、かなり泥臭い・アナログな作業のようです。しかも要スキルとなるとデジタル・クラウドのように簡単には資源を増やせません。

座長は「長期戦になる」。北浦教授は「ゆるい指数関数的増加(2.5日で倍加(注1))が発生している」とも言っています。
需要に供給がおいつかなく恐れはないのでしょうか?

私は大小さまざまな延べ30以上のシステム開発プロジェクトに携わってきました。立場はさまざまです。(一エンジニア、リーダ、マネージャ、発注側、オーナ)。多くのプロジェクトは紆余曲折を経てなんとか完成しますが、中には破綻してしまったもの(中止もしくはコスト大幅超過・納期大幅遅延)もあります。上述した状況(=人が足りずに急遽手当)は、破綻したプロジェクトと似た雰囲気を感じます。言語化すると「場当たり的」「その場しのぎ」「逐次投入」という感じでしょうか。

率直にいって「人的資源が不足して破綻」する可能性は高いと感じます。

クラスタ戦略は優れているとしても、それを遂行するためのリソース(特に人的資源はモノよりも調達が難しい)に不安がある以上、やはりクラスタ対策一辺倒でなく別プランが重要だと感じました。

西浦教授が他のプランも検討しているとおっしゃっているので期待しましょう。

新規の取り組み/ICT利活用

なお、今回、新たな取り組みとして入ったのが「ICT利活用」です。(LINEを使ったアンケートもキャリアへのビッグデータ提供要請も既に物議を醸していますね)

LINE 国内8300万人の利用者に健康状態調査 厚労省と協定
政府、新型コロナ対策でドコモなどに統計データの提供を要請 「法的拘束力はない」

質疑の途中で「ちょっといいですか。記者さんが質問してくれないのでこちらから」と質疑に割り込んで話題にしたのは武藤教授。頼もしい。

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武藤教授の発言箇所(動画)

期待されている用途の一つがこのクラスタ追跡のアシストのようです。

おそらく、キャリアデータを使って立ち寄った場所・経路から濃厚接触者を特定。ヒアリングをWebもしくはスマホアプリにして、その結果の蓄積・クレンジングしてBIツールで可視化・分析できるようにシステム化するのでしょう。技術的には目新しいものはないと思います。

ただ、詳細な要件がわからないのでなんともいえませんが、匿名で実現するのは難しそう

当然、そこは考慮されていて、武藤教授からは以下の説明がありました。

・パーソナルデータは知らなくていいことも知りすぎてしまう。
・用途が無制限になってしまう恐れもある。
・しっかり丁寧に議論しなくてはいけない。でも「急いでいる」
・個人情報保護、条例に詳しい人、プライバシーの専門家と協議して詳細をつめたい

「情報の取り扱い」の着地点を見出すまでに相当な困難が予想されます。アナウンスの仕方を間違えると、炎上必至案件です。ICT利活用は突破口の一つだと思いますので頑張って欲しいと思います。

LINEさんもはいっているし、東京都には宮坂さん(副知事/元Yahoo)もいるし、Code for Japan(東京都の感染症対策サイトなど)さんもいるので、ITエンジニアリングリソースは足りていると思いますが、貢献できることがないか、今後もウォッチしていこうと思います。

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(注1)2.5日で倍加について・・・発表資料では、以下のように記載されています。一過性という可能性もあるようです。

なお、3月 21~30日までの 10日間における東京都の確定日別患者数では、2.5日毎に倍増しているが、院内感染やリンクが追えている患者が多く含まれている状況にあり、これが一過性な傾向なのかを含め、継続的に注視していく必要がある

(4/13追記)驚愕の事実が西浦教授から明かされました

なんとFETPできる人材はわずか10人程度しかいなかったとのこと。こんな脆弱な体制に依存した戦略に賭けていたとは…。

もちろん専門家は所与の条件の中でベストを尽くしたと思いますし、クラスタ戦略という有効の打ち手な1つだと思います。

ただ、戦略の弱点(追跡不可能な無症状感染者が感染を広げてしまう)や遂行を妨げる要因は感染症や医学の素人にだってわかったはずです。

以下で述べていますが、ある専門家の力を最大限に発揮するには、他分野の専門家の力が必要なのです。

「専門家以外は口出すな!」という主張について/結論は「別分野の有用な知見は提言すべき!」|かつしん|note
https://note.com/skatsumata/n/n11d9c266b417

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