『聞く力』と『伝える力』 株主総会に参加して得た学び

 私事ながら、今年の春から株を初めた。買ったタイミングがよかったのか2か所ほど株主総会招集の通知が来ていて、せっかくの機会なのでいってみることにした。いろいろと得るものがあったので、書き残しておくことにする。


大まかな株主総会の流れ

 株主総会の基本的な流れは、だいたい朝10~12時ぐらいで以下の通り

  1. 直近1年の営業活動報告

  2. 1号議案以下提案(株の配当額、取締役選任の件、その他事前に提案事項があれば)

  3. 質疑応答(経営陣への質問・要望等)

  4. 拍手で議案承認

  5. 終了

質疑応答にほとんどの時間があてられることになる。一般的には資産や負債、資本などが記載された貸借対照表、損益計算書をみて細かい点を指摘したり経営方針などについて質問や意見があったりするわけだが、わりと細かいその会社の製品やサービスに対する意見や質問も多かったりする。では、それぞれのケースについて振り返ってみる。

某私鉄会社

 昔から大変お世話になっていた某私鉄の株主総会。週の真ん中あたりのド平日なせいか、いわゆる若年層の数は少なく全体的に年齢層が高めでした。総会招集の通知もちょっとしたパンフレットになっており、各部門での数値的な結果や施策などがいろいろと記載されていた。拠点地域以外の全然関係なさそうな地域にもいくつか不動産手に入れたのはちょっと意外ではあった。2023年6月現在、コロナ対策が緩和され、ようやく人の流れの回復の兆しがみえつつあるような状況であった。

質疑応答の内容としては、落ち込みに対して戻りが悪い部門への突っ込みであったり、拠点外の地域での不動産は必要なのか?といった経営に関する質問も散見されたが、それ以上に利便性に関する質問やローカルな質問が多かった。

  • どこそこ駅のトイレが汚い。

  • どこそこ地域のバスの本数が少ない

  • どこそこ駅のノボリクダリ両面のアクセスが悪い

  • 新設された路線なんとか延伸するなりてこいれを

  • 会場最寄り駅水漏れしてるやないか!

  • 特急のwifiなくなったのはなぜ?

  • 総会みやげはないのか?!

  • 高齢者の運賃やすくしてくれ

などなど・・・

一応、下記のような建設的に大枠を提案する意見もあった。

  • リモートワーク社会への対応について

  • 歴史や風土といった資源を活かした施策の提案

ただ、最後のほうは個人的に最早聞くに堪えないと思いつつ、これ以上は語るのを辞めることにする。。年齢層が高めだったせいか、終了後にSNSみてもほとんど言及されているツイートが見当たらなかった。まぁそんなもんかと。

任天堂

 私が買った3月頃の時点でも1単元50~60万円程度とまあまあ高めだと思っていたが、昨年の10月頃に株式分割されて1単元の価格が10分の1になっていてこれでもだいぶお手頃価格になっていたようだ。1単元というのは株主総会で議決行使できる最低単位、一定時点にて1単元以上保有していれば招集通知が届く。任天堂の場合は100株で1単元。
 物心ついた時からファミコンやゲームボーイ等にお世話になり、最近でもDSや3DSを中古品で探し当てswitchでポケモンをやるぐらいに人生のかなりの部分お世話になっていたので、大変楽しみにしていた。

 今回の株主総会は、参加するからには是非物申したいことがあったので、数日前から質問内容の推敲と事前の勉強を実施した。
ポケモンの通信対戦をそれなりに観たりやったことある方なら一時期話題となった、『WCS予選での一連の騒動』である。
 この一連の騒動については、別記事にて概要をまとめておいた。詳細についてはそちらをご確認いただきたい。

ポケモンワールドチャンピオンシップス(WCS)予選で起きた一連の騒動のまとめ|セルゲイナス (note.com)

 一応Yahooのニュースにも載ったぐらいだが、どこまで任天堂側で把握しているのかわからないため、『今回のポケモンWCS予選で生じた事態を把握しているかどうか確認した上で、今後のEスポーツの発展に対してどのように取り組むのか?』というところをゴールに質問を推敲した。
 忘れてはいけないポイントが、ポケモンのソフト自体を作成しているのは任天堂ではなく株式会社ゲームフリークである点。任天堂資本ではない、まったくの別のビジネス上の協力関係のある会社なのである。レイドのバグや通常の通信対戦でのバグ等諸々あるが、ゲームフリーク側の話になる可能性が十分にあったので、今回はあくまでWCS予選という大舞台での問題に絞ることを改めて肝に銘じた。ポケモンに関するイベントや諸々を担っている会社がご存じ株式会社ポケモンであり、任天堂も出資している関係会社であると確認できた。別会社といえばそうではあるが、一定程度の関係がある会社ということでそこを踏まえた上で質問することにした。
(調べているうちに、『子会社・関連会社・関係会社』と似たような用語が並んでいた。細かい要件は省略するが、平たく言えば左に行くほど親会社の影響が強くなるようだ。)

 また、任天堂のページをみてみると、過去何年分もの株主総会での質疑応答の要旨が載っていた。とりあえず10年分ぐらい読み込んでEスポーツへの取り組みに関する質問がないかどうか確認したところ、2021年に同様の質問があったので、一応それを踏まえた上で組み立てることにした。

 当日早起きする必要があったがまったく眠れず、普段爆睡している時間に家に出発して、それでも早く会場付近に到着したのでしばらく朝の京都をぶらっとしてから8:30前後に到着したが、既に10数人前に並んでいた。
 その後会場開始し、無事中央付近の最前列に陣取ることができた。

 株主総会が開始し、ポケモンSVとスプラトゥーン3の売り上げ説明など数字的な部分の説明が簡単になされ、細かい部分については弊社ページみといてくださいということで時間の節約。そして満を持して質疑応答開始。めちゃくちゃ皆さん手を挙げておられる。ただ手を上げるよりかは、入り口で配布された番号札を天高く掲げてじっとにらみつける熱い視線を送ることで、早い段階で指名をいただくことができた。

 立ち上がる際に事前のメモを最後にかるく確認してから、できる限り発言。細かくどんな言い回しで発言できていたかはあまり覚えていないが、おおまかな趣旨としては以下の通りである。

  • 2021年の質疑応答に上がっていたEスポーツへの取り組みについてさまざまなイベントに取り組んでいきたいという回答があった旨をおさらい

  • 今年の8月にヨコハマでポケモンWSCが開催されるということで、とても楽しみにしていたが、5月に行われた予選にて重大なシステムトラブルならびにその後の対応に禍根の残る事態となり、ヤフーニュースにまで掲載される事態となった。一観戦者として大変悲しく思っている。

  • 株式会社ポケモン主催であり、任天堂とは直接関係があるわけではないが、関係会社である任天堂として今回の事態をどのように捉えているか?また今後のEスポーツの発展のための施策についてどのように考えているか。

 本当は『株式会社ポケモンの株主総会があればそちらで言及させていただきたかったが、』のという趣旨もいれたかったがとんでしまった。今回のWCSの件と株式会社ポケモンの上場予定はあるのか?という点も本当は質問したかったが今回はあきらめた。ポケモンだけでもビジネスの可能性は非常に多岐にわたり、任天堂はもちろんだが特にポケモンに対しても投資をしたいという声は少なからずあるのではないか?推しの株を買いたいというニーズもあるのではないか?という点も言及したかった。しかしながら現状株式会社ポケモンは持分法適用関連会社であり、株式上場の是非については意見を上げるにしてもこちらも勉強不足だったというのもあったので今回は断念した。まぁ万が一敵対的買収されてえらい目にあうリスクもないわけではなさそうだし、現状のほうがよいのかもしれないが、もしまた意見させていただける機会があればそれまでにもう少し勉強してからお伺いするかどうか検討することにする。

 前にしていた仕事で大勢の前で発言する機会があったり、あるいは自ら作ったりといろいろ経験を積むように努力してきたとはいえ、やはり自らの浅さを痛感した。ただ、一応可能な限り他の人の意見はメモをとるようにした。書きづらかったのでキーワードだけ抜くような形だったが。
 質疑応答の内容をみてみると、数え間違えていなければ私含めて16人質疑応答ができたはず。一人一問ではあったが、うまく伝えることで議題を複数混ぜることに成功していた方が何名かおられたので実際の議題数は若干増えるが、経営面に関する質問は1~2割程度といった塩梅だった。
 ちなみに検索をかけてみると、終わってすぐに光の速さで各質問の簡単な要旨をもれなくまとめておられた方がいて仕事が早い人はとことん早いなと痛感した。そのうちに任天堂の公式サイトに質疑応答要旨がアップされるだろうなので、そちらを確認するのがより確実ではある。

2023/6/26 追記

当日の雰囲気等については、下記の記事を読んでいただいたほうがより詳細にお判りいただけるかと思う。2013年以降ほぼ毎年参加されている大先輩であり、最早任天堂の株主の教科書といってもいいレベルである。来年以降参加を検討されている方は、絶対に読んでおくべきである。

任天堂株主総会レポート2023 | N-Styles

 

『聞く力』と『伝える力』

 他の方の質疑応答をよくよく聞いていると、人前で発言したことがあるかどうかの経験値は露骨に感じられてしまうものである。発言時の落ち着き方がまるで違う。不慣れな人はよく言葉に詰まる。2度の株主総会に参加して、これは必要だと思ったスキルが以下の通り

  • 多数の人が挙手する非常に倍率が高い状況なので、細かい説明は省き可能な限り手短にかつ簡潔に要旨を相手(特に経営陣)に理解してもらうための『伝える力』

  • 簡潔に説明しつつ、主要な論点の隣接する論点を無理のない範囲でしれっとねじこむ『主張の構築力』

  • 発言者の要旨をまとめ、『ようするに、こういうことが言いたいわけですね』という『聞く力』、簡潔に要旨を思い出しやすいように『メモする能力』

【個人的にワースト質問】

 その発言の最中から会場内の空気がだんだんと、
「ざわざわ・・・ざわざわ・・・」というなんともいえない空気に持っていってしまった某ゲームに関しての細かい質問をした人。
私なりに気になった点をまとめると以下の通りである。

  • 早口で活舌がよくない。遠くからだと何か早口で叫んでいるようにしか聞こえない。聞く相手を想定しておらず、一方的に叫んでいるようにみえる。

  • ご丁寧にA4サイズの自作の紙芝居まで持参していたが、あまりに小さすぎる。とても大きな会場でいかに最前列に陣取っておられたといえど、経営陣の方がそれを視認できるかどうかあやしい。そもそも他の株主からすれば紙芝居をつかっているということぐらいしかかろうじて確認できない。小道具はよほどの証拠となるような特段の事情がない限り、そもそも使うべきではない。

  • 話があまりにも長い。ゆっくり発言しているわけでもなく早口なのに長い。具体例や経緯と思しき内容をつらつらとマシンガンのごとく叫び続けていたようにみえたが、他に多数の質疑応答したい方がいるという配慮が感じられない。議長から残り1、2分でと静止が入ったのはこの方だけであった。

  • 専門用語の多用。スプラトゥーン未履修の私にとっては何がなんだかさっぱりわからなかった。

  • 事前の注意事項で説明があったにもかかわらず、最初に整理番号と氏名を名乗り忘れる。発言の機会を与えられた嬉しさのあまり入場時に配布されるカードに記載された、いきなり本題に入ったこと。議長である代表取締役からの回答の際に、そもそも整理番号とお名前はなんでしょうかと言われてようやく答えるレベル。

 株主総会に限らずだが、我々もこのような地雷を踏まないように落ち着いて発言の機会を有効に活用したいものである。

【個人的にこれは発言の仕方がうまいなと感じた質問】

※あくまで私個人的にそう感じたものである点は念押ししておく。

  1. 投資家目線の方一人目
     それまでゲームや本体関連の話題が続いていたところで、『さらなる株式分割』を提言。任天堂の話の冒頭でも述べた通り、任天堂の株を株主総会での議決権行使できる最低単位分買うとなると現状100株、約60~70万円程度かかる。分割してこの価格だと、若い人が株を購入しづらい。若い人にももっと任天堂の株を買ってほしい。という至極まっとうな提案を、落ち着いた口調で聞こえやすく発言されていたのがとても印象的だった。

  2. ベテラン投資家目線でもありベテランゲーマー目線でもある方
     先の投資家目線の方のあとさらに数名ゲーム関連の話題が続いた後に、唐突に『1億円ほど運用している投資家目線から』といったような具合で1億円というビッグワードで場の空気を投資家視点に一気に引き寄せたかと思えば、長年にわたり任天堂ユーザーでもあるというこの場において最強のスペックを簡潔に紹介して場の空気をつかみにかかる。人によっては、自身の資産運用額をおおっぴらにいうものではないと否定的な意見もあったようだが、投資慣れしている方ならいざ知らず私のような投資についての素人には1億円というワードでだいたい空気が変わってしまうのではないか。実際私も聞く姿勢がちょっと変わってしまった。本能的にとりあえず聞こうではないか、となってしまったのである。
     その後、次世代機開発についての情報開示を急ぐべきではなく、今普及しているswitchでもってマリオの映画で世間が温まっているところにさらに新たな顧客を獲得していくべきとの堅実路線を主張した。ついで次世代機開発を急かす反証として、現在のswitchのスペックは開発側としてやりたいことが十分にできているのか否か?という質問に移り、議長ではなく開発担当取締役からの回答を引き出す。それは、
    『現状たりないことはなくはない。
    ただ、開発者というのは欲張りで、スペックはあるにこしたことはない。しかしながら、制限があるからこそ作れるものがある』

    といった内容であった。深い。
     そして最後に、次世代機を発売する際に対策しなければならない点として『転売対策』をダメ押しで付け加えた。本日まだ出てきそうで出てこなかったホットなキーワードである。本来一人一問ではあったが、ごく自然流れで3つも重要な論点を引き出し、実際それぞれ経営陣から回答があった。後になって振り返って、これがベテラン投資家の質問の仕方なのか!と見習うべきところが多々あると痛感した。


まとめ

 大勢の前で簡潔に発言するというのは、テニスでボールを当たり前に打ち返す並に実は難しい。言いたい論点が抜けたり、重要論点が伝わり切らなかったりしてしまうものである。組織で重役経験豊富な人はそのあたりが非常にうまく、相手の『ようするにこういうことが言いたい』を拾う力も卓越している。その視点をもって半日ほど株主総会に参加していたが、そう考えると、本日の議長であり代表取締役の古川氏の卓越した『聞く力』『返す力』に賞賛の念を禁じ得ない。これが世界に名だたる企業のトップなのか!といたく感動し、また自身がまだまだ未熟である点を痛感した。せっかくなのでということで出席させていただいたが、本当に貴重な体験だった。

 最後に、株や投資はあくまで自己責任というのは言うまでもない。他の人の話やさまざまな方面から得られる情報はあくまで参考であり、最終的な判断は自分自身で下さなければならないし他人に委ねてはいけない。世の中の動きや会計資料等を読み解いて自分で考える力は、これからを生きる人間には必要不可欠かなと思っている。また、世の中の動きに対してある程度の興味を持つこともまた必要である。逆に世の中の動きに対して無関心でいるのは非常に良くない。世の中の動きに対して無関心でいることは、回りまわって自身の生活が脅かされる結果となる可能性を秘めている。自分の身を守るのは自分であり、必要だと思ったことは主張しないと必ずしも誰かが助けてくれるわけではない。ただ主張するためには相手に伝わり理解してもらうことが必要であるため、そのための注意点というものがある。それが勉強することではないかと思う。勉強することはたしかにしんどいし、長続きさせるのが難しいものではある。とはいえ、その努力こそがまさしく『生きる』ということではないだろうか。


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