あと5年で、火力発電所がなくなる
要点
電力が今後10年で無料に近づいていくことの根拠のひとつを示す
・石炭産業の凋落は、他が安くなったから
・新設の発電所建設コストは、すでに再生可能エネルギーの方が安い
・2020年代前半には、既存の火力発電所も次々と潰れていく
・石炭火力発電所には、保険が掛けられなくなっている
・とはいえ、現状は100%再生可能エネルギー化への弊害もある
「エネルギーが無料になる日」の中で、
「これからの10年でエネルギーは、ほとんど無料になる」
ということを書きました。
その根拠として、
テクノロジーの指数的な進歩によって、
太陽光や風力といった再生可能エネルギーの発電コストが
急速に無料に近づいていくから
と書きました。
そして、
現実に新設する発電所による発電コストは、
石炭や天然ガスの6円/1kWHに対して、太陽光と風力は、
2円/1kWH
ということも書きました。
にもかかわらず、日本では、
「太陽光や風力なんて、まだダメだ。当分は火力が必要だ。」とか、
「天然ガスも高いから、やっぱり石炭が必要だ」
という話がまだまだ主流です。
しかしながら、世界は違います。
これから、それを見ていきましょう。
石炭産業の凋落は、他が安くなったから
石炭の価格は、2013年にピークを付けて以来、下落に転じました。 そして下落し始めてすぐに、世界の石炭採掘会社大手の8社が次々と倒産していきました。 何故か? 石炭よりも安くて都合の良いエネルギーが普及したからです。 エネルギーは、石炭であろうと天然ガスであろうと、石油であろうと、最終的には動力に代わるという点では同じものです。
動力源が電気になったところで、適切なパワーを出してくれれば、何でもよいので、コストの低い手段が生まれれば、大勢はそちらにシフトしていきます。
石炭の需要が落ちたのは、地球温暖化を遅らせるパリ協定の影響や、スモッグを減らしたいという短期的な環境問題によるところもありますが、シェールガスやシェールオイルを採掘する技術によって、天然ガスや原油価格が下がったことで、コスト的に不利になったからと言われています。
そこで、次に起こるのは、火力発電所の淘汰と言われています。
新設の発電所建設コストは、すでに再生可能エネルギーによる発電所の方が安い
石炭火力発電所を新設した場合の発電コストは、1kwhあたり6セント(1米ドル100円として1kwhあたり6円)です。 一方で、すでに風力発電も太陽光発電も1kwhあたり2~3セントで発電するところも出てきています。
こうなってくると、新しく火力発電所を建設するのはナンセンスになってきます。 インドのエネルギー庁の大臣は、「太陽光のコストがフリーフォール状態なのに、なぜ今更石炭なんだ?」と言って、2017年に石炭火力発電所の建設プロジェクトをほとんど凍結してしまいました。 中国も同様で、建設中のプロジェクトを含めて、石炭火力発電所の建設プロジェクトをすべて凍結と宣言。 実際は、需要の伸びに追いつかず、完成間近だった発電所の開発許可が出始めているようですが、これはあくまでも一時的な対応です。
2020年代前半には、既存の火力発電所も次々と潰れていく
上記は新しく火力発電所を建設して発電するコストと、風力や太陽光発電所を建設して発電するコストを比べていますが、すでに動いている火力発電所を維持するよりも、新しく太陽光発電所を建設して発電し始めた方が安くなる時代が間もなくやってくるようです。
フロリダ・エレクトリック&パワーという米国の大手電力会社での運用を任されているNew Eraという会社のCEOが、「2020年代の早い時期には、火力発電所を運用し続けるよりも、新しく太陽光発電所を建設して発電した方がコストが安くなる」と発言しているそうです。
こうなると、すでにある火力発電所は、次々と閉鎖されていくことでしょう。
さらに追い打ち! 保険が掛けられない!
2018年に、こんなニュースがありました。
『石炭火力、保険引き受け停止相次ぐ:日本経済新聞』
海外の大手保険会社を中心に、石炭火力発電所の保険の引受けが停止されているのです。
これに合わせて、日本の金融機関も、新たな石炭火力発電所の建設プロジェクトへの融資を止める動きが出ていますが、保険の方がもっと重要です。
保険がないと何が困るかというと、発電所で万が一事故があった場合の損失を、運用会社と発電所を保有している会社がすべて負担しないといけなくなるからです。
火力発電所は、燃料を燃やしてボイラーの水を水蒸気に変えて、それでタービンを回すことにより発電をしているのですが、この燃料を燃やす部分とボイラーが爆発するというリスクが、わずかではあるもののあります。 万が一事故が発生したときには、火力発電所を保有・運用する会社は、会社も一緒に吹っ飛ぶ(倒産する)くらいの大きな損害を負います。
保険会社が引き受けを停止しているのは、石炭火力だけのようですが、新規開発の発電所だけではなく、すでに稼働中の発電所に対する保険も、切り替えできない保険会社も出ているようです。
日本の保険会社が引き受けてくれれば、国内の火力発電所は稼働できるのではないか? と思う方もいるかもしれませんが、このような大規模な保険は、保険会社1社で引き受けると、万が一事故があったときに、保険会社が吹っ飛びます。 そこで、こういった規模の保険を引き受けた保険会社は、再保険といって、他の複数の保険会社にリスクを切り分けて、引き受けてもらうことで、お互いにリスクを分散しています。
特に国内の保険会社の規模は、海外の大手保険会社の規模に比べると、米粒のようなものなので、海外の損害保険会社が再保険を引き受けてくれないとなると、事実上引き受けられないでしょう。 万が一、リスクが十分に分散できないまま引き受けて、事故でも起ころうものなら、経営者への株主代表訴訟は免れないでしょう。 経営陣がそんなリスクを冒してでも、(国がなんとかしてくれるだろう)と引き受けるのは、日本の保険会社くらいでしょう。
ところで、保険会社が引き受けなくなった発電所は、実は、日本にはたくさんあります。 そう原子力発電所です。 福島の原発事故以降、保険会社からは原発事故は免責事項とされてしまいました。
にもかかわらず最近になって、大飯、高浜、玄海、川内、伊方と5発電所9基の原発が再稼働しています。 おかしいとは思いませんか? 保険が掛かっていないのに、なぜ原発を再稼働できるのでしょうか? 電力会社や原発をメンテナンスしている東芝や日立は、万が一のときに、保障しきれるのでしょうか?
このことは、あまり知られていませんが、万が一また事故があった場合、日本では国が保障することになっているようです。 つまり、万が一事故があったら、我々とその子孫が支払い続ける義務を負うことになります。
しかしながら、他の国々はそんな無茶はしません。 これまでは損害保険会社がそのリスクを引き受けてくれていたので、安心して稼働できましたが、少なくとも海外では、これからは稼働する発電所が急速に減っていくことでしょう。
最近のニュースで、日立が英国での原子力発電所の建設を断念し、3000億円以上の損失を計上したとありました。 このときの理由が、融資が受けられず、保険も掛けられなかったからでした。 石炭火力発電もすでに保険だけでなく、融資も下りなくなっています。
100%再生可能エネルギー化への弊害
ところで、いくら太陽光発電所を建設して発電する方が、既存の火力発電所を稼働し続けるよりも安いとはいっても、いきなり100%をそこに切り替えられないという事情があります。
次のようなニュースを見たことはないでしょうか?
『九州電力 元日から太陽光発電など一時停止も 過剰供給を抑制|NHKニュース』(2018年12月30日)
太陽光発電は、太陽が出ているときしか発電しません。 風力発電も、風があるときにしか発電しません。 電気というのは、バッテリーがないことには貯めておけないのです。 一方で、火力発電は(原発もそうですが)24時間動かしていないと、熱効率が悪くなり、採算が悪化します。 つまり、日中の発電量がどこにも使われずに捨てられていくのです。 しかしながら、捨てられた電力にも発電コストはかかっているので、電力会社からすれば、自ら運用している火力発電コストを捨てると大損になるので、外部の太陽光発電による電力を引き受けない方が特になるのです。
ここでの問題は、太陽光発電にバッテリーが付いていないことにあります。
もうひとつ、課題があります。
これは、次のニュースが物語っています。
「ドイツ、送電網 ロシアの天然ガス」
ドイツは、2050年までに80%の電源を再生可能エネルギーにすると宣言し、徐々に原子力・火力発電の電源を減らしつつ、北海に大規模な海上風力発電所を開設しましたが、結局ドイツ南部の工業地帯の電源を賄いきれず、ロシアから天然ガスの購入量を増やすことになりました。 これを解決するには、送電線網を全国的に再整備しないといけないとのことです。 これには時間もおカネもかかるので、当面は火力発電に頼らざるを得ないということです。
しかし、蓄電池も送電線網も、どちらも今後10年の間に劇的に改善すると思います。 その理由は、別の記事で書こうと思います。
結論
ここまで長いことつらつら書いてきましたが、結局、この記事で何が言いたかったのかというと・・・
電力は、今後10年で無料に近づいていくことの根拠のひとつを話したかったのです。
そして、世界のトレンドを知ることで、日本で起こっていることの裏事情を理解した上で、この情報を、日々の自分たちの生活にどう活かしていくかを、一緒に考えていきたいと思っています。
さて、電気代がほとんど無料になるとしたら、あなたの生活はどう変わるでしょうか?
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