前を歩いている女が

やけにぎこちなく歩く

きしきしと音を立てながら

電気か何かで動いているようだ

まるで機械みたいに


後ろ姿をぼんやりと眺めながら

あと百年も経ってしまえば

機械と人間の違いすらも

僕らにはわからなくなるんだろう

それさえ興味のきっと外側で

古ぼけたこの眼鏡から

世界を覗くのだろう


女が道を曲がるとき

ふいに見えた横顔には

黒い液晶が張り付いていて

ぎこちない動きのわけがわかった

まるごと機械と何か

違いがあったのだろうか

どうせすれ違ってしまうのなら


それとほぼ同時に

耳に流れ込んでくる悲しげな音楽が

僕も全く同じだと告げて去った

イヤホンで仮想の耳を持ち

眼鏡で仮想の目を持ち

衣服は仮想の皮膚だ

なんてことだ

僕ですら文明に包まれている


自分の国でしか使えない

特別すぎる兵器で

今日もミサイルをうち放ち

正義のじゃんけんを繰り返している

罪なのは

そんな全てに気づいていながら

駄目だ駄目だと罵って

結局別物の正義を押し付けるだけ

鏡みたいに等しいいたちごっこだ

しかしそれしか僕らにはできない

生き物の枠を超えることなどできない

神を呪えば気でも済むのか


君と僕が違うことを受け入れられない割には

やっていることはほとんど同じで

象が見たら笑うだろう

大きくなればよかったのにと


きっと文明は

僕らの制御装置なのだろう

平和を愛して止まぬがゆえに

戦争を愛して止まぬ僕らが

矛盾を知り破綻を知り無常を知り

その先の何かを知り

奥底まで沈み込まぬように

制御しているのだろう


だから僕の眼鏡は

僕が本当に見てはいけないものを

隠すためについているのだとすれば

あの女が機械に見えたのも

本当のことを隠すためなのだな


その後ろ側には想像もつかぬ

恐ろしいことが用意されていて

それに触れてしまわぬように

女はぎこちなく歩いたのだよな

そうなのだよな

そうなのだよな、、

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