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同志へ~シン・フリースクール概要

 新しい運営体制のために、「同志を集める」という話を綴った前回。実際に少しずつ同志が集まりつつある今、これから実際の運営に必要な「共通理解」をどう作っていくかを考えている。「同志に的確に説明するため」でもあるし、「自分自身の思考の整理のため」でもあるが、4月からのシン・フリースクールについて書きまとめてみる。

理念

子育てを親だけの責任にしない

 私がここで創りあげたいのは「地域教育の大成功例」である。ここでいう「地域教育」という言葉、インターネット検索で探す範囲ではあまりはっきりとした定義が存在しない。「郷土愛を育む教育」という意味合いで使われることもあるらしい。でも、私は「子どもを育てるという行為において、その主たる参画者は保護者であるに違いないが、保護者に任せきりにするのではなく、地域の大人が一丸となって地域の子どもを育てようとする態度や実践力をもち、全員が何らかの形で子育てに参画している状態」という意味でこの言葉を使いたいと思っている。この状態を作りだすことを、シン・フリースクールの目標にしたい。
 精神的な状況が芳しくない子ども、学校内外のトラブルの渦中にいることが多い子どもの近くには、大抵の場合「疲弊した保護者」がいる。疲弊の原因は様々だ。保護者の仕事・経済状況や家庭の状況から心の余裕がない場合もある。子ども自身に育てにくさを感じる特徴がある場合もある。どんな場合でも「子どもは親が育てるべきだ」という世間が押し付けてくる「べき」がなくなれば、いくぶんか楽になるに違いないだろう。そういう「べき」から解放されて表情が和らいだ保護者との関わりが、子どもにプラスの影響を与えるのは言うまでもない。
 子どもは地域の宝だ。これには多くの方が賛成してくれる。ただ、これに同意する多くの市民も、具体的な行動は起こしていない。起こし方が分からないというのが正しいだろう。私はこのシン・フリースクールは「行動の起こし方の好例」となると考える。何かしたいけど何をしたらいいか分からなかった「気のいい大人たち」によい提案ができると信じている。

子育てに必要なのは「よい乱雑さ」

 地域教育を成功させたい。地域で子育てする最高の場所を創りたい。そして、それは多くの「気のいい大人」が集う場所であるはずだ。
 そんなことを常に頭に置いて日々過ごしていたところ、やはり必要なものはアンテナに引っかかってくるもので、自分のそんな仮説(というか想像?)に対するほしかった答えを提供している情報を見つけた。
 教育学者のアリソン・ゴプニック氏は、著書『思いどおりになんて育たない』(森北出版/2019)の中で、子どもが育つためのよい環境を表して「よい乱雑さ」という言葉を使用している。親とだけの関わりよりも、多くの多様な大人との関わり。完全に整った環境よりも、安全が保障された上での雑多なものがある環境。子どもが乱雑な中で色々なものに触れ、色々な価値観を感じながら探究することが、社会などの秩序の中での知識や技能の利用につながるからである。
 「子どもと大切にする」ことを「秩序を準備してやる」ことと捉えている保護者が多いと感じるが、上記の逆で「先に秩序がある」状態では、探究するものを選択する機会も、実際に探究する機会も失わせていることになる。できるだけ多くのものの中から自分の興味に合わせて選択し、自由に取り組んだり関わったりすることを許容する環境で、子育てができるようにしたい。「よい乱雑さ」を創ることが、地域教育の拠点として求められることと定めた。

生きていくための「言葉」と「主体性」

 既に岐阜にはいくつかのフリースクールがあり、ありがたいことにその一部団体と交流がある。どの団体にも、上記の「よい乱雑さ」があり、子どもに与える自由の幅が大きく、私が考えていることと同じようなものを大切にしていると感じることがほとんどだ。だとしたら、次に考えなければいけないのは、「ことのはの独自性」である。
 私が「子どもの自立」を目指す教育活動において、重要視していることは「言葉」と「主体性」だ。言葉という「スキル」と主体的に学ぼうとする「マインドセット」があれば、どんな子もどんな場所でもどのようにでも生きていけると信じている。「学校を建てる」という大きな夢をもちつつも、まずは地域の方にその大切さを知ってほしいと考えたために、「絵本専門店兼探究型学習塾」を始めたのだ。
 だから、みんなの学び舎ことのはが提供する「よい乱雑さ」は、やはり本によって生み出されるとよいと考えた。およそ読み切れない量の書籍の中から、興味のある本を選び出して、思い切り楽しむことができる空間を創りたい。

具体

私設図書館

 1つ目のことのはの新機能は、図書館である。ただの図書館ではなく、市民で一緒に創りあげていく私設図書館だ。昨年テレビで特集されていた、静岡県焼津市の「みんなの図書館ネットワーク」「さんかく」の事例を見た時の「これだ!」感を忘れずに、視察に行ったり近隣の施設を訪ねたりして、ことのはの機能としてこれを実装するアイディアを温めてきた。
 「みんとしょ」は全国各地にそのネットワークを広げており、街づくり地域づくりの一助として大いに期待されている仕組みを提案してくれている。 
 地域の本好きに集まってもらい、店の本棚を借りてもらう。本棚に自分が好きな本を自由に詰めてもらう。それを他の誰かが借りて読む。返す時に貸してくれた誰かに一言メッセージを添えてコミュニケーションを生み出す。本好きが次の本好きを呼び、こうした本好きが心を通わせ、心から楽しめる場所を創る。
 これにより、子どもにとっての「多様な本であふれるよい乱雑さ」も生み出せる。そして、これは持論だが、本好きはきっとことのはが求める「気のいい大人」に該当するだろう。

間借りスペース

 現在、多くの子どもは「大人になりたくない」「働きたくない」と考えるのだそうだ。世の中にあふれる様々な情報がそうされるのかもしれないが、少なくとも子ども自身の近くに楽しく生き生きと働いている大人がいたら、そんな風に思わないのではないかとも考えている。
 ことのはは12月から2階スペースが使えるようになり、「わいわいできる環境」と「静かに過ごせる環境」の多様性を手に入れることができた。この「わいわいできる1階」で、色々な大人が楽しく働いていて、その姿を子どもに見せていきたいと思う。そこで生み出したい2つ目の新機能は、間借りスペース。つまり、そこで何かしらのビジネスやイベント企画を実際にやってもらい、大人がめちゃくちゃ楽しんでしまおうと思っている。

「気のいい大人」はどんな場所に集まるか

 場所の「魅力」は何で決まるのか。多くの人が魅力的だと感じる東京ディズニーリゾートで言えば、その魅力はアトラクションや関連ホテルなどの「ハード」だけでない。よく言われることだが、そこで働く人々の行き届いたホスピタリティの素晴らしさは魅力的だ。つまり「ソフト」も非常に重要である。だから、私はことのはを地域教育の拠点として魅力ある場所にするために、「気のいい大人」というキーワードをもってソフトも充実させたいと考える。
 どうしたら「気のいい大人」は見つかるか。私が現在思い描けている「気のいい大人」像がとても抽象的なのだが、言語化してみると以下のようになった。
 「知に惹かれる大人」「学びたがる大人」「面白がれる大人」「行動する大人」「不満はないが満足もしない大人」
 上に挙げた、2つの新しい機能は、こんな「気のいい大人」が参画したくなる仕組みにもなるはずだ。ことのはは色々な機能を備えた教育施設であり、地域教育の拠点を目指していくのだが、その様相は一つの「村」みたいだといいなと思っている。「知の村づくり」を一緒にやりたいと思える「気のいい大人」が自主的に集まって、そこで主体的に参画してもらえたら、きっと素敵な場所になる。
 多くの方に集まってもらうために、まずは自分が一番「気のいい大人」にならねばならぬという自戒を込めて書いておく。

だから私は「同志」と呼ぶ

 現在の学校教育問題の根幹に、子どもの意識の問題があると思う。学校で得られる情報や知識がほとんど全てだった時代と比べ、今の子どもたちには実は学校に行く必然性を見出すのは難しい。そういう子どもからすると、学校は色々な活動を「やらされている」場所になる。そして、学校ではいつも大人の人数が足りず、大人数を指導していくために手法は画一的なものとなり、選択の幅がなく主体性を発揮できるチャンスが乏しい。主体性が伴わない勉強は学びにならない。この病理の根は深い。長いリハビリ期間とそれに最適な場所を子どもたちに用意してやらねばならない。
 そのための千里の道の一歩目は、「関わる大人が主体的である」ということだ。その姿勢を常に子どもの目にうつすことが、はじめの環境づくりとなる。だから、私は一緒に働いてくださる方を「従業員」「アルバイト」「お手伝いさん」とは捉えない。主体的に村づくりに関わってください「同志」である。理念を創り発案したのは私だが、「同志」それぞれが私の考えを解釈して自ら行動してもらえたらと思う。縦の関係でなく、横の関係で一緒に創るのが素敵な村なんじゃないかと思う。

 この度、同志として集まってくださった皆さん。本当にありがとうございます。皆さんとの出会いに感謝です。一緒に素晴らしい場所を創りあげましょう。よろしくお願いします。
 この文章を最後まで読んでくださったビジターの皆さん。興味をもってくださりありがとうございます。同志として参画したいと思っていただけたら、ぜひ連絡ください。
 環境を利用したい訪れたいと思ってくださった皆さん、興味をもってもらえた段階できっとあなたには「気のいい大人」の素養があります。ぜひ一度お越しください。そして、本を介したコミュニケーションや得意を生かしたスモールビジネスなど、思い切り楽しんでください。

 さあ、同志の皆さん。横並びで、自ら思い切り楽しんで、はりきっていきましょう。「知の村づくり」「シン・フリースクール」出発です。




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