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ミジカムジカ1「古典とコンテ」プログラム原稿(2019年2月)

古典とコンテ~ベートーヴェンとモーツァルトで踊る 
2019年2月17日(日)14:00・17:00開演
西宮市民会館503室
ダンス:…1〔アマリイチ〕斉藤綾子・益田さち
ピアノ:和田悠加

1.エリーゼのために ver.1 (ベートーヴェン Für Elise 1810)
2.エリーゼのために ver.2
3.トルコ行進曲 (ベートーヴェン Marcia alla turca 1812 劇付随音楽『アテネの廃墟』Die Ruinen von Athenの第4曲、行進曲)
4.【うちそと】ピアノ・ソナタ第13番 作品27-1 「幻想曲風ソナタ」
(ベートーヴェン Sonata quasi una Fantasia 1802)
5.トルコ行進曲 (モーツァルト ピアノソナタ第11番第3楽章 Klaviersonate 1783?)
6.【アマリイチ】きらきら星変奏曲 (モーツァルト 12 Variationen über ein französisches Lied "Ah, vous dirai-je, maman" フランスの歌曲「ああ、お母さん、あなたに申しましょう」による12の変奏曲 1778)
7.ピアノ・ソナタ第8番「悲愴」第2楽章(ベートーヴェン Grande Sonate pathétique 1799)

【トルコ行進曲について】
 モーツァルトが「トルコ行進曲」と呼ばれる楽章を含んだピアノ・ソナタを作曲したといわれる1783年からちょうど100年前、トルコのオスマン帝国軍によるウィーン包囲が行なわれました。オスマン帝国は、一時期ハンガリーまで領土を拡張し、トルコ趣味(テュルクリTurquerie)という現象が起き、アラビアンナイト(千夜一夜物語)やトルコ行進曲、トルココーヒーなどが流行したとされています。
 トルコ行進曲というのは、オスマン帝国の軍楽隊によるメフテルMehterに影響を受け、そのリズムを用いて作られた2拍子の音楽です。メフテルは、リズムでは●_●_●●●_という勇壮な拍子を特徴としています。下の楽譜はモーツァルトのトルコ行進曲の一部ですが、低音部(下段のヘ音記号のほう)の「>」というアクセントのついた部分だけをたどっていただくと、そのリズムの強さがおわかりいただけると思います。
 ウィーン包囲の失敗に始まるオスマン帝国の衰退と共に、このテュルクリは当のウィーンを中心に、大流行したといわれています。強大なオスマンに対する恐れと憧れの入り混じった感情から、恐れが拭い去られ、単なるエキゾチシズム~好奇心、美的な憧れへと変質していったのではないでしょうか。もともとの軍楽隊によるメフテルが、打楽器(大太鼓やシンバル)やズルナ(オーボエの祖とされ、チャルメラのようなけたたましい木管楽器。伊藤信宏『東欧音楽綺譚』に「ズルナの表象」という興味深い一章がある)による大音量を響かせ、戦闘を直接的にイメージさせたのに対し、その強拍のリズムだけが残り、ピアノ曲になったのが、今日お送りする2つのトルコ行進曲だといっていいでしょう。
 ベートーヴェンの「トルコ行進曲」は、元は管弦楽曲。トライアングルの響きが印象的で、時折ヴァイオリンが高音で滑るような効果音的な音を入れているのが耳に残ります。モーツァルトでもそうですが、強拍に盛り上げるような装飾音(楽譜では小さな音譜で表されている)が入るのも、軍楽をイメージしているものと思われます。

【幻想曲について】
  ベートーヴェンのピアノ・ソナタ第13番は、あまり知られていません。同時に出版された第14番「月光ソナタ」とは対照的です。標題と物語がつけば、有名になるのだな、と思わないでもありません。幻想曲(ファンタジア)とは、時代によって定義がずいぶん違う、なかなか厄介なジャンルです。この曲については、ソナタ形式をもっと自由かつ柔軟にして、想像力のおもむくまま「幻想的」に展開した作品、と言っていいのではないかと思われます。
 「ソナタ形式」とは、ポップスの用語でいえば、イントロ、<Aメロ、Bメロ>、<サビa、サビb、Gtソロ>、<Aメロ’、Bメロ’>、エンディング、みたいな感じの形式かな、と思っています。本来、Bメロは5度上の調とか、細かい決まりがあるようですが、大きく言えば、A-B-A'の三部形式でいろいろとヴァリエーションがあるものだとしていいでしょう。
 この13番でベートーヴェンはA-B-A'はほぼ踏襲しながらも、様々な点でソナタ形式を取り払って作曲しています。Wikipediaによれば、「ソナタ形式の楽章がひとつも置かれておらず、さらに全ての楽章を切れ目なしに演奏するよう指示されて」いるようです。本日も切れ目なしに演奏します。通して聴くとテンポの変化が激しく、親しみやすいメロディも多い、愛されやすい曲ではないかと思います。

【きらきら星について】
  曲目リストで「あれっ?」と思われたかもしれませんが、モーツァルトの「きらきら星変奏曲」、元はそんな題名ではありませんでした。18世紀末のフランスで流行していた恋の歌の旋律をもとに展開しています。このメロディが後に童謡「きらきら星」として知られるようになったのです。モーツァルトの死後、1806年にイギリスの詩人が"Twinkle, twinkle, little star"(きらめく小さなお星さま)と作詞し、マザーグースにも入り、今に至っているようです。
 ちなみにフランス語の原詩は、「ねえ、お母さん、私が悩んでいるのは彼と出会ったからなのよ。私、彼にすっかり夢中で、彼の腕に飛び込んじゃった…これまでの私は仕事と犬だけが頼りで生きてきたのに、もうそんなもの、いらないわ。人を恋するって、こんなに甘い気持ちになるものなのね」というような、誠に他愛もない内容の歌でした。洋の東西を問わず、お父さんにはこんな相談、決してしないのでしょうね。
 日本語訳は複数あるようですが、参考までに、一般的ではないほう、村野四郎という詩人の訳を。

あちらの空で きらきら光る 日ぐれの星よ 何見ているの やさしい星よ きれいな星よ
日ぐれの空で きらきら光る お家へかえる 小鳥のために 遠くでひとり きらきら光る

 この曲は主題と12の変奏からなっています。テンポや拍子の変化、長調から短調、音の間を半音階でつなぐ、アルペジオに分散する、静かになる、等の様々なヴァリエーションを聴くことができます。

【エリーゼについて】
 ベートーヴェンは悪筆だったので、自筆原稿の献呈者が長年誤読され、どうも本当は「テレーゼ(The-rese)のために」というタイトルだった、と言われています。最近別の説も出てきたようです。それにしても、もし本当はテレーゼだったとしたら、昌子と晶子を間違えるみたいな、なんとも不思議な話です。
 この曲は、ロンド形式Rondoformであるとされています。輪舞曲などと訳され、古典的な舞曲の形式の一つです。A-B-A-C-B-Aという感じで、主題Aに何度も回帰してくるため、回想、思い出、といったロマンティックなテーマを扱うのに適しているのではないでしょうか。


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