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メタルとLGBTQ

 昨今のLGBTQムーブメントの高まりを受けて音楽はどうやってセクシャルマイノリティを描くのか、といった関心は欧米を中心に高まっている。ヘヴィメタルでもヘヴィメタルは本当に「同性愛嫌い(ホモフォビア)」が蔓延しているカルチャーなのか、を検証する記事やLGBTQのミュージシャンを紹介する記事がある。が、日本ではLGBTQとメタルの繋がりはあまり注目されていないんじゃないか、いう肌感を自分は感じる。
今回は私が見つけたLGBTQなヘヴィメタルバンドを淡々と紹介していく。


メタル界においてLGBTQをカミングアウトした人物としてはブラックメタル・バンドLiturgyのフロントマン、Hunter Hunt Hendrixがいる。Hendrixは2020年5月にトランス女性(※MtF, 男性から女性にトランスする人)であることをカミングアウトした。

I am Woman, I've always been one. The love I have to give is woman's love, if only because it is mine. (私は女性で、常にそうだった。私が伝えなきゃいけない愛は女性の愛。それは単に私自身が持っているものだから。)

The music and ideas I compose come from a female heart, whatever that means, and I don't want to partially distort the transmission through an 'effeminate male' mask any longer.... (音楽と作曲のアイデアは、それが何を意味しているにせよ、女性的な心から来ているんだ。私はこれ以上「女々しい男」の仮面を通して作品をゆがめて伝えることをしたくないんだ。)


またLife of Agonyのフロントマン、Mina Caputoも2009年にトランス女性であることをカムアウトしている。(現在は性別適合手術を受け女性として活動中)


他にもKing's Xのダグ・ピニック(Doug Pinnick)は1998年という早いタイミングで自らがゲイであることをカムアウトしている。


女性ヘヴィメタル・シンガーのオテップ・シャマヤ(Otep Shamaya)もレズビアンとして有名である。


またゴルゴロス(Gorgoroth)の元フロントマンGaahlも2008年にゲイをカミングアウトし、ノルウェーのイベント"Bergen Gay Galla"でその年もっともゲイ・コミュニティに貢献し勇気づけた人物に送られる賞、「ホモセクシュアル・オブ・ザ・イヤー」を受賞した。しかしこれは非常に衝撃的な出来事であった。なぜならブラックメタルというメタルの中でも特殊なコミュニティであることに加え、ゴルゴロス自身もヒトラーへの信望を語り、ブラックメタルのバンドによるキリスト教教会の放火を支持していた人物だったからだ(ネオナチ的思想とゲイのアイデンティティとどう折り合いをつけたのかは謎である)。

他にもFaith No Moreキーボーディスト、Roddy Bottumもゲイをカミングアウトしており、Be Aggressiveという曲は男性同士の性行為を描いた作品として知られている。

https://youtu.be/m3M6q4w7wO0?si=vs3G7MkkEpqGOyLy

もちろん代表的な人物としてロブ・ハルフォードは忘れてはいけない。メタルとLGBTQの話をする時には最重要人物と言える(後続のLGBTQヘヴィメタルミュージシャンのカムアウトに多大な影響を与え、彼らにとっても「神」的存在である)。自伝を読めばわかる通りロブはずっと自分のセクシュアリティをメタルのカルチャーの中で隠さなくてはいけないと考えていた。しかしファンから大きな反発が来ることはなく、周囲も自然に受け入れたようである(これはロブのセクシュアリティがゲイであることをファン含めうっすらみんな気づいていたからだと思う)。


ロブは1998年にMTVのインタビューでカムアウトしたが、そこではメタル界がいかに(LGBTQに対して)寛容であったかの気づきを語っている。

The most tolerant, the most open-minded, the most loving, the most accepting of all the kind music that we know in rock'n'roll. (メタルのコミュニティは)最も寛容で、最も心が開かれていて、最も愛しくて、俺たちがロックンロールだと思うあらゆる音楽を受け入れてくれるんだ。

ヘヴィメタルは「男らしさ」と強く結びつくため、外から見ると「ホモ嫌い」な音楽文化に見える。残念なことに、実際そう言った主張をするミュージシャンもいた。(例えば1989年12月セバスチャン・バックが「AIDS kills fags dead(エイズはおかまどもを死に追いやる)※fagsはゲイを示す差別語」というTシャツを着用した事件やGun N' Rosesの’One in a Million’の「移民もおかま(Faggots:ゲイへの差別語)も俺には理解できないね」という歌詞など)

だがヘヴィメタルの「反抗」と「怒り」は社会で迫害されがちなLGBTQの心性と共鳴する。実際にヘヴィメタルのコミュニティやバンドが積極的にLGBTQを支援することは、特に近年は珍しいことではない。例えばLGBTQをファンベースで支援するヘヴィメタルのコミュニティとして、1990年代後半にシカゴで設立されたGay Metal Societyという団体を例にあげることができる。彼らはファンジンの発行を通してLGBTQメタラーと連帯してきた。

LGBTQ支援の姿勢を見せるバンドとしてはRammsteinが有名である。彼らの作品Man Gegen Manなどは非常に露骨な形でゲイを描いているうえに、ロシアの反LGBT法に抗議してステージ上でキスをするパフォーマンスを行うなどの演出からLGBTQ当事者に人気の高いバンドである。

こちらもドイツのバンドだが、Load Of The Lostというバンドは「ドラアグ・クイーン」の世界観とヘヴィメタルを組み合わせた珍しいバンドである。MVでもゲイの姿がはっきりと描かれ、2022年のアルバムBlood & GlitterではLGBTQに対する政治的な主張が織り交ぜられている。

また彼らの2023年リリースのカバーアルバムWeapons Of Mass SeductionはLGBTQをカムアウトしたポップミュージシャンの曲(Pet Shop Boys、Bronski Beat)や、当事者に人気のLGBTQアンセム( Lady GaGa、Manowarなどの曲)のヘヴィメタルカバーが詰まっており、まさにLGBTQメタルを体現した一枚となっている。

作品ベースでもLGBTQを歌った作品はいくつかあり、アメリカのデスメタルバンド、Cattle DecapitationのForced Gender Reassignmentという曲は「自身の性自認に沿わない身体で生活することを強制されること」がテーマになっている。この曲はトランスジェンダーのコミュニティへの連帯と共感を示す作品として評価されている。

他にもGhostやAvatarなど中性的かつファッショナブルな世界観で若いLGBTQのメタルファンの人気を集めるバンドは多数存在する(また、バンドメンバーも個人的にSNS等でLGBTQコミュニティ支援の姿勢を見せている)。


以上、淡々と紹介したが、ヘヴィメタルとLGBTQは意外にも親和性があり、カムアウトするミュージシャンも少なくはない。近年ポップミュージックの世界ではLGBTQの可視化が進んでいるが、ヘヴィメタルもクィアの視点から語られることが増えて欲しいと強く思っている。

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