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映画『夜明けのすべて』&2/10舞台挨拶感想

じんわりと鑑賞後の余韻を噛み締めたい映画。
心がほぐれて、あたたかい。

2/10(土)12:30の舞台挨拶は、演者の皆さんの語る「好きなシーン」や三宅監督の想いなど、盛りだくさんの内容であった。
その中から、特に琴線に触れた話を交えながら映画の感想を書いてみる。

〈ご注意〉
舞台挨拶の内容はうろ覚え、かつ筆者の主観入りまくりなので正確なレポートではありません。

※映画のキャストやあらすじはこちらから

北斗と山添くん

舞台挨拶で、北斗が挙げた山添くんとの共通点は「自分ではそう思ってないのに、外側の自分だけを見られて勘違いされるような言動をとること」だった。
説明する言葉数の多さにうまく言い表せない心の揺れがあり、偽りのない本音なのだと伝わってきた。

山添くんのトゲのある言葉は、単に「相手のことが苦手だから」という感情からくるものだとは言い切れない。
勘違いされるような言葉が表出するまでの、彼の日常を描いたプロセスを知ることで、その不器用さを愛せるのだと感じた。

当たり前だけど、他人には見えないところでもその人は生きている。山添くんの日常から地続きの言葉は、時に周りを傷つけてしまう。そんなところが北斗自身の経験と重なるのかもしれない。
「夜明けのすべて」に関するインタビュー記事でも、下記のように語っていた。

周囲に対して、一方的に壁を作ってしまった時も、グループのメンバーに救われたことがあって。気が合うから集まったメンバーではないからこそ、難しい時期もあり。メンバーからすれば仕事仲間だから当然の行動であったのかもしれないが、救われた自分にとって相手の行動の理由は関係ない。
あの時の自分は確実に救われたのだ。

参照元:Cinema★Cinema ワン・パブリッシング
2024年2月号 p.11

自分に対して壁を作っている相手のことも受け入れて行動できるメンバーも、そのことに気がついていて感謝できる北斗も、どちらも人として美しい。
相手との関係性に関わらず、自分が受けた優しさを大切にできる人だからこそ山添くんを表現できるのだと思った。

この街で生きる人々

キャラクターの人生や性格などをまとめた『キャラクターブック』なるものを、監督やスタッフさんが用意していたそう。
緻密に作られたそれは「本当に素晴らしいもの」だと北斗が熱弁していた。

数分しか出演しない役所のキャラクターにも、他の登場人物と同じだけの情報量が詰まっているらしいのだが、映画を観てその意味がよくわかった。
わずかな登場シーンなのに、その人物のキャラクターや優しさが垣間見える描写なのだ。
「今は藤沢さんと山添くんの物語に着目しているけれど、あの人の物語はどんな感じだろう。」と想像を膨らませられる程に"脇役"まで輝いていた。
主人公たちを軸に物語は展開されていくけれど、周囲にいる人の人生も感じられ、まるで自分もこの街に住んでいるかのよう。人々の暮らしを自然に映す映画の雰囲気がとても心地よい。

喫茶店、山、海、坂道、ビル、星空。
景色そのものが息づいていて、街を構成している。人間の営みとは無関係に移りゆく自然の描写に、なぜか涙が出そうになった。

自分が泣いていても、笑っていても
夜はやってくるし、必ず夜明けを迎える。

家族のことと映画の余白

舞台挨拶で、"藤沢さん親子"と、"山添くんと栗田さん"の2組同士の関係が「温かくて好き」だと語っていた萌音ちゃん。
しかし、劇中ではそれぞれの家族構成や生い立ちなどは語られない。
「あえて説明をしていないのはなんでですか?」と監督に質問を投げた。
監督は「俳優の皆さんも、説明されない部分を想像しながらその人物になり切って演じてくれている。映画って想像力が大切。この映画を見た人も想像したいはず。想像したい人に"この人たちはこういう人生を歩んでいて、こういう関係ですよ"って説明する必要あります?」と回答した。

それぞれが抱えてきたものを説明しすぎないからこそ、観客に委ねられる余白がしっかりと感じられ、描かれる優しさを押しつけがましいと感じないのだと思った。

誰かの「夜」を想像すること

「この映画を無理に思い出さなくていいです。(観た後に何か行動を起こさないといけないわけじゃない、というニュアンスを感じた。)でも、ふとした瞬間に思い出してもらえたら。」
そう、締めの挨拶で語った北斗の言葉を反芻して。

電車の中で、眠る前の布団の中で。
1人の時間に「夜明けのすべて」の街に住む人々の優しさを思い出す。
自分の生きづらさと向き合ったり、苦手な相手の生きづらさを想像したり。
皆の「生きづらさ」を考えることに意味があるんじゃないか。
そんな希望的観測ができる力を、この映画にもらった。

自分もどこかで、"山添くんにとっての藤沢さん"のような、"藤沢さんにとっての山添くん"のような、誰かの支えになれる存在でありたい。そして、自分の生きづらさを支えてくれる誰かに出会いたいとも思う。

8mmフィルムの柔らかな光、登場人物たちの心に寄り添うような優しい音楽、そこかしこに愛を感じて、不思議な没入感を味わった。

これを書くまでに2回観て、2回とも感じるものがあった。
また何度でも観たいと思うし、本当にこの作品に出会えて良かった。

もっと多くの人の心に届きますように。
届いた人の明日が少しでも楽になりますように。

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