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経営者の子育て

今回の記事は、普段と変わり、夫の私が書いた。先に自己紹介しておくと、私は教育系の会社を経営しており、社員や講師を80名ほど抱えている。経営者は大半がそうだと思うが、お金の出所には厳しい。要するにケチなのである。それ以外にも、よくある男性が持っているであろう、こんな欲望を持っている。

1.子どもは2人、できれば3人欲しい。将来は家族団欒で食事する、温かい家庭を築きたい。
2.子どもはほしいけど自分で育児はしたくない。うんこがついたオムツを替えるのも、臭いからやだ。育児は妻や親に押し付けたい。
3. 都合の良い時だけ子どもを可愛がりたい。
4. 妻には引き続き働いて欲しい。専業主婦はもってのほかだ。ただ、家事もして欲しい。
5.育児にできるだけお金をかけたくない。

今回の記事では、そんな私が、妻の出産と新生児育児の現実に直面したことで、どのように性根が叩き直され、改心させられたのかについて赤裸々に綴ろうと思う。

妊娠発覚後

私は、「子供ができた」と言われた時には、嬉しかった反面、「今後、自分も育児にある程度時間を取られそうだ。やることが増えそうだし、ちょっと不安だな…」と思っていた。というのも、それまでの人生、会社の経営に全力投球してきたからである。

私は創業してから6年間、ひたすらに会社の業績を上げるために土日も休みなく働いてきた。そのおかげで会社は軌道に乗り、お金の心配をしなくても良くなった。仕事をある程度社員に任せて自由な時間もできた。とはいえ、いくら時間とお金があっても、常に頭の中は会社のことを考えている。子供の世話をすることで、会社のことを考える時間が減ってしまうことに不安を感じた。

しかし、その後出産までの10ヶ月の間は、夫の私の日常にさほど変化はなかった。妻のお腹はどんどん大きくなっていったが、自分が子供を産むわけではないし、気分が悪くなっているのも自分ではないので、「大丈夫?」という言葉をかけることくらいしか、できることはない。

最初の方は、「子供もできるし、俺も家事とかをやろう!」と息まいて実践してみたが、これまで妻に丸投げしてきていたので、全くできない。妻の仕事を増やすのが関の山だった。結果、「私は家事にこだわりがあるから、私の言う通りに完璧にやるか、あるいは何もしないでほしい。」と叱られ、何もしないで毎日感謝の気持ちを伝える係に専念した。

強いていえば、たまに妻の好きなプールに連れて行ったり、美味しいレストランに連れて行ったり、重いものを積極的に持つようにしたり、お腹がでかすぎて靴下やタイツが履けなくなった時に履かせてあげた、くらいである。その他、妻の希望で他の人がよくやっているマタニティフォトを撮影した。また、妻の希望でできるだけ家にいるようにしたし、飲みに行く回数を減らしたりした。

そういう意味では、私がしていたのは「妻のことを心配しているけど、特になにもやらない・できない」という、上っ面kindnessの実践だったのかもしれない。当時は我が物顔で「俺はいい夫だ!飲みに行かずに早く帰ってきているんだから!」と思っていたけれども。


ベビーシッターを雇うことを頼まれる

そうこうしてお腹が大きくなってきたころ、突然妻が「出産後はベビーシッターを雇うから、あなたも半分お金出してね」と言ってきた。

よくわからないまま、「え?うん…」と答えると、「結婚前にその話、したでしょ」と言われた。たしかに、結婚前妻から「私は産休も育休も取るつもりはないから、子どもがほしいならベビーシッターを雇う必要がある。あなた、家に知らない人がいても平気?」と聞かれたので、全然平気だと答えた記憶がある。

「雇わない場合、どうなるの?」と聞くと、「なら私はあなたの仕事はもう手伝わないわよ。私の時間は1日24時間しかないから。」と言われた。私は会社経営をしていたが、そのうちの仕事の一部を妻に手伝ってもらっていたので、これは困った事態である。とはいえ、1日は24時間しかない。妻の言っていることはもっともだった。

結局、妻に手伝ってもらわないと困る部分が多かったし、家事もやってもらわないといけなかったため、ベビーシッターを雇うことを了承した。問題はその金額である。月あたり40万円かかるとのことだった。

「え〜!?チビの面倒を見るのに毎月こんなにかかるの!?」と思ったので、内訳を聞いてみたら、次のような計算式が返ってきた。

時給2500円×8時間×週5日×4週間=40万円/月

なお、これは昼に8時間見てもらう前提であり、その間に妻は仕事をするというプランだった。妻は大学教員としてのキャリアや、外部の仕事も続けたがっていたし、私の仕事も手伝ってもらっていたので、「まあ保育園に入るまでは仕方ないか…」と思っていた。ただ、近くの無認可保育園には生後3ヶ月経てば入れることがわかっていたので、シッターさんの代金は40万×3ヶ月=120万の出費で、そのあとは月額15万円の保育園に入れるわけなので、一時的な特別損失として捉えるしかないな、と思った。

とはいえ、保育園に入ってから小学校に入るまで、もし認可保育園に入れなかったら毎月ずっと15万かかるわけだから、子どもって本当に金食い虫だな、というのが率直な感想。この先々、ずっと子育てに金がかかっていくことを考えるとなんだかなあ、とも思っていた。

ただ、こういった時には先にかかる教育費を計算してみるに限る。遅くとも子どもが小学校に入る頃にはシッターさんの出費はなくなるわけで、10歳からの中学受験時に200万ほど、そしてその後、中高一貫の私立に入れば毎年100万が6年かかり、大学受験でプラス100万。そして私立大学に4年間行けば400万。結局、22歳で大学卒業するまでに、12年間で1300万かかるわけだから、平均すると1年間で108万円、月平均にならすと9万円である。もちろん、これにプラスして食費や習い事が追加される可能性があるが、それでもせいぜい11万円程度だ。そう考えると、今のシッター代金が最も高額であり、今後費用は漸減していくことがわけなので、先の不安はなくなった。

また、同時に妻の生涯賃金についても計算した。以下の記事にある通り、今シッターさんに120万を払って妻の退職を防止できれば、最低でも2億円が手に入ることになる。

加えて、妻は一般的な女性よりも収入が高いので、我が家の場合は2億円より多くの所得が入ってくるわけだし、逆に子供にかかる費用はどんどん減っていくわけなので、それに比べたら目先の120万円なんてたいしたことないと思った。そんなこんなで、シッターさんにお金を払うことを私は了承したわけである。

ちなみに、新生児に対応できるシッターさんはほとんどいないこと、これだけたくさんの時間入ってくれるシッターさんも少ないこと、見つかったとしても時給3500円以上が相場であり、40万円は破格の安さだったのだ、ということに後から気づくことになる。

出産後、計画が狂う

出産はコロナ禍だったため、立ち合い出産も、産前産後の面会もできない中で行われた。自分で産んでいるわけではないので感覚はわからなかったが、死ぬほど痛かったらしい。お疲れ様です、としか言いようがない。しかし、生まれた3日後の夜に、妻が泣きながら電話をかけてきた。電話に出てみると、だいぶ取り乱しているようで、これはさすがにやばいと感じた。何がやばかったのか、というと、次の4点である。

1.昨夜初めて母子同室、といって、夜通し子どもと一緒の部屋で過ごしたが、子どもが夜中でも30分おきに泣き出すため、きちんとした睡眠がとれていない
2.母乳を飲ませても子どもがうまく飲めず、乳首マッサージをしても母乳がなかなか出ないため、胸がパンパンに張って痛い
3.助産師や看護師の方のようにうまく赤ん坊の世話ができず、母親として今後やっていける気がしない
4.とにかく子どもの泣き声がうるさくて全くかわいいと思えない。赤ちゃんポストとかどこでもいいからどこか施設に預けたい。子どもはなかったことにしてあなたと2人で暮らしたい

話している内容からして、「これは産後うつだ」と思った。今妻は、出口のないトンネルをさまよっている段階であり、このままにしておくと危ないと悟る。そして、これまでに自分たちが画策していた計画が実現不可能であることを妻から突きつけられた。

というのも、赤ん坊が夜に泣き叫ぶせいで我々が寝られないのであれば、昼の8時間にシッターさんに入ってもらっても、睡眠不足で仕事に集中などできないからである。集中できなければ、今の生活も壊れかねない。そこで、かねてより予約していたシッターさんに追加で夜も6時間入ってもらうことにし、頻度も週5から週7に引き上げた。深夜料金で割り増し賃金のため、結果的に1ヶ月あたり約90万円の出費となることがわかった。また、昼+夜の重労働だと1人では回せないため、シッターさんは8人に増えた。とはいえ、先々で子どもにかかる金額はどんどん減っていくのだから、3ヶ月で270万の支払いがあっても仕方ないと考えるに至った。

自分は家事も育児もできないわけだし、逆にできることはといえば「金を出すこと」以外にはない。妻の取り乱し方があまりにもやばかったので、追加の必要経費だと思って金を出すことにした。これは経営者の感覚的には、2月末までに完成する予定だったシステム開発の工数見積もりが甘く、このままでは完成しないために、プラスで3人分の工数が追加されるのに近しかった。

ちなみに、このことを自身の母親に話したら、「それは育児放棄よ!親として問題がある!」と言われた。なんだかんだシッターさんに入ってもらうのは一日14時間なので、1日10時間は自分たちで子どもの面倒をみることになっているにも関わらず、それで育児放棄と言われるのは心外だった。とはいえ、「じゃあ母さんが面倒みる?」と逆に質問したら、「それはちょっと…」という回答。結局、「面倒見てくれない上に金も出してくれないなら、せめて口は出さないでくれ」ということで事なきを得た。

ちなみにそれ以来、私は母に誕生日や記念日のたびに国内旅行をプレゼントしており、「次はエクシブを買って!」とせがんでくるくらいであるので、別に親子の関係が悪化したわけではないことを付け加えておく。

家に爆弾が投下され、事態の重さを実感する

さて、270万近くの支払いが今後発生することを認識した時、「そんなにお金かかるなら、2人目はやめておこうかなあ…」と薄々感じ始めた。とはいえ、「やっぱり兄弟がいないと話し相手がいないからかわいそうだなあ」とも思うし、私も妻も2人兄弟なので、なんだかんだ2人目はつくることになるんだろうな、と思っていた。

しかし、いざ産後5日後に妻が退院し、子どもを連れて帰宅すると、「いや、2人目とか不可能だろ…」と思うようになった。一日中泣き叫ぶ爆弾が手に負えなかったからである。

「あれ~?おかしいなぁ、赤ちゃんは可愛くて目に入れても痛くない、と聞いていたんだがなぁ。全然笑わないからかわいくもないし、うるさい猿だぞ…」

これが、最初に抱いた率直な感想である。新生児は笑わないのが普通だということも知らなかった。とはいえ、私はかなり他人事でいた。というのも、昼間の時間はシッターさんがマンションのキッズルームで子どもを見てくれるため、家には私と妻だけで、お互い在宅で仕事をしている。シッターさんが昼のシフトを終える17時頃になったら、徒歩圏内にある会社に出かけて仕事をして、帰宅する頃には夜のシッターさんが来てくれているので、私は子どもができる以前とほとんど同じライフスタイルを送っていた。


ババを押し付けたら妻がいつもイライラしだす

私が今まで通りの生活を送っている一方で、毎日帰宅すると妻の機嫌が悪くなっていった。そして、ある日私が「最近身体がなまってるなあ、これはテニスに行けてないからだわ。テニスに行っちゃダメっていうからさあ」という大失言をしたことで妻の怒りの爆弾が爆発した。「あなたは今まで通り仕事している。今まで通り家事もしてもらえて、家に帰ればごはんも出てくる。今まで通り社員との飲み会にも行っている。あなたが今まで通り暮らして仕事に集中できるのは私の時間が犠牲になっているからよ!私は自分の仕事をして、家事もやって、あなたの仕事も手伝って、育児もして、自分の時間なんて全然ないのに、テニスがしたい?!生後3ヶ月で保育園に入ったら行けるよって、言ったわよね?次テニスに行きたいって言ったら殺すわよ」と大激怒された。

「そんなにいうなら俺も育児やるよ」ということで、やってみることにした。

他の時間はシッターさんが入ってくれるため、我々夫婦のシフトは朝5時~9時と、夕方17時〜23時の合計10時間だったのだが、仕事の関係上、私は夕方にはいられなかったので、早朝の育児を買ってでた。知っての通り、教育業界の朝は遅いため、私は普段9時や10時頃に起きて、夜2時頃まで仕事をする生活を送っていたのだが、これが朝5時とか6時にチビが泣き叫ぶ声で起こされる生活に変貌するわけである。

クッソ眠い中で抱っこしながらミルクをあげ、「これで寝るだろう」と思って横たえても、すぐにまたギャーギャー泣き出す。子どもがちょっとでも寝てくれれば自分も寝られるのに、15秒経つごとにギャーギャー言い出して、抱っこしてゆらゆらしたら泣き止んで、また15秒したらギャーギャー言い出す、繰り返し。これをクッソ眠い中でやることになった。最後の方には「こいつうるせえな!黙れよ!」というイライラ感情がものすごく高まることになり、最終的に15分でドロップアウトした。自分では1時間くらい面倒見たつもりだったのだが、時計を見たら15分しか経っていなくて驚愕した。自分は育児というとんでもないババを妻に押し付けていたのだ、ということに気づかされた。

自分で育児をやってみて思ったことは、「自分は金を稼ぐのは得意でも、育児をするのは下手くそである」ということだ。私ではなくシッターさんがみると、すぐに寝るようになるし、子どもはほとんどの時間落ち着いていて、ギャーギャー泣き出さない。また、寝かしつけた後の睡眠時間も、自分が寝かしつけると30分くらいで起きるのに、シッターさんが寝かしつけると3時間くらい寝ていた。

これらのことから私は、「苦手なことやイライラすることはプロに金を払って解決してもらうのが一番だ」という考えに至り、その後もさらに追加でシッターさんに入ってもらうことになったのである。シッターさんがいてくれれば、都合の良いときだけ抱っこをして、子どもが泣き出したらすぐにシッターさんに交代してもらえるので、好きな分だけかわいがることができる。私も妻も、シッターさんが来てくれるようになってから子どもをかわいいと思えるようになった。特に3ヶ月を過ぎたあたりから、笑顔を見せてくれるようになるとめちゃくちゃかわいい。


こんなものはやってられない

ドラッガー先生のマネジメントの教科書にはこう書いてある。

「強みのみが成果を生む。弱みはたかだか頭痛を生むくらいのものである。 しかも弱みをなくしたからといって何も生まれはしない。 強みを生かすことにエネルギーを費やさなくてはならない。」

経営や仕事ではこれが当たり前とされているのに、なぜ育児に関してはこれが守られないのだろうか。私には甚だ疑問である。

「家庭にビジネス感覚を持ち込むな!お前は親失格だ!」

と言われればそれまでだが、子育てや家庭の在り方については様々な価値観が認められている以上、家庭にビジネス感覚を持ち込む価値観も認められてしかるべきである。

それよりむしろ、知人の社長などで子育てがきっかけで奥さんがうつになったり、夫婦の時間がとれなくなったり、はたまた夫婦の仲が悪くなったりして、結果的に不倫したりして家庭崩壊するケースを多く見てきた。「育児は親がやるべきだ」という社会的圧力に押されるあまりに、自分のキャパシティ以上の仕事を引き受けて、結果的に子供に迷惑がかかるのであれば、それこそ親失格である。

できることはやる、できないことは任せる。至極当たり前の論理を育児の現場にも適用すべきなのではないだろうか。

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