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考えたこと。(エッセイ)

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2016年6月の記事一覧

練習

***1日目***

空き家だらけの町だった。立ち並ぶほどの家々があるにもかかわらず、ひそひそと冷たい空気で街路が満たされている。人の気配がないから自然と息をひそめるが、それでもなおほとんどの物音がない。数件先、タバコ屋のある曲がり角、さきほど手押し車に体重を預けた老婆が曲がっていったような気もするが、それも定かではないしそれ以外に人を見た覚えはない。少し湿った漆喰の壁はもうほとんど朽ちている。も

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微かで一方的な、偶然の出会い ― 古本に挟まれた栞について。

 古本を読んでいると、思いがけないものと出会うことがよくある。本の内容のことではない。本の読者との出会い、とでもいえば良いだろうか。

 たとえば本の上下に黒いシミが浮かび始めているようなとても古い本の、冒頭数ページだけ引かれた鉛筆の線。時折書き込まれるメモ。こうしたものたちのおかげで、時に「フランスのある時代の人達がどのように本を読んでいたのか」についての本を読みながら、この本の持ち主がどのよう

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気味の悪い自分語りとか

*2015/6/5 (つまりほぼ一年前) の記事を修正したもの*

 そういう時期だから仕方がないといえば仕方がないのだけど、ここのところ、自分の物語を他人に向かって話せるようなものに書きかえる作業をしている。いらない要素は削って、できるだけ一貫した、他人にとって意味のありそうな物語を紡いでいる。

 ただ、〈いらない要素〉を削るという作業は、いらない部分をはっきりと意識することでもある。だから、

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減数分裂と2つの時間軸 ― 野田秀樹『半神』についての考察

*2014/12/8に公開したものを修正*

 先ほどの韓国版を見終えて、書かずに放り出していたことを思い出したのでメモ程度に。

 『半神』の大きなモチーフに多分減数分裂がある。

 そもそも『半神』は人間の誕生を描いた物語であった。10年は10ヶ月、そしてその期間を経ての誕生がラストシーンで予兆される。双子は1人の「人間」として生まれる。

 灯台の形が二重螺旋構造になっていることに注目しよう

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社会について占うこと。 ― 占いと社会学について ①

 とくに構想はなく、思いついたことをおもいついた順番で書いていく。

 ただ、途中で筆が進まなくなってしまったので、途中まで公開。こういうことをした場合、大体続きが書けないままになるんだよな……。

*****

 身近に占いが好きな方がいる。その人は自分のこれからの運勢だけではなく、自分の性格まで占いによって明らかにしようとする。別段珍しいことではないと感じるかもしれないが、自分自身の性格を占い

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スガシカオと山崎まさよしの狭間で ― 恋愛について。

***2012/6/10に書いた記事に、2014/3/24に追記したものを、さらに今回修正したもの***

―2014/3/24追記分―

 「純愛」は存在するのか。

 というテーマで2年前に書いたもの。少し加筆・訂正したくなったので、新しく記事にしてみた。

 なんというか、いまの自分には、こういうものが書けそうにない。「記号」「指示対象」「セカイ系」「物語」……どれもこれも、イマイチ使うのを

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