シンガポールが下り坂に突入したことを感じ取れたのは自分が日本人だからだった

私は日本で10年以上サラリーマンをし、シンガポールに来てからもサラリーマンをしています。たびたびメディアを賑わせている富裕層のシンガポール移住と言った類のものではなく、日々家賃やら子供の教育費やらに頭を悩ませているごく普通の金銭感覚を持った人間です。

そんな私がシンガポールに来て思ったのは「確かにこの国って稼げるわ」ということでした。私は社会人になってからずっとIT・インターネット業界で働いているのですが、シンガポールに来る前にやっていたような仕事をシンガポールに来てからもやっています(というかその仕事の経験があったので今回転職が決まりシンガポールに来れました)。日本にいた時と同じ仕事をシンガポールでしただけで、年収が約1.5倍になりました。そしてシンガポールは所得税がとても低いので、手取り率も約1.5倍になり、最終的に手取り金額が倍以上になりました。このような金額を、私のようなレイドバックなサラリーマンが稼げてしまうことにはちょっとした衝撃を受けました。頭には「出稼ぎ」という言葉がよぎりましたが、「先進国であるはずの日本にいた日本人が外国に出稼ぎに来た」という構図が奇妙に思えましたし、その事実が少し寂しくもありました。

なぜ寂しかったのかというと、それはもちろん「日本の衰え」を肌で実感してしまったからです。このまま日本はズルズル行ってしまうのか、豊かなシンガポールにずっといた方が良いのか、そんなことを考えていたときがありましたがこの時の私は時代を点でしか捉えてなかったと思います。ある時から時代を波で捉えられるようになり、その結果日本に対して非常に前向きな考えになれました。

どの国も貧乏な時は多くの国民がハングリー精神を持ちます。そして国が発展し豊かになると、ハングリー精神を持った国民は贅沢をしたくなります。美味しいものを食べたり、おしゃれな服を着たり、旅行に行ったりします。その結果次の世代は親の世代よりも間違いなくハングリーではなくなります。そして国の勢いが鈍化するのです。でもそれで良いのだと思います。多くの人にとって幸せになることが目的であり、ハングリーであり続けることは目的ではないのですから。幸せになるために貧乏な人はハングリーになり、努力を重ね豊かになるのです。そして子供にはおもちゃを買ったり習い事をさせたりして喜んでもらおうとするのです。国が豊かになっていく中で親の世代も子供の世代も孫の世代もずっとハングリーでい続けることなど非現実的だと思うので、世代をまたいで国が急速な発展を続けるのは大変難しいのだと思います。実際に、シンガポール人の友達が「今のシンガポールの子供達は甘やかされて育っており、親の世代と比べると全然ハングリーではない」と言っていました。これは私が子供の時に周りにいた大人が言っていたことです笑 私は感覚的にシンガポールの勢いはちょうどピークが過ぎた頃で、世代が入れ替わっていくなかで成長が鈍化していくんだろうなと思っています。

ではいつハングリー精神を取り戻すのか、それは国が貧しくなった時でしょう。日本はその時期に差し掛かっているのだと思います(バブル崩壊後30年以上かけて国際競争力がズルズルなくなりつつも、世界的に見たら未だに最も治安が良く豊かな国の一つに踏みとどまっているのはすごいと思いますが)。しかしながら日本で若い世代がハングリーとなりエネルギーを爆発させるには、老人の存在が足枷となっています。老人が足枷になるのはシンガポールも同じだと思います。結局国が豊かになると平均寿命が伸びていき、出生率が下がり少子高齢化社会になるのです。既にシンガポールはその傾向が色濃く出ており、国民の人口動態の中で未成年人口がボコっと凹んでいます。かつては冒険心を持っていた多くの若者が保守的な老人となり、それが国の更なる発展を阻むことになります。今シンガポールの税金が安いのは、日本では歳出の大部分を占めている国の医療保険がないからです。かつてはアメリカもそれがありませんでしたが、国の高齢化とともにあまりにも多くの医療サービスを必要としている人たちがそれを受けられないことを問題視する声が大きくなり、大議論の末オバマケアができました。シンガポールも同じように少子高齢化が進むことによって歳出がかさむ政策を打ち出すことになるのだと思います。その時は医療に加えて軍事も議題に上がるでしょう。今現在シンガポールの男性は二年間の兵役を義務付けられていますが、少子化が進んだ時兵役に集まる人数は減っていきます。そうなると常時税金でまかなっている職業軍人の数を見直したり、より多くの予算を最近兵器に使わないといけなくなるかもしれません。

日本はシンガポールより一世代先をいっています。つまり少子高齢化問題が末期を迎えつつあるのです。戦後のベビーブームで生まれた世代がもう十数年もするとほとんどいなくなるでしょう。治安や社会福祉の水準は今よりさらに低下しているでしょうがその時こそ、日本の若者が再びハングリー精神と冒険心を持ち活発になり、バブル崩壊後半世紀近く続く低度成長の波が高度成長の波に切り替わるタイミングだと思っています。この明るい日本の未来を担う多くの若者の一人として、自分の子供には思いっきり日本で暴れてほしいです。だから子供の「日本人としてのアイデンティティ形成」が非常に重要になるタイミングで日本に帰国することを検討しています。


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