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木村花さん訃報 スタジオの発言から考えるテラハの問題点

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ツイッターで「女子プロレス・木村花選手が死去」という文字を見ても、私はすぐに信じることができなかった。つい先日、テラスハウスの番組で彼女を観たばかりだった。元気発剌だった22歳の彼女に「死去」という文字はあまりにも似合わない。

彼女が初めてテラスハウスに登場したとき、その人懐っこい笑顔や素直さに惹かれた。

この人がこの番組でどんな恋愛をするのか、見てみたい。そんな欲望を抱いた私は、木村さんが登場する全ての回を視聴している。

好きな人に照れながらも健気にアプローチし、相手の反応に一喜一憂する。そんなピュアな彼女を見ていると、自分の過去の恋愛を思い出すこともあった。

彼女に共感すると同時に、22歳という若さで恋愛の一部始終を全世界にさらけ出してしまって大丈夫なのかと、どこかで心配もしていた。私は木村さんより年上の28歳だが、もし同じ状況に置かれたら、耐えられる自信はない。

次第に、彼女はネット上で執拗な誹謗中傷を受けるようになり、傷つけられていった。各種報道によると、誹謗中傷が急増したのは、付き合いかけていた男性出演者との大喧嘩が発端らしい。

そして、死去の報道。私はSNSでテラスハウスについて語ったことは一度もないが、毎週、視聴してきた身として、自分に責任の一端があるように思えてならない。

なぜ、こんなことになってしまったのか。「テラスハウス」という番組の構成から、考えてみたいと思う。

辛口多めのスタジオメンバー

テラスハウスは「台本がない」という前提のもと、同じ家で暮らす男女6人の恋愛模様が描かれるリアリティショーだ。番組は1回45分程度で、合間に3回ほど、スタジオのメンバーが視聴者に近い目線で、内容を語り合う場面が入る。

スタジオメンバーはYOUさん、トリンドル玲奈さん、徳井義実さん、山里亮太さん、馬場園梓さん、葉山奨之さんの6人。このレギュラーメンバーに加え、時おりゲストも加わる。

スタジオで交わされる言葉は、出演者を褒めるものもあるものの、半分以上は批判したり、揶揄したりするもの。ときには性的に貶めることすらある。明らかにネット上の誹謗中傷を扇動する言葉も、堂々と放たれてきた。

「(出演者について)何様なんだよとかって思う人っていないですか? いる方はSNSでお話ししましょう」(山里)

「(出演者に対して)マジ、ネットで叩きますから」(山里)

「(女性出演者の)水着を見たい」(全体で)

「音楽の人(ミュージシャンなど)たちさ、今まで何人か(テラスハウスに)出たじゃん。成功したこと一個もないの知ってた?」(YOU)

「〇〇(女性出演者の名前)が〇〇(男性出演者の名前)をもてあそんだんです」(YOU)

「(男性に好意を表す女性出演者に対して)どこで培ったんですかね、その技術」(山里)

「(女性出演者に対して)キャバクラみたい」(全体)

こうやって並べてみると、ベテランの域に達した芸能人たちが、一般人の若者にぶつけている言葉だとはにわかに信じがたい。

「お決まり」の女性のヒール役

また、テラスハウスでは女性出演者の一部が「ヒール役」に仕立て上げられることも恒例になっていた。一度「ヒール」として認定されてしまうと、その出演者が何をしても、スタジオメンバーは批判するようになる。今回のシリーズで、ターゲットにされたのは水越愛華さんだ。

22話の頃から、男性出演者へアプローチする水越さんに対して「キャバクラ嬢みたい」と、スタジオメンバーが言うようになる。

男性出演者と食事に行けば「奢られ慣れている」と山里さんが言い、それに対して馬場園さんが「あんなに美味しそうなお寿司を食べていて、はしゃがないんだね」と返す。

男性出演者と外食をした際に、お店にピアスを忘れたことを水越さんが話しただけで、他の女性出演者にマウントを取っていると決めつける。

その後も男性出演者との距離の近さを理由にYOUさんが「これ絶対セックスしていますよ」と断言するなど、水越さんの性生活まで憶測するようになる。

山里さんがNetflix Japanの公式YouTubeチャンネルの中に持っている、出演者を単独で辛口批評するコーナー「山ちゃんねる」でも、水越さんが新しく入居した男性出演者の前で可愛く振る舞い、「マーキング」していたとしてこき下ろされていた。

そうした中で、山里さんの言動やSNSでの誹謗中傷に水越さんが傷ついているという情報が、スタジオに届けられた。すると山里さんは、「泣くなら見るな 見るなら泣くな SNS」という言葉を、水越さんにぶつける。

その後も、根拠のない言いがかりをして、スタジオで水越さんの人格は貶められていった。

根拠もない、第三者のイメージだけで「悪人」と決めつけるのは、あまりにも、ではないだろうか。そうやって誹謗中傷を誘導しておきながら、「泣くならSNSを見るな」と言って済ますのは、影響力を持つ人間としての矜持がない。

水越さんがこれから就職活動なども控える一般の大学生であることを、スタジオメンバーは忘れているのではないだろうか。

また、こうした批判がなされること自体、日本における女性観の歪みを再認識させられる。仮に、スタジオメンバーが決めつけたように、水越さんが恋愛経験豊富で自分の見せ方を考えるのが上手い女性だったとして、一体何が悪いというのか。

山里さんが演じ続けてきた「卑屈な非モテ男性キャラ」

こうした女性出演者に対する批判の先鋒を担っていたのは、山里さんだった。

山里さんの発言は、明らかに女性の出演者に厳しい。これは他のスタジオメンバーも感じているようで、山里さんが女性を批判すると周りが「また出た」と反応することも度々ある。

こうした攻撃的な言動が、スタジオや世間で「コミカルな笑い」として長らく受け止められてきた背景には、山里さんが演じてきた「恋愛に慣れていないがために、女性を前にすると卑屈になり、つい暴言を吐いてネットに悪口を書いてしまう」という「卑屈な非モテ男性キャラ」があると思う。

恋愛弱者が、強者である美人な女性に一生懸命噛み付いている──そんな「ほのぼの劇場」を皆で楽しんでいるだけだ、という認識だったのではないだろうか。

だが、よく考えてほしい。いくら山里さんが「非モテ男性」を演じようとも、現実にはレギュラー番組を11本抱え(2019年時点)、莫大な影響力を持つタレントだ。

一方、テラスハウスの出演者は、就職活動を控えた大学生であったり、駆け出しの俳優の卵であったりする場合が多い。こうしたまだ無名の若者を、ある程度の地位を築いた人間が、舌鋒鋭く批判するという構図は、容認されていいのか。

忘れてはいけないのは、こうした立ち位置を山里さんが取るのは、番組制作陣や他のスタジオメンバーから要請を受けている可能性もあるということだ。

というのも、シリーズの最中で山里さんが結婚したときに、YOUさんや徳井さんなどをはじめとする他のメンバーが「結婚後もクズなコメントをしてくれるんですね?」「よりモンスターみたいな方向(のコメント)がいいな」と、山里さんに引き続き出演者をこき下ろすことを期待する発言をしていたのだ。

本人が自らその役割を買って出たのか、番組制作陣から指示されていたのか、視聴者側からは全く分からない。番組はこうした「設定」に至った背景を、早急に説明する責任がある。

テラスハウスは誹謗中傷を扇動したのか

上記からテラスハウスという番組の構成をシンプルにまとめると、

「一般人である出演者が、テラスハウスでの生活を余すことなくさらけ出し、それを影響力のある芸能人たちがメッタメタに批評する。視聴者はその批評も含めて楽しみ、SNSで意見を投稿し合う」という表現が妥当であろう。

テラスハウスは、「他人をジャッジしたい」という、誰もが持つ支配欲に応えた番組だと思う。私が木村さんの恋愛模様を見てみたいと思ったのも、「素直でピュアな花ちゃんの恋愛を見守りたい」という、上から目線のおこがましい欲望からだった(私のこうした欲望を、ネットでの罵詈雑言を撒き散らす人の欲望と同列に並べられるのは心外ではあるが、根源的な部分は同じものだと認識している)。

そうした欲望のはけ口を提供してきたのは、何もテラスハウスだけではない。週刊誌、テレビ、新聞といったメディアもそうした人々の欲望に応えたコンテンツを発信し続けてきた。

ただ、テラスハウスが特異なのは、無名の、しかも社会経験の少ない若者たちに欲望が向かう点だ。

そうした群衆の欲望を体現し喚起する存在である山里さんが、スタジオトークの先導役となり、一人だけで語る「山ちゃんねる」という枠まで与えられていることからも、番組制作陣に誹謗中傷を煽る意図があったと言われても、仕方がないだろう。

番組の見直しは急務

今回の件で、山里さんを批判するのは負の連鎖を生み、次の被害者を出すという声もある。確かに、山里さんも番組制作陣の要請や視聴者の欲望に応えようとしているだけの、被害者という考え方もできるかもしれない。

しかしだからこそ、こうした悲劇を繰り返さないためにも、関係者をこれ以上苦しめないためにも、テラスハウスが孕む危険性や、スタジオメンバーの発言の問題を曖昧なままにせず、しっかり指摘する必要がある。これは、テラスハウスという番組にハマり、毎週見ていた私自身の責務だとも思っている。

私たちは人を批評するとき、自分がその人より賢くなったような気分になり、優越を感じる。誰もがそうした攻撃性を抱えているのだ。

そして、そうした攻撃性は、人を死に追いやることもある。

だから私たちは、個人レベルでも社会レベルでも、攻撃性を意識的にコントロールしていかなければならない。

そうした攻撃性をわざわざ引き出すようなコンテンツは、やはり見直されるべきだろう。

今からいくら見直したところで、木村さんがこれから送るはずだった人生は、もう戻らないのだが。

最後に、木村さんのご冥福をお祈りします。

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執筆=北原窓香
写真=Unsplashより

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