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子どもが嫌い、も真っ当な理由。NZの若者が答えた「なぜ子どもが欲しくないのか」

「子供は持ちたくない、なぜなら……」ニュージーランド(以下、NZ)のパフォーマンス・アーティストVixenTempleがInstagramに投稿した質問に、様々な答えが集まった。

ニュージーランド統計局の調査によると、2018年のNZにおける出生率は1.84。日本などに比べると遥かに高いものの、緩やかな減少傾向にある(なお移民の流入により人口そのものは増加し続けている)。

NZ同様、出生率が下がり続ける日本では、金銭負担や将来の不安から、子供を望んでも作れない、現在の子育てが厳しくこれ以上は持てない、特に女性にとって子育てと仕事を天秤にかけざるを得ないなどの意見は多くみかける。

これは筆者の主観によるものだが、なんらかの社会的理由により(本来は子供が欲しいが)諦めるという意見の方が、特に少子化を危惧する文脈で話され、共感される事が多いように感じる。一方で、これらの意見には、「特別に理由がなければ多くの人は子供を望むもの」といううっすらとした前提を感じる。

そんな中、Vixenの質問に「親になることが想像できない」といったストレートな回答が集まったことを新鮮に感じた。この質問を投稿した理由と、集まった回答の背景についてVixenに尋ねた。

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ーーどうしてこのような投稿を?

Vixen :最初に子どもは欲しくないと思ったのは大学生の時。パフォーマーとしてのキャリアを追うために、子どもは欲しくないとはっきり分かった。私の母は母親になるために生まれてきたような女性。今でも彼女とは良い母子関係を保っている。一方で父は父親になる気はなかった人。その結果、私は他人の親子関係を理想化してきた。

私たちの親世代には、積極的に子どもを望んだ人だけでなく、なんとなく流されて、社会的ステータスとして、再生産のサイクルとして子どもを持った人が少なくないように思える。私たちは社会全体として子育てがどれだけ大変な行為かを認識せずに、子どもを「嗜好品」のように捉えてはいないか。その結果、多くの人々が精神的困難やトラウマと闘いながら子育てをしているように見える。

私も子どもは好きだし姪っ子や甥っ子を可愛がっている。でも正直なところ四六時中こどもの面倒を見れるとは思えない。私にとっての社会貢献は、芸術などを通してマイノリティーが安全に暮らせる社会を目指すことで、自身が親になることではない。

2019年に中絶を経験した。自分の意思に反して母親になることは恐ろしかった。そう思うの自分だけでないはずだと思い、「子どもがほしい? ほしくない?」と当時のブログに投稿した。その中で、子どもを望む人に比べて子どもを望まない人、特に女性たちは、明確な理由を求められているように感じ、改めて今回子どもを望まない人にその理由を聞いた。

ーーどんな回答があった?

Vixen:直球なものでは「自分が親になる姿が想像できない」という回答が多かった。これには共感するし、これ以上の説明を強いられる必要もないと思う。むしろ責任の重要さを考えれば、親になりたいと思う人ほどその理由をよく考える必要があるのではないか。

他に多かったのはメンタルヘルスに関係する理由。「自分が親から辛い目にあったから」「世代間で受け継がれるトラウマは自分の世代で最後にする」など。自身と次の世代のことを深く考えた決断だと思う。

一方で、本当は子どもを望んでいる(かもしれない)が、様々な理由で諦めるグループもいた。「子育てにかかる費用が高すぎる」「気候変動や格差の拡大が深刻になる今の世界に子どもを生活させたいと思えない」など。

「子どもが嫌い」、これだって全うな意見だ。個人的には子どもは好きだけれど、誰もがそう思うわけではない。このような意見が自分勝手だとも言われかねない世の中だが、自分の考えを認め向き合えるのは勇気のある行動だと思う。

ーーニュージーランドでもまだ子どもを持つことへの社会的なプレッシャーはある? それとも社会の「当たり前」は変化している?

Vixen:NZには「子どもを持つ家族」の理想を強く引きずりながらも、そのような圧力はない、先進的な社会かのように振る舞おうとしているかのように見える。特に女の子には、子どものおもちゃ売り場で「女の子向け」のコーナーにはお人形や家のセットなどが並べられ、家族ごっこなどをすることが賞賛される場面が確かにある。一方で若い世代を中心に変化の兆しも感じる。

今のニュージーランドで「仕事に専念したいから親にはならない」と言って非難されることは少ない。一方で、「でもそのうち気が変わるかもよ?」というような反応は多くの人が経験する。

私自身も言われたことがある。中絶をしたあとにカウンセリングを受けたときのこと。病院では「またカウンセリングが必要になったら連絡をして」と言われたので、中絶による身体のトラウマなどについてかと思っていたら「そうじゃなくて、いつか中絶したことに罪悪感を覚えて後悔するかもしれないから」と。

医者には子どもは欲しくないとはっきり伝えたが、気が変わるかもしれないからと言われた。私の義姉は恒久的な避妊のために卵管結紮術の希望を医師に出したが「将来夫が子どもを望むかもしれない」という理由で拒否された。

ニュージーランドは確実に変化しているけれど、今でも中絶反対のプロテストを見かけるし、親になりたくないと言うと非難されることもある。家族観や親になることへの期待には、キリスト教的な圧力を確実に感じる。

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NZの子育て事情も完璧ではないものの、出産費用は無料、18歳まで医療費無料、大学も低コスト化に向かうなどの支援がみられる。有名所では現役の首相は就任直後に出産、現在2歳半の子どもがいて、パートナーのクラーク氏が専業主夫として主に子育てをしている。

私は現在24歳、偶然子宮は持ち合わせているが、妊娠出産は望んでいない。子供を望むことに理由を聞くことは少ないが、そうでない場合多くの理由を求められる。何か証明しなければならないかのように。

私は子どもを持ちたくない理由は多くあるが、持ちたい理由は特にない。ただでさえ体調不良が多いのに妊娠出産の苦労をしたいとは思わないし、移民労働者である身としては自身の将来ですら不安定要素が多すぎる。世界は人口爆発を続け、気候変動による危機は年々増している。

一方で私は子どもが好きだし、多くのフェミニストの仲間たちと同じように、自身が子供を持たない一方で、生まれてきた子どもたちとその家族のより良い未来のために、できるだけのことをしたいと思う。気候変動対策を求めてストライキに参加するし、よりよい福祉や教育を求めて選挙に行く。保育や教育に関わる職業にも興味がある。もし縁があれば里子や養子も考えている。

個人が、特にカップルのうち妊娠出産を担う人が、子どもを望まないという考えは他人に正当性を求められるものではなく、子どもが欲しいという意見を同じくらいごく普通に受け入れられることを私は望む。

出典:Parenting and fertility trends in New Zealand: 2018(Stats NZ)

執筆=おはな
画像=Unsplashより

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