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「海外コスメ好きはフェミニストが多い」って本当? 当事者たちに聞いてみた

2020年12月にMediumへサイト移転をしました。移転先で記事を読む

20代女性のクック村長さん(アカウント名)は、肌の色に合うファンデーションを探す内にそのブログに行き着いた。

「肌の色が明るくて、日本でなかなか合うファンデーションが見つからなかったんです。そんなときに、海外コスメのファンデーションはアンダートーン(*1)のバリエーションが豊富だって書いてる方のブログを見つけて。そこから、海外コスメを自分で輸入して使っている方たちがいることを知りました。

その方たちと交流したいって思って、専用のツイッターアカウントを作ったのが3年前です」(クック村長さん)

*1……肌の色味のこと。

日本で輸入販売されておらず、手に入れる上で個人輸入する必要がある化粧品はツイッター上で「海外コスメ」と呼ばれる。海外コスメの世界はクック村長さんにとって衝撃的だった。

「日本の美容業界では絶対アラは修正されるし、『 “かわいい”を目指すべき』という価値観が根底にあるじゃないですか。実際、『女性は痩せてて白くて黒髪でぱっちり二重じゃないといけない』って自分も思っていたし。だから、海外コスメブランドのルックを見たとき、『こんなにさらけ出していいんだ』『こんなに個性的でいいんだ』っていうのが新鮮で。

コスメアカウントを通じてできた友人に、フェミニズムの話をする友人が何人かいました。その友人たちの発言を見て、もしかしたら、私がこれまでモヤモヤしたことってフェミニズムと関係あるのかもってピーンときて。そこから興味を持ったって感じです」(同前)

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ツイッター上の海外コスメ好きのコミュニティを通じてフェミニズムに関心を持ったという女性はクック村長さんだけではない。 

2年前にコスメアカウントを作った20代女性のkobinさんは、顔が一部写った写真をアップしたことでバッシングを受けたことがフェミニズムに関心を持つ契機となったという。

「自分の考える"かわいい"の基準に達していない誰かが一部から褒められて認められるのが許せず、更にその怒りを本人にぶつけてしまう、そんな人たちがいることに気づいたんですよね。背景には、日本文化のルッキズム(*2)があるのではないかと思いました。

それをきっかけに情報収集の幅を広げて、ルッキズムに縛られない発信する方が多い海外コスメ界隈の方をフォローするようになったり、フェミニズム関連の話題に興味を持つようになりました」(kobinさん)

*2……身体的に魅力的でないとされる人を差別する考え方。外見至上主義

ツイッターの海外コスメコミュニティにはフェミニズムに関心を持つ人が多いといった言説を、筆者は何度か目にしてきた。コスメアカウントを作る前からフェミニズムに共感していたという、20代女性のきな粉さんはこれに同意する。

「いくつかの“界隈”をツイッター上でフォローしていますが、これだけ日常的にフェミニズムの話題が流れてくるのは海外コスメ界隈だけだと思います。

パーソナルカラー診断が好きなので、パーソナルカラー好きの方もフォローしていますが、私がフェミニズム関連のツイートをするといいねしてくれる方はいても自らツイートされる方はあまり見たことがない。

あと、ある男性K-POPアイドルのファンの方たちをフォローするアカウントも別に持っているのですが、そっちでもフェミニズム関連の投稿はほとんど見ないですね。ファンの年齢層が若いことも関係しているかもしれませんが」(きな粉さん)

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今月9日、検察定年延長問題をめぐり「#検察庁法改正案に抗議します」というハッシュタグが数百万件投稿された。同ハッシュタグを投稿するアカウントが海外コスメ界隈では多数見られた。他の “界隈” に比べ、政治的な投稿が多いのも海外コスメ界隈の特徴だという。

「ソーシャルゲームのファンの方をフォローするアカウントを持っていますが、もう(海外コスメ界隈とは)比べものにならないですね。そっちではまったく(ハッシュタグは)流れなかった」(kobinさん)

「好きなアニメのファンと交流するアカウントを持っています。ハッシュタグは、まれ〜に見るくらい」(クック村長さん)

こうなってくると、気になるのはなぜ海外コスメ好きにフェミニズムに関心を持つ人が多いのかということ。ひょっとして、 “界隈” にフェミニストが多いから、影響されてフェミニズムに関心を持つ人が増えるのかと聞くと、kobinさんは否定する。

「それは違うのかなって思います。私自身、フェミニズムに関心を持ったのは海外コスメに触れてからですが、海外コスメ自体には、居心地のいい水を求めていたら泳ぎ着いた、という感じがするので」(kobinさん)

きな粉さんも海外コスメ界隈の「居心地の良さ」に同意する。

「『リアルの知り合いがいないから発言しやすい』っていうだけなら、K-POP男性アイドルを追っかけるアカウントのほうでももっとフェミニズムについて投稿すると思うんですよね。でも、実際にはコスメアカウントで一番フェミニズムの話をしてる。

なぜかと考えると、自分のフェミニズムへの気持ちがコスメと関わっているというのもあるけど、それ以上に日常的にツイートにフェミニズムの話題を差し込んでいる人が海外コスメ界隈には多かったから。それを見て『ここはそういうことを話していい場所なんだ』って思ったのが大きい」(きな粉さん)

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もちろん、海外コスメ好きの間でも、フェミニズムに対する受け止め方は決して一枚岩ではない。

「フェミニズムや政治の投稿にリプライとかで直接反論が来たことはありませんが、投稿後にフォロワー数がごそっと減ることはありますね」(kobinさん)

「#検察庁法改正案に抗議します」をめぐっては、一部のツイッター上の趣味コミュニティで「趣味と政治は分けるべき」との声も挙がった。フェミニズムについて発信することで、「コスメが好き」という点で団結できていたコミュニティが分断される……そういった危惧はないのだろうか。

「個人的には、コスメやファッション、芸術はすべてフェミニズムにつながっていると思っているので、分けて発信しようとは思いません。それに、人にはいろいろな面があって、合う面も合わない面もある。現実世界ではそれでも他人と仲良くやっていけるわけだから、ネットでそうできない理由はないと思います」(クック村長さん)

今回話を聞いた女性は3人とも「リアルな場ではフェミニズムについて話しづらい」と口をそろえた。それでもツイッターの海外コスメコミュニティでの経験は、現実世界に波及していっている。

「友人にパートナーとの関係への疑問を打ち明けられたときに、『それってフェミニズムで理解できるかも』と伝えました。今は夫とも、よくフェミニズムの話をしています」(同前)

「友達にフェミニズムの話をするのはいまだに躊躇するけど、たとえばセクハラ的な発言や男尊女卑的な発言があったらちゃんと突っぱねたりできるようになりました。

リアルの場で女性の権利のために活動することってすごく大事だし、そういうことをしている方を応援しているんですけど、いきなり100パーやるのは難しいじゃないですか。

ちゃんとやっている人からしたら『そんな気軽にやってるんじゃねーよ』と思われてしまうかもしれないけど、この気軽さがとてもありがたくて。コスメアカウントでの活動は、今の自分にできるフェミニズムだと思っています」(kobinさん)

取材・執筆=Sisterlee編集部・
写真=すべてUnsplashより

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